ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら

稲荷一等兵

第1話ー弱小PMCの現状ー



「12時方向にグレアノイド反応!!」

「なんだ、グレアノイド隆起か……? 輸送車、そのまま前進しろ! 船はもうすぐそこだ!」

 4台のトランスポーターが、物資を乗せて荒地を進んでいた。
 ここは海上都市の外、かつて大陸であった場所の一部だ。

「あの怪物共は?」

「いまだ反応は見えず。このまま突っきれそうですね」

「ああ、それならそのほうがいい。迂回して無駄な時間を食うわけにもいか……なんだ!?」

 凄まじいアラート音がトランスポーターの運転席に鳴り響く。

 前方のグレアノイド隆起から、複数のドミネーター反応が出現。

 その全てがΓ(ガンマ)級の強力な反応だった。

 油断してこそ、最悪の事態を引き寄せることができる。

 そして、その泣所が稼ぎ時の傭兵もどきがいた。

「くそっ、おい護衛は何してる!?」

「夜刀神PMCのパイロット、聞こえているか!? 仕事だ! 前方にドミネーターが現れた!! 輸送車列を守れ!!」

 この車列と並行して走っていた、一機のボロい二脚機甲へ連絡を入れた。
 歪な漆黒の装甲の亀裂やら欠けた部分やらを追加装甲で補い、大した装備も積んでいないように見えるその護衛は正直、あまり期待はできない。

 もう少し、護衛に金をかけておくべきだったと今更思い知らされた。

 だが、そんなボロい機体を操る操縦士からの返答は……。

《了解。あなたたちはそのままの速度で前進してくれ》

 ひどく頼もしいものだった。
 車窓から、赤い粒子の尾を引きながら一気に加速していく機体を見て、あっという間にはるか前方へ離れていってしまう漆黒の機体。

 なぜかその機体に、同じく黒く異形の機体……箱舟の守り神ステイシスの面影を見た。


10月10日。夜刀神NPCへ、レアメタルロジテック社が資源輸送船団の護衛任務を発注。

 報酬金額は、夜刀神PMCが所有する指導雛樹の機体の運用を前提としても、ギリギリ利益が出るか出ないかの金額を提示された。

 本来レアメタルロジテック社はその名の通り希少金属を扱い、外部からそれを海上都市へ輸送することで成長した企業である。

 しかし、本土から離脱したばかりの頃の海上都市ではレアメタルの需要は相当数あったのだが……。

 グレアノイド精製技術が発達し、あらゆる機器にフォトンノイド物質化光が使用されるようになってから、経営はあまりうまくいってはいない。

 そんな状態であることから護衛に金をかけるわけにもいかず、無いよりはましといったところで夜刀神PMCへ依頼、夜刀神葉月はその任務を受注した。


 報酬も低く、危険度の高い海上都市外のレアメタル輸送。なぜそんなリスキーな依頼を受けたのか。

 今現在、この弱小PMCにはそんな依頼しか回ってこないでいるのだ。
 規模があまりにも小さい、かつ、唯一抱えている社員にはスパイ疑惑がかけられ悪評は絶えない。

「祠堂君、お願いね」

「はいよ」

 とにかくどんな仕事でも受けて、実績を上げなければいけない今、どんな仕事を振っても嫌な顔一つせずこなす社員がいれば必然的にそうなる。

《戦闘区域設定、グレアノイド隆起から半径500メートル内で殲滅して。輸送車両が3キロ圏内に入った時点で輸送路を変更するように伝えるわ》

「輸送車列が戦闘区域3キロ圏内に入るまで何分だ?」

《約15分ほどね》

「どう思う、ガーネット」

「もうちょっと装備がマシなら余裕かしらぁ。なんで近接武器しか積んでないのぉ。バカなのぉ?」

《そんな兵装買うどころか……レンタルする余裕もないのよ……》

「うちは貧乏だからな、仕方ない」

「びんぼぉってつらいのねぇ。デトで多連粒子砲使い潰してた頃が懐かしいわぁ」

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