ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら

稲荷一等兵

ー仲良しー

 今までどのような男性と話していても緊張などしたことのなかった静流ではあったが、変に意識してしまう雛樹とこうしてプライベートで向き合うと多少なりとも緊張してしまうのだろう。

 結局のところ、ニット生地の落ち着いた服にジーンズという格好にはなった。
 必要以上に着飾ると雛樹に気を遣わせてしまうため、これがベストだと判断したのだ。

 そして、早く出かけようと雛樹の手を引いてこの豪邸の外に出た。
 雛樹は停めていたバイクに跨り、静流も渡されたヘルメットをかぶってタンデムシートに座り……。

「えっ……えっと、腰とか持っちゃったりしても?」

「ん、落ちなけりゃどこでもいいぞ」

 と、まあ走り出す頃には雛樹の腰に腕を回して自身の体を固定していた。
 広々としたオフィス街の道路を走っていると、あちこちに展開されている立体モニターに映し出されたニュースが目に飛び込んでくる。

 目的地に着くまで少なくとも3回は見ただろうか。静流にとっては少しばかり食傷気味なそのニュースだったが、雛樹にとっては何度聞いても信じられないビックニュースだった。

「葉月の事務所じゃないですか」

「どうしても祝いたいから連れてこいって言われてな。仕事だからそう長くいられないようだけど」

 静流からヘルメットを受け取りながら、雛樹は先ほどまでのニュースを頭の中で反芻しながら静流に問う。

「時間跳躍……なんて、あり得る話なのか?」

「ああ、ニュースの話ですか? 企業連主導で研究し続けていることですが、不可能ではないようです。グレアノイド鉱石が発見される前までは不可能だと思われていたみたいですが」

 ニュースでは、時間跳躍のための試作ゲートが完成しつつあるということが大々的に取り上げられていた。
 タイムトラベル……などというものは人類にとっての夢であり、決して成し得ないとされてきたものだ。

「ただ……上手くはいかないと思います」

「やっぱそうなのか」

「ええ、ニュースで報じられてるゲートですが……」

 などと話しながら夜刀神PMCの扉を開くと、今まで机に向かって仕事をしていたであろう葉月が目を輝かせて立ち上がり、静流の元へ駆け寄った。

「誕生日おめでとう、しずるん!!」

「あはは、ありがとうございます、葉月。でもあの、その呼び方は止めてくださいとあれほど言っているでしょう」

 その仲睦まじい様子に、雛樹はしばらく黙って様子を見ていたが……。

「本当に仲良いな……」

 静流の胸をぽよぽよと下から持ち上げている葉月と、されるがままになっている静流を見ながらぼそりとそう言うと……。

「そりゃあ、私たちはルームメイトだったから。しずるんには色々助けられてたのよ」

「助けられてたら、そんな胸いじくりまわすほど仲良くなるのか」

「あの……ヒナキ、これは葉月が勝手にしていることであって、私が望んでいることではないですからね」


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