ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら

稲荷一等兵

第3節5部ー苦悩ー

  ウィンバックアブソリューターの参加は認められていなかった筈なのだが、そこはアルビナがうまく企業連に取り合ったのだろう。どんなやりとりが交わされたのかはわからないが、企業連の取り決めを覆すことをしたのだから、まっとうなものではないことは確かであった。

「ええ、その万が一に備えブルーグラディウスをこの制圧部隊へ配備していただきました」
「はは、本当に心強いですな。流石はセンチュリオンテクノロジーのエースパイロット」
「頼りにしていただくのは結構ですが、先ほどブリーフィングで話したようにあくまで……想定外の事柄が起こった場合のみの出撃になりますので、あまり過信しすぎないでください」

 これが企業連と掛け合った際に出された条件だという。あくまでも非常時での最終手段として、ウィンバックアブソリューター・ブルーグラディウスを出撃させるという前提での任務参加だという。

 出撃する際は、強制的に後手に回るとはいえ不満はない。しかし、非常時での出撃というのに体を休め、心を落ち着けていたのはなぜなのか。

「ええ、その辺りは抜かりなく……。しかし、結月少尉。少々落ち着きがありませんな? どうかしましたか?」
「えっ、ああ……いえ。そんなことは」

 ヤマト民間軍事会社派遣部隊隊長、科戸瀬のその言葉に思わず顔を床へ向けてしまった。情けないが……しかし、落ち着きがないことが図星だった以上に困ったことがあるのだ。
 後方から制圧部隊を追随してきているであろう輸送部隊。その護衛艦の一隻に雛樹が乗っている。なんと、あのステイシスと共にだ。

 静流は高部総一郎から直接、指導雛樹がステイシスを預かるようになった経緯を聞いていたのだ。
 高部総一郎は指導雛樹がドミネーター因子の適合者だということを知っている。そして静流もだ。お互い指導雛樹の事情を知っているために、何かと好都合なのだろう。

“彼らに万が一、何かがあった時に動かせる人間が欲しい”

 高部総一郎はそう言っていたが、静流は内心落ち着いてなどいられなかった。方舟の最高戦力、ステイシスの強大さと危険さは身をもって知っている。一度精神の安定を無くし、暴れ出した彼女を止めるのにどれだけの被害が出るのか理解している。そして今、そのステイシスが指導雛樹の隣にいることを思うと……落ち着いてなどいられるものか。

「調子が悪いなら、休んでいた方がいいのでは? 尉官クラスならば個室を割り当てられているはずだろう?」
「心配していただきありがとうございます。ここで十分落ち着くことができているので……」

 ブリーフィングルームにはまだ多くの二脚機甲パイロットたちがそれぞれ会話を交わしている。今回の任務について、それぞれの二脚機甲の性能について、企業についてと、所属企業は別なはずだが話題に尽きることはないようだ。
 そんな中にいないと、一人で部屋にこもってしまえば不安で心が押しつぶされそうになってしまう。
 任務中だというのになんという体たらく。数日前の自分にこんな姿を見られたとすれば、厳しく叱咤するだろう。

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