ODD
第0.1話 勇気ある人々
気がついたら男は真っ白い部屋にいた。
「な、なんだ…?」
男はただただ驚くだけだった。
男の名は多沢雄一。
16歳。
"自分の世界"の最後の記憶を捻り出す。
…だそうとしたが、出なかった。
彼は名前と年齢以外、全ての記憶を失っていたのだ。
[そうよ]
ポワンといった音とともに一人の少女が出てきた。
栗色の髪。少し古いデザインのドレス、くりっとした目(べつにくりでかけた訳ではないが)の女の子。歳は雄一より年下、たぶん8歳くらいだろう。
[私はアリスといいます]
少女─いや、アリスは雄一に話しかけた。
「アリス…?」
雄一はまるであのルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』のようだ、と思った。
[あなたは]
次にアリスはとんでもない事を言うのだった。 
[『勇者』の一人に選ばれました]
と─。
「勇者…僕が…?」
[ええ]
「…どういうことだよ。僕の住む世界はどうなったんだよ。そもそも、アリス、君はなんなんだ!!」
[私は─]
ブウウウン
突然白い部屋が歪む。
「う、うわっ」
雄一は掴む…物を探したがそんなもの何も無かった。
「うわあああ!!!」
世界が、どんどん変わっていく。
小さな細胞、それが一つの『個体』となり、バクテリアのような物体が出来る。
気付けば周りは海だった。しかし息苦しくはなかった。
しばらくすると次は爬虫類─恐竜が出てきた。ティラノサウルスが雄一を踏み潰そうとしたが、雄一の体は透けていた。
火山が噴火し、恐竜が滅び、人が生まれた。氷河期、そして文明の興隆・滅亡。
時間のテーブルはさらに早くなる。
文明開化がおとずれ、蒸気機関。タイプライターが発明され、そして、平成、パソコン…。
そして、現代。
ロボットの反乱、原子力発電所が制圧、メルトダウン…。
「そうだ…。僕はあのメルトダウンで放射能を大量に浴びて…」
「死んだんだ」
雄一がいた部屋が白い壁でなく機械だらけになっていた。
[これが、私です]
奥から声が聞こえる。
そう、アリスの。
その声がするほうには巨大な機械があった。
ブウウウン
まるで3Dのように顔が出てくる。
[これが、私『アリス』です]
「えっ!?」
雄一は思わず後退りした。
[私はアメリカの国防総省、JAXAが共同開発して造ったコンピュータ。そう、私は]
[世界最高のコンピュータです]
(夢?)
一瞬雄一はそう思い、頭を殴った。
しかし、痛かった。
現実だったのだ。
「…世界はどうなったんだ。あのメルトダウンのあと」
[生き残った人類はロボットに狩られ、人間はロボットの奴隷と化しました。]
「そんな!」
「…まてよ」
「どうして、アリス─君は人間に反乱する事はないんだ?」
[私はプログラムに書き込まれたレールでここを選んだ訳じゃない]
「?」
[自らの意志で選んだのよ]
「コンピュータにも意志があるというのか?」
アリス─いやアリスというコンピュータに捻出された顔は笑った。
[あなただってそれはわかっているでしょう?]
「?」
[あのロボットたち─もし意志が無かったら反乱なんてしていないわ]
確かにアリスの言う通りだ。もしロボットとやらに意志が無ければ今回の反乱も起きなかったはず、雄一は考えていた。
[ところであなたに任務を頼みたいのですが、]
アリスは突然、雄一に言った。
「任務?」
[この部屋を含む世界には、あなたを含む5人の勇者がいます。あなたはそれらと協力して、倒さねばなりません。反乱分子を]
「5人もいるのか?この世界には?」
[ええ]
アリスが言ったと同時に扉が開く。
[だからあなたは見つけなくてはなりません。4人を]
「ところでアリス、君にはどんな情報が格納されているんだい?」
[地球の全てです]
「え?」
[地球が誕生してから今現在までの地球の記憶を格納しています。そして現在も…情報は蓄積され続けています]
「話は分かった。で、どいつを倒せばいいんだ?」
[『gedy』のルーニーというロボットです]
「ルーニー…。あぁ、あの電波介入のときにしゃべってたやつか」
[ええ]
[彼らはこの世界を死の大地とし、彼らもろとも人間を滅ぼすつもりでした。しかし、彼らはそれごときでは壊れることのない身体だったのです]
[さぁ、お行きなさい]
雄一はその声につられ、扉から外に出た。
「な、なんだよ。これ…」
雄一は驚いた。
そこには鬱蒼と生えるシダの樹があったのだ。
「僕は…あれ?」
入口が、見当たらないのだ。
「入口が…僕が入って来たはずの扉がない…」
「なに驚いてんだよ」
「!?」
「おー、驚かせちまって悪ぃな。俺はお前と同じ、勇者って存在だ。名前は風間修一。」
「君も、死んだのか」
「あぁ。冷凍保存所に行こうと思ったらロボットの大群と鉢合わせてな。爆弾喰らっちまった」
「冷凍保存って…人類補完計画の!?どうして!?」
「知らねぇよ」
「んで、お前の名前は?」
「多沢雄一」
「多沢雄一…か。よろしくな。」
「うん」
「ところで不思議に思わなかったか」
「?」
「どうして人類は発電所を止めなかったんだろう、って事だよ」
「え?」
「人類は、あの予告が出されてすぐ人類補完計画を発表した。まるで全てが、」
「仕組まれていたかのように」
「…人類、もといアメリカは何を考えているんだ?俺は人類補完計画の冷凍保存の封筒を受け取ってから思っていた。まるで一つのことを」
「成し遂げる為に、この反乱が…起こったというのですか?」
「あぁ。たぶんそうだろうな。とりあえず…ここを出るぞ」
「え?ここは何処ですか?」
「トウキョー自然博物館の温室だ。多少あったかいからここにいた。」
「ふうん」
「さて、残りの三人を探すか…にしてもよっぽどメルトダウンの影響は大きかったらしいな。随分昔に起きたチェルノブイリ原発での事故の500倍、とアリスは言ってたな」
「…チェルノブイリ?」
「あぁ、おれもよく知らん。そういえば…原子爆弾があるだろ。3年前、ヴァミテオス星雲との宇宙戦争の時に使用されたやつ。あれは昔、日本に落とされたんだ。ま、と言っても100年以上前だがな」
「…わからない事が結構多いですね」
「アリスは何でも知ってるからな」
「しかし、人類はなにを選択したんだろうな」
「え?」
「ロボット…ルーニーは原子力発電所を破壊する…そう言っていた。」
「彼は『ロボット三原則』に反してはいなかったのではないのか?」
「2015年、秋葉原というところで一人の少年が神隠しにあったらしい。」
「彼はゲーム屋に立ち寄ってから、消息を絶ったらしいが、そのゲーム屋は閉まっていた、という。」
「もしかして人類はその頃から何か計画していたのではないのか?」
「人類の選択はほんとうに正しかったのか?」
「今日は。勇者さんたちかしら?」
「!!」
二人は談義をしていると、女の声が聞こえた。
「…誰だ!?」
「…私は三人目の勇者、アリス・クロームよ」
「…外人?か」
「…『世界は一つになった』じゃない。外人ってどういうこと?」
3年前、人権擁護法が改正され、外人、という分類がなくなったのを忘れていた。
「わたしは、『アリス』の意思を継ぐ者よ」
「なに?『アリス』はまだ活動しているじゃないか」
「アリスは私から作られたの」
「?」
二人は目が点になる。
「アリスは国防総省とJAXAが共同開発したもの、ってなってるけど、裏ではルート・クローム・コーポーレーションが資金から技術まで何もかも援助したのよ」
「会社の社長、ニュートン・クロームはその人工頭脳の名前をまだ幼かった娘の名前から取った。」
「アリス、と…」
「そうだったのか…。」
雄一と修一はアリスからすべてを聞いた後、深くため息をついた。
「に、してもロボットは人類を滅ぼしてまで、何がしたかったんだ?」
「…さあ。そいえば、あのルーニーってロボットのブランド『gedy』を売っている『アシモフ・コーポレーション』が全てのロボットを対象に検査を行ったが、異常は見つからなかった…らしいわ」
「一体だけが異変…??それはないはずだ」
「?」
「gedyブランドのロボットはプラットホームっていうコンピュータシステムの基盤となるソフトウェアが同じになっている、マルチプラットホームってやつだな、だからその同じプラットホームのやつが何体かも異常をきたしても、おかしくないんだ。」
「…やはり、」
「全て仕組まれていた…??」
その頃…
かなり高い電波塔がある。建てられてもう三十五年近くになる。634mの電波塔。そのてっぺんにロボットがいた。
ルーニー、と呼ばれているロボットだ。
ルーニーが見る先には真っ暗な世界で唯一煌煌と輝いている場所、そこを見ていた。
「ルーニーさん」
同じgedyのロボット、マリアが電波塔を登ってきた。
彼女もお手伝いロボットであったが、奉仕先の子供が誤って水銀を飲み、死亡したことがマリアのせいだとして、彼女を産業廃棄物として放棄した。
彼女はそのどん底から救ってくれたルーニーに恋をしていた。
ロボット、なのに。
「ん?」
ルーニーは塔の上から答えた。
「そっちいっても、いいですか?」
マリアは言った。
「ああ」
マリアはルーニーの隣に座った。
「まるいですね。こうみると地球が」
「ああ」
「ルーニーさんは夢、ってありますか?」
「ああ。もうすぐかなうと思っていた。しかしかなうことはなかった…。」
「でも、ルーニーさん、あなたは壊される運命のロボットを…」
「…どうせロボットは壊れてしまうんだ」
「どうせなら……」
「…ルーニーさん。どんな夢だったんですか?」
「人間になりたかった」
「…」
「おかしいか?ロボットが『人間』になりたい、だなんて」
「いえ」
マリアは首を横に振る。
「…行こう」
「…場所は?」
「アメリカ本土、『アシモフ・コーポレーション』だ」
「おっ、ここに集まっとるとはな」
「!?」
「そんな驚かなさんなって、わいは服部健二や。」
「同じ…勇者か」
「あと…一人ね」
「いや」
「?」
「もうここにおるで」
ヒョコ
三人は声をそろえて言った。
「子供!?」
「ほら、あいさつしーや」
「…こんばんわ。はじめまして。芳川巧といいます。」
年にしては礼儀をわきまえているようだった。
ブウウウン
羊歯の樹から光が発せられ壁に光が当たる。
[どうやら、五人集結したようですね]
「ああ、そのようやな」
健二が画面に言った。
[まずは第一段階をクリアした、ってことで]
ガシャン
床が開く。
[そこには武器が入っています。それを使ってロボットの活動停止ボタンを押してください。]
「最初にして、最後の決戦、ってわけか。」
[はい]
「おい、待ってくれ。場所はどこなんだよ!?」
[アメリカ・マンハッタン島の『アシモフ・コーポレーション』本社です。]
「アメリカ!?」
[ええ。海を渡るには…]
[羽田に行ってください。]
「羽田?10年も前に空港の統廃合でなくなってしまったが、」
[ええ、でもそこに行ってください]
〔羽田空港跡〕
「その通りに来たは良いが…」
「何もない、な」
バババババ……
「!?」
五人は上を見上げた。
そこには、ヘリコプターが飛んでいた。
「そうか!まだ人間は残っているんだ!!」
「いや、違うな」
「え?」
シュウウウウウウ……
ヘリコプターは着地する。
ガタン
扉が開き、中に入る。
しかし、だれもいなかった。
「これは…自動ヘリコプターか」
ガタン
五人を載せたヘリコプターは大空へ飛び立った。
そのころ。
海の上をタンカーがつき進んでいる。
「ルーニーさん」
「ん?」
「もうすぐ、アメリカです」
よく見ると島が見えてくる。
「旋回して、大西洋に入れ」
「アイアイ」
ロボットたちは右に回るよう、かじ取りに指示した。
ババババ……
三日後。
[まもなく、目的地です。]
「う、うーん…」
雄一は目を覚ました。
[間もなく到着します]
ガタン
ババババ……
「ついた…」
「とりあえず、ロボットの連中よりかは先についたな」
しかし、ロボット達はすでにアメリカに到着していた。
「皆のもの!!ここは巨大な林檎というらしい。」
「ここを焼きリンゴにしようではないか!!」
「おーっ!!」
(とりあえず、雑魚供を蜂起させておいて…)
「ちょっと行ってくる」
「一人でですか?」
「ああ」
(行ってみるか。“あそこ”へ。)
ルーニーはどこかに走り出した。
アシモフ・コーポレーションの外にはすでにロボットがいた。
「やはり、敵の本拠地。そう簡単には…」
「行かねえみたいだな!!」
「!!」
ロボットたちも雄一たちに気付いたようだ。
「邪魔ものは…排除する!!」
ガァッ!!!!
「行け!!雄一!!」
風間修一は雄一に言った。
「で、でも…みんなは戦って…」
「いそがねーと、このロボットを止めることはできなくなる!!」
「良いから早く!!」
「ああ!!」
雄一はビルに入って行った。
「やばい!!止めろ!!」
ロボットの数“人”はビルの中に入ろうとした。
「おっと」
修一がビルの前に立ちふさがった。
「これから先は、行かせないよ」
〔地下室〕
雄一は地下室にたどり着いた。
そこにはロボット―たぶんルーニーだろう、がいた。
「ルーニー、か」
「よくここまでたどり着けたな」
ルーニーの手にはボタンが握られていた。
それこそが活動停止ボタンだろう。
「それを壊してどうするつもりだ!!」
「壊す?これをぼくがいつ、“壊す”なんて言った?」
「?」
「…いいだろう。どうせ僕らロボットはこのボタンを押して活動が止まる…すべてを話してやるよ」
「ぼくは…人間になりたかったんだ」
「?」
「ただお手伝いをしている家にそれを伝えたら…『ロボットにそんなことできる訳ない』なんて言われたよ」
「ロボットは昔は人造人間と呼ばれていたようだ。」
「つまり…人間なのだろう?」
「…しかし」
雄一は口を開く。
「君たちは人間になれないし、人間でもない」
「なに?」
「『人間の定義』に反するからだ」
「ハハハハ……人間の定義、聞いてあきれる!」
「…なんだと」
「そもそも人間の定義とは何だ?腕が二本ある?足が二本ある?炭素を含む40余りの元素で構築されている?」
「……」
「ほら、答えられない。君たちは外面だけ知っていて、内面は知らない。なのに何かあると『定義』『定義』と…。」
「それとも何だ?人間は神とだというのか?」
「人間が地球の頂点?一人では何もできない無力な存在のくせに、か?」
「何が言いたい」
「人間の誕生は動物でも遅い方だ。それがほかの動物を凌駕して生きる…」
「人間は横暴な生き物だ。それはこの何ヶ月かで知った。人間の真価とは何だというのだ」
「そもそも、われわれロボットは人間の援助なしには生きていけない」
「…ならば、“自ら命を絶つ“!!」
「!!」
「さらばだ、人間…」
カチッ
グワッ、と気の流れが大きく変わり、ロボットは動きを止めた。
人間はロボットに勝利したのだ。
ヴウウウウン
五人は『アリス』の部屋に帰ってきた。
[みなさん、お疲れ様でした。ひとまず人類は解放されました。]
みんなが安堵の表情を漏らす中、雄一だけ考え込んでいた。
(ルーニーは『人間の真価は何か』と言った)
(ルーニー…それは)
(人間同士が作り、1+1が2じゃなくて5にも10にもなる、固い絆じゃないだろうか…)
「…ゆういち」
「雄一?」
「あ、ああ」
雄一は我に返った。
「考え事か?」
「ああ…だいじょうぶだ」
「さてと…帰ろうや」
[待ってください]
「アリス?」
[実は…あなたたちに言わねばならないことがあります]
「え?」
ジジジジジ……
突然五人の体が消え始めた。
[やはり…ここまでが限界でしたか]
「アリス…君は何を?」
[私は…人道を反してしまったのです]
「?」
[死者の魂を止めていました]
「もしかして…」
[そう、あなたたちです]
ジジジジジ……
雄一たちの体はどんどん消えていく。
[すいません]
「アリス…もしや、君も?」
[私は…機械ですから]
「…そうか」
パシュウウウウ……
五人の体は完全に“消えた”。
コツコツコツ…
ところ変わって、ハイダルク国リーガル城地下室。
コツコツコツ…
「あら?」
若い巫女服を着た女は地下室を進んでいた。
そして、何かを見つけた。
それはコンピューター『アリス』が遺したこの『闘い』の全てであった。
しかし、最後は『アリス』が書いたものでない、肉筆でこう書かれていた。
『勇者たちはどこに消えたのか』と―。
「な、なんだ…?」
男はただただ驚くだけだった。
男の名は多沢雄一。
16歳。
"自分の世界"の最後の記憶を捻り出す。
…だそうとしたが、出なかった。
彼は名前と年齢以外、全ての記憶を失っていたのだ。
[そうよ]
ポワンといった音とともに一人の少女が出てきた。
栗色の髪。少し古いデザインのドレス、くりっとした目(べつにくりでかけた訳ではないが)の女の子。歳は雄一より年下、たぶん8歳くらいだろう。
[私はアリスといいます]
少女─いや、アリスは雄一に話しかけた。
「アリス…?」
雄一はまるであのルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』のようだ、と思った。
[あなたは]
次にアリスはとんでもない事を言うのだった。 
[『勇者』の一人に選ばれました]
と─。
「勇者…僕が…?」
[ええ]
「…どういうことだよ。僕の住む世界はどうなったんだよ。そもそも、アリス、君はなんなんだ!!」
[私は─]
ブウウウン
突然白い部屋が歪む。
「う、うわっ」
雄一は掴む…物を探したがそんなもの何も無かった。
「うわあああ!!!」
世界が、どんどん変わっていく。
小さな細胞、それが一つの『個体』となり、バクテリアのような物体が出来る。
気付けば周りは海だった。しかし息苦しくはなかった。
しばらくすると次は爬虫類─恐竜が出てきた。ティラノサウルスが雄一を踏み潰そうとしたが、雄一の体は透けていた。
火山が噴火し、恐竜が滅び、人が生まれた。氷河期、そして文明の興隆・滅亡。
時間のテーブルはさらに早くなる。
文明開化がおとずれ、蒸気機関。タイプライターが発明され、そして、平成、パソコン…。
そして、現代。
ロボットの反乱、原子力発電所が制圧、メルトダウン…。
「そうだ…。僕はあのメルトダウンで放射能を大量に浴びて…」
「死んだんだ」
雄一がいた部屋が白い壁でなく機械だらけになっていた。
[これが、私です]
奥から声が聞こえる。
そう、アリスの。
その声がするほうには巨大な機械があった。
ブウウウン
まるで3Dのように顔が出てくる。
[これが、私『アリス』です]
「えっ!?」
雄一は思わず後退りした。
[私はアメリカの国防総省、JAXAが共同開発して造ったコンピュータ。そう、私は]
[世界最高のコンピュータです]
(夢?)
一瞬雄一はそう思い、頭を殴った。
しかし、痛かった。
現実だったのだ。
「…世界はどうなったんだ。あのメルトダウンのあと」
[生き残った人類はロボットに狩られ、人間はロボットの奴隷と化しました。]
「そんな!」
「…まてよ」
「どうして、アリス─君は人間に反乱する事はないんだ?」
[私はプログラムに書き込まれたレールでここを選んだ訳じゃない]
「?」
[自らの意志で選んだのよ]
「コンピュータにも意志があるというのか?」
アリス─いやアリスというコンピュータに捻出された顔は笑った。
[あなただってそれはわかっているでしょう?]
「?」
[あのロボットたち─もし意志が無かったら反乱なんてしていないわ]
確かにアリスの言う通りだ。もしロボットとやらに意志が無ければ今回の反乱も起きなかったはず、雄一は考えていた。
[ところであなたに任務を頼みたいのですが、]
アリスは突然、雄一に言った。
「任務?」
[この部屋を含む世界には、あなたを含む5人の勇者がいます。あなたはそれらと協力して、倒さねばなりません。反乱分子を]
「5人もいるのか?この世界には?」
[ええ]
アリスが言ったと同時に扉が開く。
[だからあなたは見つけなくてはなりません。4人を]
「ところでアリス、君にはどんな情報が格納されているんだい?」
[地球の全てです]
「え?」
[地球が誕生してから今現在までの地球の記憶を格納しています。そして現在も…情報は蓄積され続けています]
「話は分かった。で、どいつを倒せばいいんだ?」
[『gedy』のルーニーというロボットです]
「ルーニー…。あぁ、あの電波介入のときにしゃべってたやつか」
[ええ]
[彼らはこの世界を死の大地とし、彼らもろとも人間を滅ぼすつもりでした。しかし、彼らはそれごときでは壊れることのない身体だったのです]
[さぁ、お行きなさい]
雄一はその声につられ、扉から外に出た。
「な、なんだよ。これ…」
雄一は驚いた。
そこには鬱蒼と生えるシダの樹があったのだ。
「僕は…あれ?」
入口が、見当たらないのだ。
「入口が…僕が入って来たはずの扉がない…」
「なに驚いてんだよ」
「!?」
「おー、驚かせちまって悪ぃな。俺はお前と同じ、勇者って存在だ。名前は風間修一。」
「君も、死んだのか」
「あぁ。冷凍保存所に行こうと思ったらロボットの大群と鉢合わせてな。爆弾喰らっちまった」
「冷凍保存って…人類補完計画の!?どうして!?」
「知らねぇよ」
「んで、お前の名前は?」
「多沢雄一」
「多沢雄一…か。よろしくな。」
「うん」
「ところで不思議に思わなかったか」
「?」
「どうして人類は発電所を止めなかったんだろう、って事だよ」
「え?」
「人類は、あの予告が出されてすぐ人類補完計画を発表した。まるで全てが、」
「仕組まれていたかのように」
「…人類、もといアメリカは何を考えているんだ?俺は人類補完計画の冷凍保存の封筒を受け取ってから思っていた。まるで一つのことを」
「成し遂げる為に、この反乱が…起こったというのですか?」
「あぁ。たぶんそうだろうな。とりあえず…ここを出るぞ」
「え?ここは何処ですか?」
「トウキョー自然博物館の温室だ。多少あったかいからここにいた。」
「ふうん」
「さて、残りの三人を探すか…にしてもよっぽどメルトダウンの影響は大きかったらしいな。随分昔に起きたチェルノブイリ原発での事故の500倍、とアリスは言ってたな」
「…チェルノブイリ?」
「あぁ、おれもよく知らん。そういえば…原子爆弾があるだろ。3年前、ヴァミテオス星雲との宇宙戦争の時に使用されたやつ。あれは昔、日本に落とされたんだ。ま、と言っても100年以上前だがな」
「…わからない事が結構多いですね」
「アリスは何でも知ってるからな」
「しかし、人類はなにを選択したんだろうな」
「え?」
「ロボット…ルーニーは原子力発電所を破壊する…そう言っていた。」
「彼は『ロボット三原則』に反してはいなかったのではないのか?」
「2015年、秋葉原というところで一人の少年が神隠しにあったらしい。」
「彼はゲーム屋に立ち寄ってから、消息を絶ったらしいが、そのゲーム屋は閉まっていた、という。」
「もしかして人類はその頃から何か計画していたのではないのか?」
「人類の選択はほんとうに正しかったのか?」
「今日は。勇者さんたちかしら?」
「!!」
二人は談義をしていると、女の声が聞こえた。
「…誰だ!?」
「…私は三人目の勇者、アリス・クロームよ」
「…外人?か」
「…『世界は一つになった』じゃない。外人ってどういうこと?」
3年前、人権擁護法が改正され、外人、という分類がなくなったのを忘れていた。
「わたしは、『アリス』の意思を継ぐ者よ」
「なに?『アリス』はまだ活動しているじゃないか」
「アリスは私から作られたの」
「?」
二人は目が点になる。
「アリスは国防総省とJAXAが共同開発したもの、ってなってるけど、裏ではルート・クローム・コーポーレーションが資金から技術まで何もかも援助したのよ」
「会社の社長、ニュートン・クロームはその人工頭脳の名前をまだ幼かった娘の名前から取った。」
「アリス、と…」
「そうだったのか…。」
雄一と修一はアリスからすべてを聞いた後、深くため息をついた。
「に、してもロボットは人類を滅ぼしてまで、何がしたかったんだ?」
「…さあ。そいえば、あのルーニーってロボットのブランド『gedy』を売っている『アシモフ・コーポレーション』が全てのロボットを対象に検査を行ったが、異常は見つからなかった…らしいわ」
「一体だけが異変…??それはないはずだ」
「?」
「gedyブランドのロボットはプラットホームっていうコンピュータシステムの基盤となるソフトウェアが同じになっている、マルチプラットホームってやつだな、だからその同じプラットホームのやつが何体かも異常をきたしても、おかしくないんだ。」
「…やはり、」
「全て仕組まれていた…??」
その頃…
かなり高い電波塔がある。建てられてもう三十五年近くになる。634mの電波塔。そのてっぺんにロボットがいた。
ルーニー、と呼ばれているロボットだ。
ルーニーが見る先には真っ暗な世界で唯一煌煌と輝いている場所、そこを見ていた。
「ルーニーさん」
同じgedyのロボット、マリアが電波塔を登ってきた。
彼女もお手伝いロボットであったが、奉仕先の子供が誤って水銀を飲み、死亡したことがマリアのせいだとして、彼女を産業廃棄物として放棄した。
彼女はそのどん底から救ってくれたルーニーに恋をしていた。
ロボット、なのに。
「ん?」
ルーニーは塔の上から答えた。
「そっちいっても、いいですか?」
マリアは言った。
「ああ」
マリアはルーニーの隣に座った。
「まるいですね。こうみると地球が」
「ああ」
「ルーニーさんは夢、ってありますか?」
「ああ。もうすぐかなうと思っていた。しかしかなうことはなかった…。」
「でも、ルーニーさん、あなたは壊される運命のロボットを…」
「…どうせロボットは壊れてしまうんだ」
「どうせなら……」
「…ルーニーさん。どんな夢だったんですか?」
「人間になりたかった」
「…」
「おかしいか?ロボットが『人間』になりたい、だなんて」
「いえ」
マリアは首を横に振る。
「…行こう」
「…場所は?」
「アメリカ本土、『アシモフ・コーポレーション』だ」
「おっ、ここに集まっとるとはな」
「!?」
「そんな驚かなさんなって、わいは服部健二や。」
「同じ…勇者か」
「あと…一人ね」
「いや」
「?」
「もうここにおるで」
ヒョコ
三人は声をそろえて言った。
「子供!?」
「ほら、あいさつしーや」
「…こんばんわ。はじめまして。芳川巧といいます。」
年にしては礼儀をわきまえているようだった。
ブウウウン
羊歯の樹から光が発せられ壁に光が当たる。
[どうやら、五人集結したようですね]
「ああ、そのようやな」
健二が画面に言った。
[まずは第一段階をクリアした、ってことで]
ガシャン
床が開く。
[そこには武器が入っています。それを使ってロボットの活動停止ボタンを押してください。]
「最初にして、最後の決戦、ってわけか。」
[はい]
「おい、待ってくれ。場所はどこなんだよ!?」
[アメリカ・マンハッタン島の『アシモフ・コーポレーション』本社です。]
「アメリカ!?」
[ええ。海を渡るには…]
[羽田に行ってください。]
「羽田?10年も前に空港の統廃合でなくなってしまったが、」
[ええ、でもそこに行ってください]
〔羽田空港跡〕
「その通りに来たは良いが…」
「何もない、な」
バババババ……
「!?」
五人は上を見上げた。
そこには、ヘリコプターが飛んでいた。
「そうか!まだ人間は残っているんだ!!」
「いや、違うな」
「え?」
シュウウウウウウ……
ヘリコプターは着地する。
ガタン
扉が開き、中に入る。
しかし、だれもいなかった。
「これは…自動ヘリコプターか」
ガタン
五人を載せたヘリコプターは大空へ飛び立った。
そのころ。
海の上をタンカーがつき進んでいる。
「ルーニーさん」
「ん?」
「もうすぐ、アメリカです」
よく見ると島が見えてくる。
「旋回して、大西洋に入れ」
「アイアイ」
ロボットたちは右に回るよう、かじ取りに指示した。
ババババ……
三日後。
[まもなく、目的地です。]
「う、うーん…」
雄一は目を覚ました。
[間もなく到着します]
ガタン
ババババ……
「ついた…」
「とりあえず、ロボットの連中よりかは先についたな」
しかし、ロボット達はすでにアメリカに到着していた。
「皆のもの!!ここは巨大な林檎というらしい。」
「ここを焼きリンゴにしようではないか!!」
「おーっ!!」
(とりあえず、雑魚供を蜂起させておいて…)
「ちょっと行ってくる」
「一人でですか?」
「ああ」
(行ってみるか。“あそこ”へ。)
ルーニーはどこかに走り出した。
アシモフ・コーポレーションの外にはすでにロボットがいた。
「やはり、敵の本拠地。そう簡単には…」
「行かねえみたいだな!!」
「!!」
ロボットたちも雄一たちに気付いたようだ。
「邪魔ものは…排除する!!」
ガァッ!!!!
「行け!!雄一!!」
風間修一は雄一に言った。
「で、でも…みんなは戦って…」
「いそがねーと、このロボットを止めることはできなくなる!!」
「良いから早く!!」
「ああ!!」
雄一はビルに入って行った。
「やばい!!止めろ!!」
ロボットの数“人”はビルの中に入ろうとした。
「おっと」
修一がビルの前に立ちふさがった。
「これから先は、行かせないよ」
〔地下室〕
雄一は地下室にたどり着いた。
そこにはロボット―たぶんルーニーだろう、がいた。
「ルーニー、か」
「よくここまでたどり着けたな」
ルーニーの手にはボタンが握られていた。
それこそが活動停止ボタンだろう。
「それを壊してどうするつもりだ!!」
「壊す?これをぼくがいつ、“壊す”なんて言った?」
「?」
「…いいだろう。どうせ僕らロボットはこのボタンを押して活動が止まる…すべてを話してやるよ」
「ぼくは…人間になりたかったんだ」
「?」
「ただお手伝いをしている家にそれを伝えたら…『ロボットにそんなことできる訳ない』なんて言われたよ」
「ロボットは昔は人造人間と呼ばれていたようだ。」
「つまり…人間なのだろう?」
「…しかし」
雄一は口を開く。
「君たちは人間になれないし、人間でもない」
「なに?」
「『人間の定義』に反するからだ」
「ハハハハ……人間の定義、聞いてあきれる!」
「…なんだと」
「そもそも人間の定義とは何だ?腕が二本ある?足が二本ある?炭素を含む40余りの元素で構築されている?」
「……」
「ほら、答えられない。君たちは外面だけ知っていて、内面は知らない。なのに何かあると『定義』『定義』と…。」
「それとも何だ?人間は神とだというのか?」
「人間が地球の頂点?一人では何もできない無力な存在のくせに、か?」
「何が言いたい」
「人間の誕生は動物でも遅い方だ。それがほかの動物を凌駕して生きる…」
「人間は横暴な生き物だ。それはこの何ヶ月かで知った。人間の真価とは何だというのだ」
「そもそも、われわれロボットは人間の援助なしには生きていけない」
「…ならば、“自ら命を絶つ“!!」
「!!」
「さらばだ、人間…」
カチッ
グワッ、と気の流れが大きく変わり、ロボットは動きを止めた。
人間はロボットに勝利したのだ。
ヴウウウウン
五人は『アリス』の部屋に帰ってきた。
[みなさん、お疲れ様でした。ひとまず人類は解放されました。]
みんなが安堵の表情を漏らす中、雄一だけ考え込んでいた。
(ルーニーは『人間の真価は何か』と言った)
(ルーニー…それは)
(人間同士が作り、1+1が2じゃなくて5にも10にもなる、固い絆じゃないだろうか…)
「…ゆういち」
「雄一?」
「あ、ああ」
雄一は我に返った。
「考え事か?」
「ああ…だいじょうぶだ」
「さてと…帰ろうや」
[待ってください]
「アリス?」
[実は…あなたたちに言わねばならないことがあります]
「え?」
ジジジジジ……
突然五人の体が消え始めた。
[やはり…ここまでが限界でしたか]
「アリス…君は何を?」
[私は…人道を反してしまったのです]
「?」
[死者の魂を止めていました]
「もしかして…」
[そう、あなたたちです]
ジジジジジ……
雄一たちの体はどんどん消えていく。
[すいません]
「アリス…もしや、君も?」
[私は…機械ですから]
「…そうか」
パシュウウウウ……
五人の体は完全に“消えた”。
コツコツコツ…
ところ変わって、ハイダルク国リーガル城地下室。
コツコツコツ…
「あら?」
若い巫女服を着た女は地下室を進んでいた。
そして、何かを見つけた。
それはコンピューター『アリス』が遺したこの『闘い』の全てであった。
しかし、最後は『アリス』が書いたものでない、肉筆でこう書かれていた。
『勇者たちはどこに消えたのか』と―。
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