ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら

稲荷一等兵

第16話ー自分自身ー


 とっさに構えたレーザーライフルのトリガーを引き、ガスマスクの男を裂かんとしていたムラクモを弾き飛ばす。

 だが残り3基のムラクモはまだドミネーターの手の内であり、その3基は全てブルーグラディウスに向かっていた。

 ムラクモの一撃でブルーグラディウスのシールドが剥がれ、二撃目でスラスターを一基破壊された。
 だが残ったスラスターを用いて紙一重で3基目の攻撃を躱すが、ムラクモの恐ろしいところはその追尾性にある。

 ムラクモを止めるには制御するか、破壊するか……そして。

「随分調子に乗ったな……」

 無理やりに抑え込むかだ。
 雛樹はいつぞや使った、ワイヤー状にしたグレアノイド光による捕縛をムラクモに向け、その全ての動きを封じ地面に叩き落とした。

 地面に突き刺さった複数のムラクモを軸にし、そこから伸びたグレアノイド光を強く引き絞った。
 自身を、弩に仕掛けられた矢のようにし……。

 凄まじい速度で敵が動くのならば、それ以上の速さで接敵してやればいいだけの話。

 己を矢のごとく打ち出し、ドミネーターに向かって凄まじい速度で接近しつつその顔面をひっつかみ、ビルの壁に叩きつけた。

 硬い。叩きつけた自分の腕が砕けそうなほどの硬度。

 だが、自分がこのドミネーターを留めておけば当たるだろう。

 軸にし、はるか後方に地面に刺さったままになっていたグレアノイドを貫くムラクモの刃は。

『ギッ……ギギギ……』

「お前のグレアノイド変換速度が間に合うかどうか……試してみろ」

 今度は雛樹を軸にし、弩よろしくギリギリと凄まじい力が加わったムラクモが地面から抜ける。
 その三基全てが、雛樹が押さえ付けるドミネーターその一点を穿ち、ビル壁もろとも凄まじい衝撃に巻き込んだ。

 その粉塵の中、雛樹は見ることとなる。

 あのステイシスがなぜこのドミネーターへ攻撃することを頑なに嫌がったのか……その理由を。


「違和感の正体は……これか」

 赤いグレアノイドの光に照らされて、かろうじてグレアノイドの体表から見えていた金属の板。

 雛樹がいつも首から下げているものと、同一のもの。

 CTF201、HINAKI SHIDOU

 その板に刻印されているその他情報も、自分が今首から下げているものと一致している。

 そう、ドッグタグだ。雛樹がかつて軍隊に所属していた確かな証、そして自分を証明するもの。認識票。

「そうか……だからだったのか……ガーネット」

 ぐらりと視界が揺れる。
 腹にドミネーターが展開したグレアノイド光の細長い刃が深々と突き刺さっていた。

 無理やり借りたとはいえ、ムラクモ3基の直撃を受けてもなお絶命しないという絶望よりも、ただただ直面した悲劇に対して放心状態だった。

「……お前は、俺なのか」

 タイムゲートに設定した時間は6年後。
 起動したタイムゲートから現れたのだということは、6年後の自分自身だということになる。

 これならば、わざわざグレアノイドに変換し、武器としていた行動の意味がわかるというものだ。

 そう、理解した。6年後の自分は……目の前の怪物ドミネーターなのだと。

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