ODD

巫夏希

第三十五話 ルーシーとメアリー

「……こうしちゃいられない!」

 フルは言った。

「ええ。あいつに好き勝手やらせてたまるものですか!」

 メアリーも続く。

「……確か城には水路があったわよね。そこから、あのメタモルフォーズを追うわよ!」

 メアリーが先導で、城の南にある水路に向かった。
 水路、というか造船所の跡……あの暴動の後、崩壊してしまったのだろう。

「あのさ、フル、メアリー」

 ルーシーが言った。

「う、うん……ずうっと思ってたんだよ。アリスの話を聞いてから」
「フルがこの世界にきた理由は何だろう、ってさ」
「もしかしてフルはこの戦いのためにここにとばされたんじゃない? “予言の勇者”って言ってたじゃない」 

 メアリーは即座に答える。

「そうだよねぇ……メアリーも、たぶんフルもそうだと思ってる、と思う」
「で、この戦いが終わったら、フルはどうなるのかな、って思ったんだよ」
「バルト・イルファが言っていた。昔の勇者も、どこかに消えた、ってさ」
「……なにが言いたいの?」
「もう、二人ともわかってるんだろ」
「フルが、この戦いが終わったら、どこかに行くんじゃないか、ってさ」

 ルーシーがその言葉を言った直後、三人は沈黙。しばらくたたずんでいた。

「……さ、さあ! 行くわよ!!」

 メアリーが沈黙を破った。


 ポトン
 メアリーは卵を落とした。
 シュウウウウウウウ……
 炭酸がはじけるように、卵から大量の空気を包んだ泡がでてきた。

「すごいね。やっぱ“マジック・エッグ”は」
「ええ。錬金術、魔術、化学の融合よ」
「さあ、行こう!」
「待て」

 後ろから声が聞こえた。

「誰だ!」

 フルは後ろを振り返った。

「わしだ。ハイダルク王だ」
「ハイダルク王……ご無事でしたか」
「ああ……しかし皆のものが……」
「むっ? お主、守護霊をつれているな。しかも主従融合をやり遂げたことのある、珍しい、な」
「え? 見えるんですか?」

 ルーシーは後ろの守護霊を指していった。

「彼女が」

 ルーシーの守護霊は黒い髪のワンピースの女の子。しかし見かけによらず、とても強い。

「ああ。我がリーガル城主代々、いや、」
「アドバリー家に代々伝わっている精霊術だからな。それを応用して守護霊をみるなんて、造作もないことだ」
「え……? アドバリー家?」
「うむ……もう、言ってもいいだろう。実はここに助けにきてくれたものがいてな、わしの能力を開花させてくれた」
「?」
「王様、どちら様ですか?」
「おぉ、予言の勇者様だよ」
「まあ!」

 コツ、コツ、コツ
 ゆっくりと、廃墟から人がでてきた。
 フルとルーシー、それにメアリーは見た瞬間、声を上げ、こう言った。

「シュリアさん!」

 と。

「お久しぶりです。まさかまた会えるとは……」
「どうして、ここに?」

 三人が気になっている質問を、フルが代表して、尋ねる。

「戦いに駆り出されちゃってね。戦っているうちに王様にあったの。私は昔から、真相から人の本当の力を引き出す能力を持っているの。たぶん、ガラムド様の夢を見たからだと、思うんだけど」
「さておき、王様が持つこの力……初めて「主従融合」を成し遂げたマリア様のときまでは生きていたみたい。つまりは、誰もがこの力を操れた、そうよ」
「え? じゃあ、なんで、今は?」
「実は、今のアドバリー家は混血なの。神の一族である、ホープキン家とね」
「!!」

 ルーシーとメアリーは驚いた。

「僕たちは……」
「親戚?」
「ええ。そして、ここからが本題よ」

 シュリアが少し声を高くして、言った。

「マリア・アドバリーの兄の家系……たどっていくと、神の一族、しかもホープキン家と結婚していて、深い関係が結ばれていた」
「神の一族の血というのは必ず何か、特殊な力を持っている。ホープキン家は「ほかの能力を淘汰する」働きがあったようよ」
「そんなことが……」

 メアリーは自分の家系のことを聞いて、言葉がでない。

「さて、向かいましょうか。王様」
「ああ」
「どちらへ?」

 メアリーが尋ねた。

「決まっているだろう、最終決戦の地へ、だよ」
「だめです! 危険ですよ!」
「それだから……ルーシー・アドバリー、そなたに問いたい」
「王位を継ぐ気はあるか?」
「え?」
「私と私の妻との間には、残念ながら子宝に恵まれなかった。私も多分長くないだろう。しかし、後継にアドバリー家じゃない者が就くと、そう簡単に国民の信頼は得られまい。だから、君に頼む」
「……わかりました。きっと、今まで以上にいい国にして見せます」
「よかった……さあ、無駄話をしてる暇など、なかったな。行くとしようか」

 相変わらず、エーミッド造船所で作られた船の速度はハンパない。
 すぐに“オリジナルフォーズ”に追いつくことができた。

「ここは……チャール島に行くときにあった島……」
「どうやら、ここが最終決戦の地みたいだな」

 ルーシーの言葉に、フルが答えた。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品