ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら

稲荷一等兵

第3節10部ー物資輸送ー


 海から吹く風が島の中心へ向かっていく。荒れてはいるが、ステイシスにとっては初めて降り立つ方舟以外の大地。
 人工的に作られた道などは見当たらない。ただただ不毛な土地には木々が生い茂り、集落へ続くであろう舗装もされていない道を進むしかない。
 それだけのことなのだが、随分とソワソワしている彼女に雛樹は声をかけた。

「どうした、トイレか」
「アルマ、こんなところ初めてぇ。ねぇ、あっち行ってきていーい?」
「後でな。一応任務中だぞ、頼むから遊び出すのだけはやめてくれよ」
「んぅー、つまんなぁい」

 雛樹はアサルトライフルをげ、輸送艦から降りてきた3台の小型コンテナ車の列、その左側へついた。その隣で、ステイシスは光学小銃レーザーガンを同じように提げていた。
 ステイシスは兵器の知識に富んでいるだけでなく、その扱い方まで熟知していた。腕前も申し分ない。何より、その身体能力と合わされば右に出る兵士はそうそう居ないだろうという程だ。

 あとはその心構えだけなのだが、お仕事より好奇心が勝ってしまっている彼女にとってどこまで真面目でいられるか。 
 一抹の不安を抱えながら、雛樹はゆっくりと進み始めたコンテナ車の車列に同行した。

《集落から生存者らしき反応があったわ。ただ、反応が三つや四つ点々と固まってたり、その場から動きがなかったりしているの。もしかしたら集落周辺にドミネーターが発生していて、身動きできないでいるのかもしれないわ》

 葉月から、その連絡があったのはつい先程だ。

 ドミネーターが集落周辺を徘徊しているから、屋内から出られないでいる。普通に聞いていると、まあ希望のある言葉だ。助けに来たこちら側としては、集落の人間が生きていてくれればその甲斐があるというもの。

 だが、一番気になったのはそこではない。三つや四つ固まった一つの集まり。その場から動かない。しかしそれらは生存者の反応を示している。

「……いや、それにしては集まりが多すぎる。考えすぎか……?」
「なぁに?」
「ああ、いや、なんでもないんだ。悪い」

 ここまでなんの音沙汰がなかったこの島に、本当に生存者などいるのだろうかと雛樹は思っていた。だが、ここに来てようやく生存者の反応をレーダーで確認できたと報告が入り、その生存者の配置も不自然ときている。

 それより何より、島の北に位置する山。そこから強いグレアノイドの気配を感じ取っていた。これはステイシスも同じようなのだが、この島も少なからずグレアノイドの侵食を受けているという事もあり、別段気にしている様子はない。

 だが、一応警戒しておく必要性があると判断した雛樹は、この部隊を率いるヤマト民間軍事会社の二人の元へと向かった。

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