ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら

稲荷一等兵

42話ー到着ー


「着いたぜ。行けるか?」

 RBの問いかけに対し頷くことで返事をした。
 輸送車両後方の堅牢なドアが自動でゆっくりと開かれてゆく。
 外に出るとそこは……。

「っは、相変わらず辛気臭ェとこだな」

 言葉は汚いがどことなく落ち着いた雰囲気のRB軍曹を横目に、雛樹もそこそこ腑に落ちるものを感じていた。
 ここの雰囲気は本土にも点在していた大規模廃プラントに似ている。
 乱立する煙突状のフィルター、血管のように張り巡らされた大小様々なパイプ管。
 全体的に石灰色で統一された金属の森。そこがグレアノイド採掘するためのシャフトを構築する施設だという。

「この都市にしては随分古めかしい建築物なんだな」

「そりゃあそうだ。この馬鹿げた文明を築き上げる前の施設だってんだから」

 この海上都市が方舟と呼ばれる前。まだ本土の一部として存在していた時。
 その時代に方舟計画を動かす始めの第一歩として建設されたのがこの採掘シャフトだ。

 採掘したグレアノイドを純粋なエネルギーに精製するための施設も兼ねているため、こうした大規模な施設となっているのだろう。

「あいつらももう来てやがるな」

 RBは自分の主兵装である馬鹿でかい剣を背負いながらもう一台停まっている輸送車に目を向けた。
 堅牢なコンテナには青を基調としたセンチュリオンテクノロジーのロゴが刻まれており、車体の大きさもRBや雛樹が乗ってきたのよりも大柄である。

「おお、お二人さん。もう来とったんやねぇ」

「あんたらと変わらねェよ……」

 輸送車後方から出てきたのはセンチュリオンテクノロジー所属、蘇芳少佐と新田大尉。
 二人とも任務ということもありこの前のような私服ではなく任務時に着る軍服を纏っている。
 やはりそうなると雰囲気がぐっと変わり、一目見ただけだと誰だと疑いたくなるほどだ。

 特に蘇芳少佐などは初見では着物を着ており、かつ髪も花魁かと言いたくなるようなほど豪華に結われていたため随分と様変わりしているのだ。

「……と、随分固めてきてんな。えらく慎重じゃねェの」

 二人の武装の本気っぷりを眺めてからRBは少々呆れつつ言う。

「ほやろぉ。今回は何が起こるかわからんー言うて、ようさん持たされたんよ。まあうちは裕福やからねぇ、予算も潤沢に出よりますよって。そちらの貧乏事務所とはちごてぇ」

 にまにまといたずらな笑みを浮かべながら雛樹の方を見た蘇芳に対し、RBはまた始まったとでも言わんばかりの呆れ顔。
 雛樹はというと、まあ間違いなく予算不足でこれくらいの装備しか用意できませんでしたと言っているような格好をしているのは自覚していたため……。

「足は引っ張らないように頑張りますので、よろしく」

「……」

 そんな飄々とした雛樹の返答が面白くないのか、蘇芳は肩をすくめ……。

「なんやぁにぃやん、掴みどこあらしまへんなぁ。もうちょっとおこてくれんと面白ぉあらへんやろぉ」

 自分の頭の上で両手人差し指を立て鬼の角を模しつつ蘇芳は不満げに言う。
 雛樹は雛樹で心の内ではこいつ何を試してるんだとぼやきつつも飄々とした態度は崩さずにいた。

「蘇芳少佐、お気に入りの彼をからかうのはその辺に。そろそろ任務開始時間ですぜ」

「ん、そやねぇアラタ君。ほな行きましょか? お二人さん」

 そう言ってどこか楽しんでいるようにも見える蘇芳は軽い足取りで採掘施設の入り口へと向かっていった。
 その後ろ姿を見ながらRBはというと……。

「……相変わらず性格悪ィ狐女だなァオイ。あんま気にすんじゃねェぞ。絡まれるとクソ面倒なのは昔からだ」

「大して何も思ってないから大丈夫」

「本当のとこどうなんだよ」

「一発だけ殴らせてくれませんかね」

「オイオイ結構キてんじゃねェか。ヤベェな」

コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品