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巫夏希

第三十三話 プラチナと王水

「そうそう、そこまでしなきゃつまらないじゃない」

 リュージュは未だにフルを睨みつける。

「もう……我慢ができない!! おまえを……倒す!!」
「ふうん。私を倒す……」

 リュージュは今までと同じ表情を見せる。
 直後、リュージュの表情が変わった。
 まるで戦いを楽しむ狂戦士ベルセルクのように。

「そんなこと、できるのかしらね」

 リュージュはもう一度指を鳴らす。
 ブルブル
 メタモルフォーズは髭を揺らす。
 同時に髭の一本一本が針状になる。

「これを……避けきれるかしら?」

 ギュウウウウン
 稲妻を帯びた針はフル達を向けて発射した。
 キィン
 しかし、針は先ほどのバリアで弾かれる。

「フフン。やるじゃない」
「このままだと……だめだ! 反撃の糸が見つかればいいんだけど……」
「ねえ。フル、ルーシー、聞いて」

 メアリーが二人に言った。

「?」
「あのメタモルフォーズ……実は体全体に雷を帯びていないわ」
「なんだって!?」
「本当かい? メアリー」
「ええ。きっとそうよ」
「で……あんな莫大な電気エネルギーを押さえるにはなにかあるはずなの」

 コクリ
 二人は頷いた。

「で、いまあのメタモルフォーズが打った針……よく見ると金でできているの」
「金?」
「ええ。ただ、本当に金かどうかはわからないけど、主成分は金だと思う」
「でも……何でわかったんだい? 僕らは金なんてわからなかったよ?」
「あのね……フルはともかくルーシーはわかったはずでしょ? あれの色と電気の伝わりやすさ、から、ね!」
「あ……でも白金という可能性も」

 ルーシーが言い返した。

「それも、あるかもしれないわね。でもあの超伝導体の金、もしくは白金を巻き付けているのに、無事……と考えると、何か体内に仕込んでいる可能性が高いわね」
「でも、首のところはあまり仕込められない、らしいわ。“生命機能に異常を来すおそれあり”てね」
「……メアリー、それをどこで?」
「ASLの“第四倉庫”にあった書物に書いてあったわ」
「と、すると……」
「金を溶かせばいいんだな」
「ええ、たぶん、そういうことになる」
「でも、金はどんな溶媒にも溶けなかったはず……」
「あるわ。一個だけ、ね」
「“王水”よ」
「王水?」
「ああ……確か濃塩酸と濃硝酸の体積比3:1で構成される混合溶液だったな」
「その通り」

 フルのだした答えに、メアリーはオーケーサインを出した。

「水素、塩素、それと硝酸イオン……」
「無理だ! こんなあれたところに都合よく、そんなものがある訳ない!」

 ルーシーは嘆くように言った。

(考えて……考えて……考えなくちゃ! 思考を止めちゃだめ!)
「!」
「フルはここにいて! 私はルーシーと町に行く!」
「……わかった!」
「あのさ、メアリー」
「なに?」
「ぼくさ、前から……」

 ズシィィィィィン
 バリアと攻撃とがぶつかる音。

「あ、行かなきゃ! じゃあ、頼むね! フル!」



〔城下町〕

「えーと、私は塩酸とアンモニアを持ってくるから、ルーシーは白金と壷を持ってきて」
「? それでいいのかい?」
「ええ! 15分後にここの噴水の前で落ち合いましょう!」

 そして、15分後、メアリーは薬品店から塩酸とアンモニア、ルーシーは白金と手頃な壷を持ってきた。

「これでOKね」
「じゃあ、行こう!!」



〔城〕

「フル、待たせてごめん!」
「急いで! あとちょっとでこのバリアが切れそうなんだ!」
「急いで、作るわ! なんとか、踏ん張って!!」
「うん……やってみる!!」

 メアリーはまず、壷に一つ穴をあけた。そして、ルーシーが持ってきた二つ目の壷に水を錬成した。
 そして、壷の真ん中に白金の膜をおいた。まるでフィルターのように。
 そこに大量のアンモニアを流し入れた。とても強烈なにおいは、3m近く離れていたフルにもすぐに伝わった。

「うぐぅ……アンモニア? 鼻が曲がっちゃいそう……」
「ちょっと我慢して、すぐ終わるから」

 その壷に熱を当てた。
 とても高い熱なので、ルーシーは倒れかけた。

「おい! こんなバリアだから、まるで蒸し風呂だぞ!!」
「それじゃきかないよ~ フル」

 フルの怒りをルーシーが返す。

「もうすぐ終わるから!! 我慢して!!」

 そして、そこからでたガスを空気に当て、それを水の入っている容器に入れた。

「できた! ルーシー、塩酸ちょうだい!」
「うん!」

 ルーシーはメアリーに塩酸の入った茶色い瓶を渡す。

「これを3:1で混ぜる……!!」
「出来た……」
「あとはこれを……あのメタモルフォーズにかけるのみ!!」


 パン
 メアリーは手を叩き、それを壷に当てた。
 同時に壷は消えた。
 と同時にその壷はメタモルフォーズの真上にいた。
 むろん、落ちてくる。
 ザバァァァァアッ
 メタモルフォーズ、そしてリュージュはその液体をもろに被ってしまった。

「これは……王水!」

 リュージュは言った。そのとき、眉が少し動いたように見えた。

「あら? 天下のリュージュ様もこれには驚きかしら?」

 メアリーは皮肉たっぷりに言った。

「さすがは我が娘……もう、このメタモルフォーズは使いものにならない……」
「でもね」

 ニヤリ
 ゴゴゴゴゴゴゴゴ…………
 突然、地響きが鳴った。

「なんだ!?」
「フフフ……ついに目覚める……」
「神の力を持ったメタモルフォーズが!!」

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