ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら
ー精神的負担ー
今からどこに行くのか知らされていない静流ではあったが、特に行き先を聞くことはしなかった。
こうして雛樹の腰に捕まってツーリングしているだけでも十分楽しいのだ。
本土にいた頃、ずっと雛樹と一緒にいた昔を思い出す。
本当に、こんな時間がずっと続けばいいのに……などと、素直に思えればおいいのだが。
結月静流という兵士はそれを許さなかった。
むしろこれはとんでもないストレスとなっていた。自分でもあまり自覚できてはいないが、彼女を兵士たらしめた海上都市での数年間は浅くはない。
意思の薄かった幼少期と比べて確固とした目標を持ち、死に物狂いで力をつけてきたその期間は知らず知らずのうちに彼女を雁字搦めに固めていた。
「……?」
一瞬、めまいがして意識を手放しかけた。
体調が悪いわけでもないのにと意識をはっきりとさせようとしたのだが……、雛樹の腰に回していた腕が離れていた。
バイクは60キロ前後で走行している。体の力が抜けて支えることをしなくなれば後方へ倒れていく。
(おいおいおい!!)
腕を話されるのはまだいい。雛樹はまたがっていたバイクの重心が変化したことに驚き、振り向くと今まさに落ちんとしている静流がいたのだ。
走行中だ。下手に叫んで集中力を切らせるわけにはいかない。
心の中で驚きながら、静流の胸ぐらを左手でひっつかんで引き寄せた。
「どうしたんだよ、ターシャ。貧血でも起こしたか?」
そういえば静流は何も食べないまま出てきたことを思い出し、近場にあった喫茶店に入って座らせた。
「すいませんヒナキ、大丈夫です」
あまり大丈夫ではなさそうだったのだが、サンドイッチとコーヒーを食べ終わった頃には顔色も元に戻っており安堵した。
「ヒナキと一緒にいるのが心地よくて……少しばかり、怖くなってしまったのかもしれません」
「怖くなった?」
「……いえ、忘れてください」
静流の中では、今こうして過ごしている自分が許せない自分がもう一人いる。
兵士としての自分、己を厳しく律するための自分である。
最近、仕事中でも雛樹のことを考えて調子が悪くなる時があった。
その都度、そんなことを考えていいのか、もっと冷静に冷酷に任務を遂行しなければ彼のような兵士にはなれない。
強烈な精神的負担がのしかかることで、身動き取りづらくなるのだ。
君は憧れる人間を間違えている。
父に言われたその言葉は、今でもはっきりと否定できる。
だから問題なのだ。このままでいい。
「仕事で疲れてたんだろ? 風呂も入らず着替えもせずに寝るくらいだしな」
「……はい。少しハードな仕事の後だったので」
「まあ、それだけじゃないみたいだけどさ」
雛樹は雛樹で、静流の今の状態を大まかに理解していた。
これまで凄まじい努力をしていたことも、それに見合った成長をしていたことも。
そしてそれらは全て、自分に近づくためだということも。
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