ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら
幕間短編ーステイシスの休日ー
祠堂雛樹という男と住むようになってから、方舟の最高戦力ステイシスこと、ガーネットは……。
「しどぉ……早ぁい」
「お前はまだ寝てていいぞ。少し外を走りに行ってくるだけだから」
「んーん……あたしもイクぅ……」
「ちゃんと服を着てからにしてね……お願いだから」
朝5時、まだ外が薄暗い時間から起きて、怪我が治った雛樹のリハビリについていくという、とても健康的な生活を送っていた。
企業連の道具として幽閉されていた時とは大違いだ。その頃は一日中寝ているか、突然起こされて化け物退治に駆り出されるだけの毎日だった。
ただ、雛樹にとっては刺激的な毎日となっている。
なにせ、家にいるときは露出の多い拘束衣を身につけながらもだらしなくうつ伏せになったり、猫のように伏せて伸びをしたりと、目のやり場に困ることが多くなった。
その上、寝るときはいつの間にか素っ裸でこちらのベッドに潜り込んで抱き枕代わりにされる始末。
昔のターシャ……現在の結月静流を思い出して悪い気はしないのだが、なにせガーネットの体つきはアンバランスだ。
身長も見た目も幼いくせに体つきは大人顔負けときているのだから。
「ちゃんと準備運動しないと」
「めんどくさぁい」
広大な緑の丘陵地。その丘のてっぺんに建てられた小さな家。あたりには他の家の影はなく、ただただのどかな牧歌的風景が広がっている。
そんな環境だ。早朝のジョギングも捗るというもの。
しかし、しっかり準備運動をする雛樹に対し、言われて渋々小さくめんどくさそうに跳ぶだけのガーネット。
彼女がジョギングについてくると言ったのは、なにも体を動かしたかったわけではない。
「ねえ、しどぉはやくぅ」
「早いと言ったり早くと言ったりわがままだよな。もう少しで終わるから一周してくるか?」
「しどぉが終わるまで待つぅ」
「待つの? いいよ走ってこいよ」
「終わるまで待つぅ」
「そんなじっとしゃがんで見られててもなぁ……、走ってこ」「次言ったらビンタぁ」
「……それは勘弁」
……と、何事も雛樹と一緒精神が身についてしまっているのだ。
ガーネットにとって、まともに触れ合える人間は祠堂雛樹、ただ一人だけ。
そしてもうひとつ、雛樹とガーネットの間になんらかの共鳴関係にあるのか、
ガーネットは雛樹をそばに感じていると精神的にも身体的にも安定すると言うのだ。
そうして、雛樹とガーネットのジョギングが始まったのだが、とにかくガーネットは走るペースが尋常ではない。
腕の力を抜き、前傾姿勢で、かつ大股走り。雛樹はそういった走り方をする人間を、彼女以外に知らないが……とにかく早い。
「ガーネっ……早い! なんでこんな朝っぱらから全力疾走なんだよ!」
「全力ぅ? あたしも見くびられたものねぇ」
「全力じゃないのか!」
とにかく身体能力ステータスが全て限界突破してしまっているガーネットは、いろいろなところが規格外だ。
息も絶え絶えになりながらジョギングを終わらせ家の前に戻ってきた雛樹は、シャワーでも浴びようと中に入ろうとしたが……。
「しどぉ、あそびましょお」
「んー、ちゃんと力加減できるならな」
「大丈夫大丈夫ぅ」
と、小さく飛び跳ねながらおねだりしてきたのだ。あそびたい、とガーネットが言うと、それは戦闘行為に及ぼうという意味に他ならない。
と言っても雛樹相手だ。生き死にに関わるようなものではない。
お互い素手同士。組手のようなものだ。
体はお互い十分に温まっている。家の裏手に回り、少し開けた場所で向かい合った。
「よし、ばっちこい」
「んひひ、いっくわよぉ」
組手と言っても、お互いがお互いを研磨し合うようなものではない。
ガーネットの戦闘欲求を解消するため、雛樹が付き合ってやる程度のことだ。
特に何のスタートの合図もなく始まった組手は、凄まじい速さで展開していく。
とにかく蹴りや殴りつけの手数が多く、動きが素早いトリッキーな攻撃をしてくるガーネットに対し、その全てをギリギリで見切り弾き躱す雛樹。
ガーネットが手加減しているからこの攻防が成り立つのだが、それでも彼女は楽しそうに雛樹にじゃれていた。
「いったぁ……!!」
「はぁっ、はあ……っ、はい、終わりなっ……。もう俺無理……」
で、結局最後は腕や足を絡め取られ、ガーネットは柔らかい芝生の上に抑え込まれてしまうのだ。
そこの部分はガーネットも毎度のごとく感心している様子だった。
「流石ぁ。あたしをこんな簡単に押さえこめる人間なんてそうそういないわよぉ?」
「ここまでしても汗ひとつかかず、息ひとつ乱さないやつもそうそういないけども……」
二人して芝の上に寝っ転がって、明るくなってきた空を仰ぎ、しばらくしてからシャワーを浴びた。
「ねぇしどぉ、一緒に浴びよぉ?」
「嫌だ」
「なんでよぉ」
「お前執拗に股間覗こうとしてくるだろ」
「観察ぅ」
「すんな」
と、お互いにさっぱりとしたところで朝食を摂り、今日1日本格的に始まったわけだが。
今日はお互いに休日であった。そして、給料日でもある。
仕事をすれば、金という形で報酬が支払われる。それが会社というものだ。
それにのっとり先日、初仕事を終えたガーネットに、雛樹はガーネットへ今回の報酬を封筒に入れて渡したのだが……。
「なにこれ、いらなぁい」
ソファーに寝転び立体モニターに映し出されるテレビ番組を見ていたガーネットは、封筒に一瞥くれたあと、投げてよこしたのだ。さすがにいらないでは済まされない。
突き返された報酬を手に、困惑した表情でどうにか渡そうとしたが……。
「お金なんて持ってても欲しい物なんてないしぃ……。第一、まともにお金なんて使えないんだからぁ」
「金は持ってて損はしない。それに、これはお前の正当な取り分なんだ。これからも任務をこなしていく仲だろ。受け取ってくれ」
「いらないものはいらないのぉ。なぁに、ビンタぁ?」
「それは勘弁」
ソファーにうつ伏せで寝転がっている彼女は、そのまま顔だけをこちらに向けて睨んできた。
しつこいのを嫌うため、少しでも粘れば拘束衣越しのビンタが飛んでくる。ガーネットのビンタはシャレにならない痛みを伴うため、雛樹もこれには注意しているのだが……。
「じゃあ今日は街に行こうか。買い物だ」
「買い物ぉ?」
「金の使い道がわからないんだろ? 俺もそんなに得意な方じゃないけど、まあ、社会勉強ってやつだ」
「ふぅん。楽しいのぉ?」
「さあ、楽しいかどうかまでは……」
「行くぅ。はやくいこぉ」
……と、そんな経緯で休日の過ごし方を決めてしまったのだった。
「しどぉ……早ぁい」
「お前はまだ寝てていいぞ。少し外を走りに行ってくるだけだから」
「んーん……あたしもイクぅ……」
「ちゃんと服を着てからにしてね……お願いだから」
朝5時、まだ外が薄暗い時間から起きて、怪我が治った雛樹のリハビリについていくという、とても健康的な生活を送っていた。
企業連の道具として幽閉されていた時とは大違いだ。その頃は一日中寝ているか、突然起こされて化け物退治に駆り出されるだけの毎日だった。
ただ、雛樹にとっては刺激的な毎日となっている。
なにせ、家にいるときは露出の多い拘束衣を身につけながらもだらしなくうつ伏せになったり、猫のように伏せて伸びをしたりと、目のやり場に困ることが多くなった。
その上、寝るときはいつの間にか素っ裸でこちらのベッドに潜り込んで抱き枕代わりにされる始末。
昔のターシャ……現在の結月静流を思い出して悪い気はしないのだが、なにせガーネットの体つきはアンバランスだ。
身長も見た目も幼いくせに体つきは大人顔負けときているのだから。
「ちゃんと準備運動しないと」
「めんどくさぁい」
広大な緑の丘陵地。その丘のてっぺんに建てられた小さな家。あたりには他の家の影はなく、ただただのどかな牧歌的風景が広がっている。
そんな環境だ。早朝のジョギングも捗るというもの。
しかし、しっかり準備運動をする雛樹に対し、言われて渋々小さくめんどくさそうに跳ぶだけのガーネット。
彼女がジョギングについてくると言ったのは、なにも体を動かしたかったわけではない。
「ねえ、しどぉはやくぅ」
「早いと言ったり早くと言ったりわがままだよな。もう少しで終わるから一周してくるか?」
「しどぉが終わるまで待つぅ」
「待つの? いいよ走ってこいよ」
「終わるまで待つぅ」
「そんなじっとしゃがんで見られててもなぁ……、走ってこ」「次言ったらビンタぁ」
「……それは勘弁」
……と、何事も雛樹と一緒精神が身についてしまっているのだ。
ガーネットにとって、まともに触れ合える人間は祠堂雛樹、ただ一人だけ。
そしてもうひとつ、雛樹とガーネットの間になんらかの共鳴関係にあるのか、
ガーネットは雛樹をそばに感じていると精神的にも身体的にも安定すると言うのだ。
そうして、雛樹とガーネットのジョギングが始まったのだが、とにかくガーネットは走るペースが尋常ではない。
腕の力を抜き、前傾姿勢で、かつ大股走り。雛樹はそういった走り方をする人間を、彼女以外に知らないが……とにかく早い。
「ガーネっ……早い! なんでこんな朝っぱらから全力疾走なんだよ!」
「全力ぅ? あたしも見くびられたものねぇ」
「全力じゃないのか!」
とにかく身体能力ステータスが全て限界突破してしまっているガーネットは、いろいろなところが規格外だ。
息も絶え絶えになりながらジョギングを終わらせ家の前に戻ってきた雛樹は、シャワーでも浴びようと中に入ろうとしたが……。
「しどぉ、あそびましょお」
「んー、ちゃんと力加減できるならな」
「大丈夫大丈夫ぅ」
と、小さく飛び跳ねながらおねだりしてきたのだ。あそびたい、とガーネットが言うと、それは戦闘行為に及ぼうという意味に他ならない。
と言っても雛樹相手だ。生き死にに関わるようなものではない。
お互い素手同士。組手のようなものだ。
体はお互い十分に温まっている。家の裏手に回り、少し開けた場所で向かい合った。
「よし、ばっちこい」
「んひひ、いっくわよぉ」
組手と言っても、お互いがお互いを研磨し合うようなものではない。
ガーネットの戦闘欲求を解消するため、雛樹が付き合ってやる程度のことだ。
特に何のスタートの合図もなく始まった組手は、凄まじい速さで展開していく。
とにかく蹴りや殴りつけの手数が多く、動きが素早いトリッキーな攻撃をしてくるガーネットに対し、その全てをギリギリで見切り弾き躱す雛樹。
ガーネットが手加減しているからこの攻防が成り立つのだが、それでも彼女は楽しそうに雛樹にじゃれていた。
「いったぁ……!!」
「はぁっ、はあ……っ、はい、終わりなっ……。もう俺無理……」
で、結局最後は腕や足を絡め取られ、ガーネットは柔らかい芝生の上に抑え込まれてしまうのだ。
そこの部分はガーネットも毎度のごとく感心している様子だった。
「流石ぁ。あたしをこんな簡単に押さえこめる人間なんてそうそういないわよぉ?」
「ここまでしても汗ひとつかかず、息ひとつ乱さないやつもそうそういないけども……」
二人して芝の上に寝っ転がって、明るくなってきた空を仰ぎ、しばらくしてからシャワーを浴びた。
「ねぇしどぉ、一緒に浴びよぉ?」
「嫌だ」
「なんでよぉ」
「お前執拗に股間覗こうとしてくるだろ」
「観察ぅ」
「すんな」
と、お互いにさっぱりとしたところで朝食を摂り、今日1日本格的に始まったわけだが。
今日はお互いに休日であった。そして、給料日でもある。
仕事をすれば、金という形で報酬が支払われる。それが会社というものだ。
それにのっとり先日、初仕事を終えたガーネットに、雛樹はガーネットへ今回の報酬を封筒に入れて渡したのだが……。
「なにこれ、いらなぁい」
ソファーに寝転び立体モニターに映し出されるテレビ番組を見ていたガーネットは、封筒に一瞥くれたあと、投げてよこしたのだ。さすがにいらないでは済まされない。
突き返された報酬を手に、困惑した表情でどうにか渡そうとしたが……。
「お金なんて持ってても欲しい物なんてないしぃ……。第一、まともにお金なんて使えないんだからぁ」
「金は持ってて損はしない。それに、これはお前の正当な取り分なんだ。これからも任務をこなしていく仲だろ。受け取ってくれ」
「いらないものはいらないのぉ。なぁに、ビンタぁ?」
「それは勘弁」
ソファーにうつ伏せで寝転がっている彼女は、そのまま顔だけをこちらに向けて睨んできた。
しつこいのを嫌うため、少しでも粘れば拘束衣越しのビンタが飛んでくる。ガーネットのビンタはシャレにならない痛みを伴うため、雛樹もこれには注意しているのだが……。
「じゃあ今日は街に行こうか。買い物だ」
「買い物ぉ?」
「金の使い道がわからないんだろ? 俺もそんなに得意な方じゃないけど、まあ、社会勉強ってやつだ」
「ふぅん。楽しいのぉ?」
「さあ、楽しいかどうかまでは……」
「行くぅ。はやくいこぉ」
……と、そんな経緯で休日の過ごし方を決めてしまったのだった。
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