ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら
第2話ー漆黒のオンボロ機体ー
他人事のようにそう言ったガーネットだが、そんな気楽さとは裏腹に迫ってきたドミネーターを見据えた。
今現在、夜刀神PMCの所有する機体、ベリオノイズのコクピットには雛樹と、その膝の上にはガーネットがちょんと乗っている状態だ。
装備は弾薬費を最小限に抑えつつ、かつ一撃でドミネーターを屠る威力を得られるもの。
炸薬手動装填式パイルバンカー。
本来グレアノイド鉱を切削するために使用されていたものを二脚機甲用に改造した兵器である。
ほぼジャンク品とかしていたものを、夜刀神葉月が中古市場から引っ張ってきたというが……。
「この子の装甲だとぉ、ガンマ級の一撃を受けただけで剥がされるわよぉ」
「シールドなんて便利なもの、持ってないぞ……」
「シールドぉ? そんなものあっても押し込まれるだけよぉ。いーい? 要はスラスターの使い方ぁ。はい、ごーごー」
機体に備えられている各部スラスターが赤く鋭い火を吹いた。
莫大な推進力と副次効果として多少の浮力を発生させるそのスラスターは機体を数メートルほど浮遊させた。
まだ安定はせず2、3度地面を擦りながら限界域まで速度を上げた。
すでにガンマ級ドミネーターが放った赤光の矢が迎え討ちに来ている。
「見切る必要なんてないわよぉ? この子の速度としどぉの感覚で十分回避できるからぁ。その代わりカウンターブーストはちゃんと当てることぉ。この速度じゃバランス崩すと吹っ飛ぶからぁ」
「相変わらず冷静な奴だな……!! こっちは機体制御で精一杯だッ……てのにッ」
操縦桿を握っている手に汗がにじむ。
機体左側面のスラスターで機体を大きく右側へ滑らせ、向かってくる攻撃をことごとく回避しつつ、右側面のスラスターで滑る機体を止めて姿勢を制御し……そして。
操縦桿が大きく動く。
発生したドミネーターの懐に、最速で突っ込み急停止する。
地に足がつき、殺しきれなかった勢いのせいで地面をまくりあげた。
その勢いを利用し、機体右腕に装備したパイルバンカーの先を当て……。
「ああ……吐きそうだ」
トリガーを引いて、射出。
杭を叩き出す炸薬の轟音とグレアノイドの体表が破壊される破砕音が機体内部まで響く。
赤熱したパイルバンカーの弾倉付近が開き、薬莢が排出された。
薬莢といえども、二脚機甲の大きさに合わせたものだ。それは相当な重量を持ち、地面を跳ねることなく抉り埋もれた。
杭を受けて瓦解し始めたドミネーターを視界に入れつつ、腰後ろに供えてあった次弾を装填し、弾倉を閉じる。
ドミネーターの反応はあと四体。
予備の炸薬はあと6つ。余裕がある、それだけあれば十分だ。
一番近い位置にいたドミネーターに格闘戦を仕掛け、パイルバンカーを打ち込んで撃破。
2体撃破した時点で、輸送車列が3キロ圏内に入るまで10分を切る。
だが……、何を焦ったのか、そこで機体の体勢が崩れてしまった。
ベリオノイズにはオートバランサーという、自動機体姿勢制御装置が備えられていない。
普通に転倒し、ダメージを負い隙ができてしまう。
「くっ……そ……!!」
「あにやってんのよぅ。もうしかたないんだからぁ」
ガーネットはまだまだあたしがいないとだめねぇなどと言いながら、ようやく回ってきた自分の出番に嬉しさをかくせないようだ。
腹の立つくらいのドヤ顏を見せつけながら、ガーネットが雛樹の手の上から操縦桿を握る。
瞬間、水を得た魚のようにベリオノイズの挙動が変わった。
すでに45度以上傾いた、無理な姿勢のまま地面を蹴り、手をつきスラスターを使用、空中で一回転して見せ、体勢を立て直し着地したのだ。
「さ……流石だな」
「くひひ。後で頭なでることぉ」
「そりゃ随分……高くつくな」
今のガーネットにとって、頭を撫でられるというのはこれ以上ない至福であり、褒美であるのだ。
金にすら変えがたい要求を飲ませたところで、ガーネットは目をぎらつかせた。
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