ODD

巫夏希

第十三話 さようなら、ハイダルク

 フル達はハイダルク国軍第一近衛師団長のゴードンに連れられ、王の間の扉の前にやってきた。
 
「ここが王の間です。粗相のないようにお願いします。」
 
 ゴードンは三人に問いかける。
 
「わかってます」
 
 三人は声をそろえて答える。
 フルは改めて扉を見た。
 とても大きな扉で真ん中に竜の紋章が象られていた。
 とても息苦しくなった。
 緊張のせいだろう。
 一国の主、しかも形式上は世界のトップに謁見するのだから。
 
 
 ギィィィィィィ
 

 扉がゆっくりと開いていく。
 扉の中はとても広々とした部屋だった。
 天使をかたどったステンドグラスに日が入り、色鮮やかな影を映した。
 王の椅子までレッドカーペットが続き、周りを多少の間隔をあけて兵士が並んでいた。
 そして4人は王の面前までやってきた。
 
「フル・ヤタクミ、メアリー・ホープキン、ルーシー・アドバリー…か。」
「はい」
「そう固くならんでよい。ラドームから話は聞いている。さて…」
「かくまうよう言われたが、城がいいだろう。少将。」
「なんですか」

 どうやら、『少将』とはゴードンのことらしい。
 
「城の宿屋に連れて行きなさい」
「Yes,Sir!」
 
 
 
 
 夜。
 
「う~ん…。」
 
 フルは寝ながら自分の思い出をもう一度思い出していた。
 10歳、8歳、6歳、4歳、記憶はどんどんさかのぼっていく。
 しかし、0歳になると、さっきのような状態になってしまう。
 
「…やっぱり、思い出せない…。」
 
 フルはあきらめて眠りについた。
 
 
 
 
 次の日。
 
 
 ドゴォォォォォォォォォン!!!!
 どこからか爆音が響き、フル達はそれで目覚めた。
 
「何だ!?」
 
 フルがパジャマのままで出てきた。
 メアリーやルーシーも同様だ。
 と同時に、
 
「みなさん!」
 
 ゴードンが走ってきた。
 
「何があったんです?」
 
 メアリーが訊ねた。
 
「玉座の方に爆撃を受けました!!北からメタモルフォーズの大群がやってきます!!」
「急いで逃げて…」
 
 とここまで言いかけたゴードンの口をフルは手で止めた。
 
「戦います。やつらと、」
「し、しかし……」
 
 フルはゴードンを強いまなざしで睨んだ。
 
「…わかりました。5分後に砲台の前に来てください」
 
 そう言ってゴードンは走り去った。
 




 五分後、フル達は砲台の前に集合した。

「見て下さい。あれを」

 ゴードンが北の遠くを指差す。
 大量の粒が此方に向かってくる。

「これをお使い下さい」

 兵士のひとりが望遠鏡を差し出した。
 フルはそれから向こうを覗く。

「…本当だ」

 フルが見たのはエルフの森で見たような獣、しかし翼が生えている、が10~20匹、そして他の獣と明らかに違うフォルムが一体、恐らく頭だろう、があった。

「…どうしたの?フル」
「凄いたくさんいる」

 するとルーシーが、

「奴ら…ここを潰す気なのか!!」
「…しかし、どうしましょう?私たちはあの時は一体だったけど、こんな大量に…」

 とメアリーが言ったその時。

「ここに居たのね。ヤタクミ。」

 と声が聞こえた。

「この声…」

 フルは後ろを振り返った。
 そこには、あのA-1クラスのサリー先生がいた。

「サリー先生!」

 三人は声を揃えて言った。

「久しぶりね。三人とも。」
「どうしたんですか?」

 メアリーが聞いた。

「校長先生が、ね。あ、こんなことしている場合じゃないわね!早く逃げなさい!」
「え!?」
「あのメタモルフォーズたちは私に任せなさい!」
「え…でも…」

 フルは躊躇った。

「え、あの獣ってメタモルフォーズっていうんですか?あの『偉大なる戦い』の?」

 メアリーは言った。

「そうよ!でも今はそういう事を話している暇はないわ!いいから逃げて!!」

 この時、フルは気付いた。
 兵士長のゴードンが居ないことに…。

「行きましょう」

 兵士に促され、フル達はその場から逃げ去った。




〔通路〕

 コツコツコツ…。

「あの、」

 フルは疑問に思っていた事を聞いた。

「ゴードンさんは?」
「兵士長は…、今兵士詰所にいると思いますよ」

 と兵士が後ろを振り返ると、

「いない…」

 フルだけが忽然と消えていた。

「兵士詰所に向かったのか!?」

 ルーシーは言った。

「兵士さん」

 メアリーは続けて言った。

「その詰所って何処ですか」





〔兵士詰所〕

 コンコン


「…どうぞ」


 ガチャ
 中に入ってきたのはフルだった。

「ヤタクミさん。どうしました。てっきり逃げたのかと…」
「何を言う。本当は俺らに逃げて欲しくないんだろ?」
「…何を言うんです」
「あんた、朝に僕たちに言ったよな。『メタモルフォーズ』が来た、ってな。」
「…えぇ、でもそれが?」
「しかし、あれがメタモルフォーズとは誰も最初は分からなかったはずだ。あんた以外の者はサリー先生に言われてようやく理解したくらいだからな」
「…何が言いたいのです」
「あんた…人間じゃないだろ?」


 ピクン
 ゴードンが表情を変えた。

「ククク…。流石は『予言の勇者』ってわけですか」
「いかにも!」


 メキメキメキ…。


 ゴードン、いやその皮を被ったメタモルフォーズがどんどん姿を変えていく。

「フル!」

 メアリーとルーシーがようやく兵士詰所に辿り着いた。

「な…何だよ。こいつ…」
「エルフの森の獣と同じようね」

 そして、その獣、いやメタモルフォーズは言った。

「いかにも、我は氷のメタモルフォーズ、アイスン!」
「ってことは炎だな。」


 パン!


 フルが手を叩いた瞬間、雨が降り注いだ。

「そんな!屋内なのに!?」
「バーカ、良く見ろ」

 天井を見るとその部分だけ雨雲がかかっていた。

「錬金術ってなぁ、本当に便利だなぁ。気象をも操れるんだからなぁ。」
「『マジック・エッグ』か。」

 ルーシーは言った。

「くっ…。何度やっても魔術が打てない…。何でだ…。」
「お前は魔術に何も縛られる事なく使えると思っている!!」
「だから、弱い」


 ヒュッ!!!!


 フルの体に雹がぶつかった。

「フル!!!!」
「おやぁ?死んでしまったかなぁ?」

 アイスンは瓦礫を探る。

「ん、いたいた」

 アイスンが瓦礫の中から出したのはぼろぞうきんのようになったフルだった。

「…このままじゃ、やられる!」

 メアリーは考えた。
 炎の魔法を使わず、氷のメタモルフォーズを倒す方法を。
 そして、一つの方法に結びついた。

「フル!起きてる!?」
「起きてるなら、雷の魔法を奴に打って!」
「フル!!!!!」
「ふん。無理だな。」


 ポイッ


 アイスンはフルを放り投げた。

「もう虫の息だ。ほうっておいても死ぬ。」
「ねぇっ!フル!!」
「陣を書いているようだが、無駄だ」


 ドガァァァァン!!!!


「くっ!」
「残りはお前ら二人だ。なに、大したことはない。あっという間にけりをつけさせてやろう。」


 ニヤリ
 メアリーは逃げていく間も笑みを溢す。
 メアリーに何か秘策でもあるのだろうか?


「ねえ!!フル!!」







 みんなを…救いたい…。
 こんな所で…死にたくない!!






 フルの体を眩い光が包む。

「むっ」

 フルの体の傷がみるみる治っていく。

「…主は治癒魔法を覚えていないと言っていたな。これは予想外だ。」


 パン


 フルは手を合わせた。
 と同時に手が黄色いベールに包まれる。
 それをフルは雨雲に放つ。
 そして、


 ピシャーン!!


 アイスンに雷が落ちた。

「雷だけか?これだけで我が倒せるかと…」


 ジュウウウウ…


「ぬ?我が体が融けている!?炎は使われていないというのに!?」
「気付かなかったようね。アイスン」

 メアリーが言った。

「物質の最小単位である原子はいつも動かない訳ではない。その中には自由に動く電子がある」
「雷は当然電気、その電気の最小単位が電子、電子は摩擦しあって熱を出す…。普通ならとても僅かだけど、」
「もし『熱エネルギーを10000倍にする』という錬成陣を書いてそれを行ったら?」
「き…貴様ァァァ!!!!」
「代償も相当いるけど雷の持つ電気エネルギーでそれは代替出来る。そしてその熱で…ってわけ。」
「フフフ、フハハハハ!流石だ。流石は神の一族だな!!」
「!!」
「ちょっとそれどういうこと!?」

 メアリーは驚いた。

「逃げろ、メアリー、爆発するぞ!!」


 ドガァァァァン!!!!


 メタモルフォーズもろとも兵士詰所は爆発した。







 そして次の日。

「いやぁ、あの後に調べたらなんとゴードン…いやアイスンがあの化け物、メタモルフォーズの大群を操っていたらしい。とにもかくにも、三人ともよくやってくれた!」

 王からのお褒めの言葉だった。
 三人は「まぁ…」とかしか言わず照れくさい様子を見せていた。

「しかし、北、か…。」
「メタモルフォーズの大群がやってきた方角、ですね」

 メアリーは言った。

「あっちには北国『スノーフォグ』がある。昔はいい国だったらしいが…」
「ずいぶん前にリュージュという祈祷師が権力を握ってから国が変わった、と聞くな」
「分かりました」

 フルは言った。

「行く場所を…決めたのか」

 王が言った。

「ええ」


 ガチャ


 正門に向かって三人は歩きだした。
 後ろからサリー先生が走ってきた。

「サリー先生は、学校に帰られるんですか?」
「ええ、仕事が山積みだからね」
「ところで、何処に行くの?」
「スノーフォグです」
「『スノーフォグ』…。あそこは船がないと国を全部回りきれないわよ…ってハイダルクもいっしょね」
「スノーフォグに行くなら東の祠から行きなさい」
「はい!」

 三人は揃えて返事した。

「あ、それとこれ」

 サリー先生は自らが持っていた林檎のような木の実を渡した。

「これは…?」
「『知恵の木の実』っていうの。効果は…まぁ、持っていれば分かるわ。使いすぎに気をつけてね。」
「分かりました」
「それじゃあね」
「先生もお元気で!」
「皆もね!」

 サリー先生はフル達が見えなくなるまで手を振った。
 そして、フル達は北国『スノーフォグ』へ…。

「さて、それじゃあ私も、」
「ゆっくりと帰るかしら」

 と城の正門を出て、北、エルファスの村の方へ向かった。






〔王の間〕

 兵士が皆出払ったあと、

「ハイダルク王。」
「…リュージュか」
「お前の言われた通りに私はやった。」
「ご苦労様。」
「一体貴様はメタモルフォーズを使って何を…」
「…」
「『世界を変えること』とだけでも言っておきましょうか…。」

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く