貴方を知って、愛を知る

ノベルバユーザー172401

後編


次の日、お祖父ちゃんに朔さんと出かけると伝えればにんまりとした顔をして珍しく店に立った。
にやにや、笑いながら最近手に入れてきたらしいスマートフォンでしきりに何かやり取りをしている。

「もう、にやにやしないで」
「琴乃よお、俺は最初は男児がいいからな」
「…お、お祖父ちゃんのばかあ!」
「はいはい、気を付けてな。まあ、藤の字の事だから心配はしてねえけどなあ」

あの通知音は、絶対にラインだ。
ぴこんぴこんと音が鳴るそれに没頭し始めたお祖父ちゃんに、いってきます、と伝えて店を出る。外に出れば、同じようにスマートフォンを手にニヤついているおじさまがたっていた。
朔さんは、ものすごく鬱陶しそうにおじさまを見ている。

「朔さん、おじさま、こんにちは」
「おお、琴ちゃん。今日はコイツのことよろしく頼むぜ」
「…祖父さん、お客を放って見送りまでしてくれなくてもいいんだけどね」

何をにやにやしてるのか、また悪戯でも考えてるのかなと思いながら、私はおじさまを見送った。
お祖父ちゃんもだけれど、おじさまも又、食えない人だ。そして、やけに現代的。

「あ、そうそう。琴ちゃん、俺はかっわいいおんなの……ってえな!孫のくせに祖父をいたわれ!」
「もういいから、頼むから口を閉じて」

思いっきり、いま、朔さんおじさまの足を踏んづけた。
涙目になりながらお店に入っていくおじさまと、少しだけ気まずげな朔さん。私はなんだか、いつもは見れない一面が見れたことが嬉しくて笑ってしまった。
こうしてなんというか、大人な朔さんの違う一面が見れて、私の顔はだらしなくゆるんでしまう。表情筋は、仕事を放棄した。

「ごめんね、行こうか」
「朔さんの、知らないところ見れたから、嬉しい」
「…俺は、もう少しちゃんとしたところを見せたかったんだけどね」

少しだけ、ばつが悪そうに言うから。可愛いなあときゅんとした。これが、胸きゅん…と感激しながら朔さんを改めてみる。シンプルなシャツと黒のズボンという恰好なのに、それが良く似合う。ぼう、っと見惚れてしまっていたから手を引かれて歩き出していたことに気付くのに遅れた。
流れる動作で手を絡められた。内心でひゃあああ、と慌てながら、ついていく。私のペースに合わせて歩いてくれる、その気遣いが嬉しい。

「琴乃ちゃんは、何が好き?」
「ええと、チョコレートとか、パンケーキが好きです」
「ああ、いつもおいしそうに食べてるもんね」
「へ、どこで…」
「写真をね、お祖父さんが送ってくれて」

もう、お祖父ちゃんは何をしてるの!と思いながら頬に熱が集まるのを抑えるように、空いている手で頬を抑えた。
私を見てか、少しだけ笑う声がしていたたまれない。なんだか最近スマートフォンで写真を撮るのにはまっているなと思っていたけれど、まさか流失していたとは…。変な顔になっている奴を送られていたら、どうしよう。

「そういうのをいつも見ているからか、君の事を考える時間が多くて」
「あ、ええと…なんというか、ごめんなさい」
「だからね、正直困ったんだ。君がどんどん大人になっていって、綺麗になっていくから」
「あの…、その…」
「こんな想いを抱いては、いけないと思っていたのに。君のせいだよ」

言葉は私をなじる様なものなのに、甘く感じてしまうのは、なぜだろう。
そっと繋がれた手から伝わる熱がもっと熱くなったような気がして私は歩きながらそっと見上げる。朔さんの横顔は、変わらない。私のいつも見ていた顔で、でもその顔が少しだけ緊張しているように見えるのは私の気のせいだろうか。――気のせいじゃないと、いいな。

「俺を知りたい、なんて。ひどい殺し文句だと思わない?」
「…だって、知りたいから。ずっと…知りたかったんだもん」

拗ねるような口調になってしまったのは、私がまだ子供だったからだろうか。もう少し、ちゃんとした受け答えができれば、私の存在にもドキドキしてくれるのだろう。私がこんな風に、ときめいていることを、伝えたらどう思うのか。
そっと立ち止まった朔さんは、私の耳元に口を寄せた。

「その言葉が一番うれしかったって言ったら、信じてくれる?」
「…もっと、あなたのことを教えてくれるなら」

私の顔を覗き込むその眼をしっかりと見つめて、答えた言葉の意味を、解ってほしい。きっと私の顔は真っ赤で、可愛くなんてないだろうけれど。大人の女の人みたいに綺麗ではないけれど、これからちゃんと貴方に追いつける人になりたいから。
どうか、貴方の隣を歩かせてほしい。

「君の時間を無為にしてしまうけど、選ぶのなら俺にしておいて。その代り、選んでくれたなら離さないから」
「……う、うううう」

だめだ、完敗。こんな風に傍にいたことがあまりなかったから、というよりも、男の人への耐性がなさ過ぎて恥ずかしさとどきどきで心臓が止まってしまいそうだ。
完全に足が止まった私の腰のあたりを抱えて歩かせながら、朔さんは楽しそうに笑った。
ただ、からかって遊んでるだけではなさそうなのが見て取れた。いつか、私も、絶対にこの人の真っ赤になった顔をみてあげるんだから、と内心決める。

そのあと、連れて行ってくれたお店のご飯もデザートもとても美味しくて、そのあとに色々なお店を見て回ったのも楽しかったのだけれど。
私はどこかふわふわとしていて、もう、幸せという感情しか抱いていなかったのが悔やまれる。もっと堪能したかったのに。――その中で、買ってもらった髪飾りに全部持っていかれた。
薄いピンクのリボンのついた髪飾りは、可愛くて上品で、お店の先に置いてあって一目惚れしたもの。目ざとく見つけた朔さんが今日のお礼にとくれたのだ。申し訳ないと思う以上に、嬉しくて飛びつくようにお礼を言えば、朔さんはくすぐったそうに笑った。笑って、私の額に口づけた。

「…い、いま…!」
「ああ、可愛かったから」
「かわ、…はじ、はじめさんのばかあああ!」
「? 君にしか、しないよ」

そういうことじゃない!と言いたかったのに、言葉にならなかったのは。
私の中のキャパシティーが限界を超えたからだ。もう、もう、どうしてくれよう。この人はどうして私を殺すような言葉ばかり言うんだろう、それも恥ずかしげもなく。
天然なんだろうか、天然って怖い。この人、同じように女の人に言ってるんだろうか、とキスされた額を抑えながら見上げれば、きょとん、とした顔に出会う。

「そういうの、みんなに言ってるんでしょう…?」
「どうして、言う必要がない。琴乃ちゃんに、言いたいことしか言っていないよ」

あ、もうだめだ。そう思って私は今度こそ絶句した。どうしよう、これで私の勘違いだったらどうしよう。――この人、私の事、多分好きでいてくれる。
ただ、これ以上のときめきは私の心臓に悪すぎて明日から生きていける気がしないのでもう何も聞かなかった。
そして、私はそのあと夢うつつのふわふわとした状態で帰ってきた。
じゃあ、またね。そう微笑んで別れた後、お店に駆け込んだ私は、膝から崩れ落ちてお祖父ちゃんを笑わせることになる。

「うまくいったかあ?」
「…っ、しんじゃう…!」
「おう、それは困るなあ。手加減しろって言ったのによ」

明日、言おう。
今日言えなかったこと、私の気持ち、全部明日伝えてみよう。
小さいころ近づきたいと思った人は、とても魅力的で私を翻弄することばかり言うけれど。それでも私が大好きな人になった。
買ってもらったプレゼントを胸に抱いて、そっと目を閉じる。――閉じた先で、私は夢を見るのだ。
朔さんがこの古本屋で仕事をするところ。私が朔さんのお店でコーヒーを飲んで笑っている所。そして、お祖父ちゃんたちにからかわれながら、過ごしていく日々を。

ちなみに。明日朝一番にお店にやってきた朔さんに、私が考えていたことは実行されてしまうことになる。
悔しくて負けないように思いを言い募れば、熱い体に抱きしめられて唇を奪われた。
息継ぎの間に呼ばれる名前に、私の体はかっと熱くなる。

「離さないから、覚悟して」
「…わたしも。朔さんのこと、誰にもあげませんから」

そういえば嬉しそうに笑うから、私も嬉しくなってもっと笑った。
こうして私は朔さんと恋人という関係に近づいて、彼をもっと知っていくことになったのだ。
お祖父ちゃんたちは、いつも通りにやにやと私たちを見ているけれど。
最近は、お店に出ていることが多くなった。そして、私たちに二人で出かけろと発破をかけてくるので、少しだけ照れ臭い。
そんなお祖父ちゃんから逃げ出して、私は朔さんがお仕事をしている部屋に来ている。ひと段落した彼が私に近づいてきたので。
――大好き、と伝えた言葉は、言葉ごと飲み込まれて消えた。






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