ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら

稲荷一等兵

39話ー離れるリスクー


 こいつの考えていることがまだよくわからないなとぼやく祠堂ではあったが、夜刀神葉月はガーネットに少なからず違和感を覚えていた。

 そもそものところ、ガーネットが雛樹から離れたがらないのは懐いていること以上に、ガーネットが保有するドミネーター因子の沈静化によるものが大きかったはずだ。

 どれだけの範囲内に居れば沈静化するのかは正確にはわかっていないが、それでも離れ過ぎるのは好ましくないはず。
 だがそうは考えても違和感は違和感のままだ。
 別段詮索する必要も無いだろうと判断した。

 採掘シャフトの環境の劣悪さは知っているし、さらにはいくらなんでも常時共にいるということなどそうそうできるものではないと考えたからだ。

「結構長い事離れることになるが、その辺は大丈夫なのか?」

「んぅ……? あー、大丈夫ぅ。多分だけどぉ」

「歯切れ悪いな。調子悪くなって暴れ出すとかやめてくれよ?」

「暴れてもちゃんとしどぉが止めてくれるでしょお?」

「流石に本気で暴れ出したお前をとなると難しいかもしれないだろ」

 潜水艦内でへんたいさんと間違えられ襲われたことが思い出される。
 暴走しているわけではなかったし、こちらは動きづらい防護服を着ていたということもあったがあまりの凄まじい戦闘力に圧倒されてしまったからだ。

「しどぉなら大丈夫ぅ」

「なんか……方舟の守護者である貴女が言うと重みが違うわね」

「そうよぉ。滅多に認めてあげないんだからぁ。しどぉと……気にくわないけどあのRBぃってのは方舟でも別格ぅ」

「そんなに?」

「あー……人一人としての戦闘センスってことぉ。今は性能のいい兵器を装備する中身の伴わない兵隊さんはいっぱいいるし、その中にはしどぉを凌駕するのもいるだろうけどぉ。単純に身一つでの戦闘じゃ間違いなく二人は頭一つ抜けてるわぁ」

 それもそのはず、身一つで踏んできた場数がこの方舟にいる兵士たちとは比べものにならないのだから。

「データベース上には二人以外にもいくらかとんでもないのもいるけどぉ……」

「あの、気になってはいたんだけれど、ステイシスサーバーには何故海上都に存在する兵士の記録まで登録されているの?」

「あたし一人で対処できない状況になった時、都市中の兵隊さんを動かすためよぉ」

「この方舟の最上位指揮官になるということ!?」

「そぉ。だからあたし一度にいろんなこと考えるの得意なのよぉ。そういう風に作られたからぁ」

「そんな情報聞いた事なかったわ……。そうなってくると方舟の守護者をぽんと祠堂君に預けてきたのって……どう考えてもおかしいわよね。高部局長になんの利益があるのかしら……」

 口元に手を当て、なにか考えるようにぶつぶつと呟きだした葉月をよそに、今の話を聞いて少しばかり感心したそぶりを見せた雛樹に対しガーネットは……。

「んふふぅ。すごいでしょお。撫でてくれてもいいのよぉ。ねぇ、ほらぁ、撫でてぇ」

 むいっと胸を反らし、立派な胸を突き出させながらいい加減首のことは許してほしいとばかりに甘えてくるガーネット。
 あまり甘やかすと後で調子に乗るため、右手でぽんぽんと頭を軽く叩くのみにとどめておいた。

「えーちょっとぉ、ちゃんと撫でなさいよぅ」

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