ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら

稲荷一等兵

第11話ー過去との邂逅ー

 自分が祠堂雛樹だということはそうそうバレることがないと言われてはいるものの、ばれてしまった時のことを考えると胃が痛くなる。
 本土で軍部相手にコソ泥まがいのことをしていた時の技術を総動員しても足りないほど、この研究施設への侵入、侵攻は容易いものではなかった。

 それでも目標に接近できたのは、本土軍の支援と未だ身を現すことのない内通者のおかげか。

 時間跳躍システム……実際にはタイムゲートシステムと言われるものの研究室付近には武装もしていない研究員が、深夜ということもありちらほらいるくらいのものだ。

 制圧することは容易い。身を隠し、近づいてきたところを殴打などで殺さず沈黙させる。
 赤子の手をひねるかのようだ。

 事前に渡されていた端末をセキュリティシステムに接続し、本土軍が遠隔操作でハッキングをかける。

 ガラス張りのケージの中に保管されていたタイムゲートシステムへの道が開け、見るからに複雑なコントロールパネルの前にたどり着く。

「……6年後の10月1日だったな」

 ガスマスク越しのこもった声は真剣そのものだった。
 正直、いくらなんでも未来と過去を繋げるゲートなど信じられないでいたのだが……それはまあ、確かめる術はあるまい。

 なにせ、この機械を起動するだけで使用するわけではないのだから。

 赤い光がゲートの表面を巡る。

 動力源が精製されたフォトンノイドではなく、グレアノイドをそのまま使用しているがためだろう。
 それだけ、タイムゲートというものは莫大なエネルギーを必要とするらしい。

「起動したな。さっさと帰って飯食って寝るか……」

 安全な場所で待機するガーネットの表情が頭の中に浮かぶ。
 まあ間違いなくむっつりとしながら、自分の帰りを待っていることだろう。

 本土の子供達についても何か聞きたい風であった。
 どうせ一緒に布団に潜り込んでくるだろうから、その時に少しばかり話してやろう。

 そこまでは、そんなことを考える余裕すらあったのだ。

「あ……?」

 そう、背後のゲートから異様な気配を感じ取るそこまでは。

「お前……は」

 その感覚を、感じたことがあった。

 忘れもしないCTF201が壊滅したあの日。
 父が死んだ本土でのあの日に相対した気配だ。

 「なんで、ここに……いる」

 グレアノイド鉱の体表はまるで洗練された鎧のように構成され、限りなく人の形に近いドミネーターのような姿をしている。
 頭部には、ドミネーター特有の赤く丸い目が左目側に存在し、まっすぐ自分を見つめているようだ。

 ドミネーター・タイプヒューマノイド……ランクは不明。

 凄まじい威圧感を持った怪物が起動させたタイムゲートから出現したのだ。

「ここで会ったが……」

 百年目。最後までその言葉を言うことなく、自らの腹の底から湧く突発的な敵対衝動に駆られるがままナイフを引き抜いた。

 その怪物に向かって歩き、雛樹の左の瞳が赤く染まってゆく。

 そして……目の前の限りなく人に近いドミネーターも、腰の後ろあたりから無骨な刃物を取り出した。
 雛樹の持つものと同じようなナイフだ。

 ドミネーターはそれの刃を掴むようにして握り前へ突き出し……雛樹はナイフの柄を握りしめ……お互いに同じタイミングでそのナイフの刃をグレアノイドに変質させた。

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