ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら

稲荷一等兵

第4節15部ー裏切りの……?ー

「……あ?」

 伸ばした伊庭の手は、RBから差し出された銃に掠りもせず、空を切った。
 RBが渡そうとした銃を引き、持ち直したのだ。
 そして、撃鉄が雷管を叩く。火を噴く銃口。
 放たれた弾丸は、雛樹の攻撃をことごとく防いだ伊庭のフォトンノイドシールドを貫通し……。

「……!! オイ……どういうつもりだRB……!」

 伊庭の右肩に装着されていた、フォトンノイドシールドデバイスを貫いた。
 デバイスから青い粒子が飛び散り、火花をあげて停止する。

「悪ィな。俺に任務を依頼してきたのは、企業連のジジイじゃねェ。そいつはやらせねェよ、伊庭」
「生意気な野郎だ。俺はテメーの上官だぞ、RB!! 銃を下ろしやがれ!」
「ッハ、そりゃあできねェな。おい祠堂、立てるか?」

 思わぬ助けに、雛樹は放心状態であったがRBの呼びかけに対して反応し、折れた足を庇いながら立ち上がった。

「その脚じゃ辛ェだろうが、こいつを持ってこの先に行け。高部が荷物をそこに落とす」

 RBは雛樹に通信機を渡した後、背負っていた大剣を抜き放ち肩に担いだ。

「荷物……!? RB、あんたはどうするんだ」
「俺ァこいつをボコって止めておくからよ。悪ィな、うちのが迷惑かけた」

 RBに渡された通信機を装着しつつ、雛樹はRBの背中に言いようのない頼もしさを感じていた。
 実際、RBが敵に回ったと確信した伊庭の表情は芳しくない。ただ歯を食いしばり、にらみつけることしかできていないのだ。

「クソ、まちやがれ祠堂!!」
「待つのはてめェだ、伊庭。情報機関部長、オスヴァルト。あいつのうさんくささ丸のみにしてこんな任務受けやがって」
「どけよRB……!!」
「どかしたきゃ力づくでどかしてみな。相手になってやるよ」

 ちょいちょいと手招きしたRBに対し、伊庭は臨戦態勢に入る。上官と下士官、どちらの立場が上か、そのことで不利益を被るのはどちらか……。
 それは火を見るより明らかだった。

「上官である俺に刃を向けたってことが、どういうことかわかってんのか、RB」
「さァ、どうだろうな。どうなろうが知ったこっちゃねェが」
「てめーのことだぞ」
「ッハ、俺はあんたと違って生きる場所は選ばねェんでな。祠堂雛樹は追わせねェ」

 雛樹がこの施設の最深部へ行く前に追撃せんとした伊庭と、それを阻止しようとするRBが戦闘を開始した。
 凄まじい衝撃を背に感じながら、折れた足を引きずるようにして命からがら逃げてきた雛樹は、部屋の扉を閉めてロックをかけ、その場にしゃがみ込んだ。


「……こちら祠堂雛樹。応答を」
《やあ、祠堂君。RBが間に合ったようでよかったよ》
「高部さん……」
《すまない。私がオスヴァルトらを止められていればこんなことにはならなかったんだが……。伊庭君は君の戦術を上回る装備を持っていたはずだ。無事だったか?》
「いや、無事じゃない……。それに、貴方が出てきたということは、この状況の説明を求めてもいいということですか」
《私の立場上、今ここで説明することはできない》
「いや、説明を聞いたぐらいでは理解できそうもないのでちょうど良かったです」

 施設最深部。おそらくここは、ミサイルか何かを射出する施設のようだったのだが……。
 ミサイルの発射台から遥か頭上まで、まるで大木のように伸びたグレアノイド体の塊。
 その全てが、かつて人の形をしていた侵食体であり、その集合体である事は見ただけでわかったのだが……その規模が途方もなさすぎる。
 先ほどから、この侵食体の柱が大きく脈動するたびにこの施設自体が揺れていた。

《君にその侵食体を破壊してほしい。その侵食体が外にいる部隊を攻撃しているんだ》
「……こんな巨大なもの、どうすればいいんだ。俺だけでは破壊できません」
《そのための機体は先ほどようやく用意できた。今そちらに送っている》
「機体……?」

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