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巫夏希

第二話 フルとメアリー


 フル・ヤタクミはメアリー・ホープキンに連れられて、ある教室にたどり着いた。
 フルはドアの上にかかったプレートを見る。

「…読めない……」

 当然だ。
 フルは先ほどの授業でも、黒板に何と書いてあるのか全く分からず、見よう見まねで文字を写していたのだ。
 しかし、最後に「1」という数字が使われていることだけは理解できた。どうやら、いままでの世界とこの世界で、数字は共通らしい。

「ああ…… 文字読めないんだったね。ここはAlcheme1番教室、通称A-1教室。専門科目はしばらくこの教室だから、覚えとくといいよ。」

 困惑していたフルに、メアリーはやさしく声をかける。
 フルはメアリーの言葉通り、この場所を覚えようとする。
 しかし、半ば強引に連れてこられたため、位置が全く分からない。

「あ、ありがとう」

 それでも、この言葉が心の奥から自然に出てきた。

「どういたしまして。じゃ、教室に入りましょ」

 教室に入ると、2人は隣り合わせに座った。

「えーと、錬成学の授業ね。大体のことは翻訳してあげるわ。授業後にも個人授業でばっちりサポート! こう見えても私、頭いいんだから」

 エヘン、と胸に手を当てていうメアリー。

「本当にありがとう。ホープキンさん」

 フルはそう言うしかなかった。
 この世界に迷い込んで数時間ではあるが、メアリーに助けられっぱなしである。

「だめだめ!『ホープキンさん』じゃなくて『メアリー』って呼んで。私たち、もう友達でしょ!」
「うん……ありがとう、メアリー」

 ガラガラ。
 トビラの開く音がする。
 先生が入ってきたようだ。

『授業始めるわよー。席に着きなさーい』

 言葉を発したが、フルには意味がわからない。

「授業始めるって」

 すかさずメアリーが翻訳する。

『今日は錬金術とは何かをお教えしましょう……』





 何事もなく授業は進む。メアリーは、分かりやすく噛み砕きながらフルに説明してゆく。
 よく見ていると、メアリーもフルと同じく左利きだった。

『……というわけで錬金術は無から有を作り出すことはできません。ここで問題です。えーと…メアリー・ホープキンさん!!』
『はい! 先生』

 フルに少し時間ができてしまった。
 メアリーに助けてもらわないと、今のところ何もできない。

『錬金術はある2つの法則に則った「等価交換」を基本としています。その2つの法則とは何ですか?』

 フルはさまざまな思いをめぐらせてゆく。

『えっと……自然摂理の法則と質量保存の法則です』

 フルの頭に1つの疑問が浮かび上がった。
 なぜ、メアリーは何もかも手伝ってくれるのだろうか?

『はい、正解です。この2つからわかることは……』

 メアリーは「やった!」という顔をして、左手の親指を立て、フルに見せてくる。
 フルは疑問に戸惑いつつも笑顔をつくり、親指を立ててメアリーに応じた。

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