ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら

稲荷一等兵

68話- Message



「私を助けてくれた時についた傷……まだ残ってるんですね」

「そりゃまあ……けっこう深く入ってたからな」

 どこか感慨深そうにしていた静流だったがすぐに真剣な表情を浮かべ話題を変えてきた。

「おそらく、本土部隊の兵士だと思われますが、男女二人がシャフトの非常口から出てきていました」

「その二人は?」

 間髪入れずに雛樹が聞く。静流に見つけられたということは下手なことはされていないはずだ。

「ひどい怪我でしたので保護し、一旦父のところへ預けてあります。聞くところによると仲間から手酷く裏切られたとか。雛樹の知り合いですか?」

「いや……伊庭の元部下だ。俺との面識はない」

「そうですか……いえ、伊庭少尉との関係性は話を聞いていたのでわかっていたのですが……」

「歯切れ悪ィな。なんかあったんか」

 RB軍曹が話に割って入り、なぜか口ごもる静流に次の言葉を促した。

「祠堂君、一連のやりとりの音声データをあなたの端末に送るわ。確認してみて」

「ん、なに。どうやって聞くんだこれ……」

静流に教えてもらい、送られたデータを確認した。
その音声データは本土部隊の男女二人と伊庭少尉のやりとりが記録されており……。

「……普通に聞きゃあ昔馴染みに助けを求められてそれを蹴ったって形なんだろうが……なんか違和感ねェか?」

「多分伊庭少尉の口調が芝居掛かってるからそう感じるのだと思います」

「そうかァ? こいつ普段から芝居掛かってるとこあっからなァ……。まあいいやシドー、この音声データ俺にも送ってくれ」

「……これどうやって送るん?」

「もぉ仕方ないですね、ヒナキは。ちゃんと教えてあげますから覚えるんですよ」

 静流はそう言いながらも大層嬉しそうに端末の使い方を教えていた。
 音声データを受け取ったRBはもう一度そのやりとりを聞きながら……。

「隙みて伊庭にはこのとこ問い詰めといてやるぜ」

「ああ、そうしてくれると助か……」

 ……と、雛樹の端末に一通のメッセージが入った。
 送り主は……PrototypeMessageSystem。

「なんだこれ……」

そのメッセージを確認すると……。

《しどおさむい早く迎えに来て》

 おそらくベリオノイズのコクピット内から、雛樹の端末へメッセージを送ったのだろう。
 そういえば放置していたガーネットは海水でまだ拘束衣ごと濡れたままだった。
 早いところ迎えに行ってやらないとと、雛樹は生乾きの服を着て出て行こうとする。

「どこに?」

「話せば長くなる!」

 雛樹は急ぎ足でベリオノイズの格納庫へ向かうことになる。
 

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