ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら

稲荷一等兵

第4節7部—撃てない機体—

 セントラルゲートに開いた大穴を塞ぐどころか、その穴から入り込んでくるドミネーターの殲滅も済ませることができない。
 あまりに数が多いのだ。まるで、その群れが一つの意思を持って侵攻してきているような様相を呈すこの状況を、アレイン・ノックノックは不思議に思っていた。

 セントラルゲート防衛班が、着実にドミネーターの数を減らしていってる中、高層ビル街の、狭い隙間を縫いながらもとんでもない速さで飛ぶ青い機体。

 結月静流が搭乗し、操る特殊二脚機甲ブルーグラディウス。

 市民に害を及ぼす可能性のあるドミネーターを、機体周囲に展開した複数遠隔操作型対ドミネーターブレード兵器、ムラクモを使用し駆逐していた。

 より危険度の高いものから破壊しつつ、向かうはセントラルゲート。ステイシスを奪って逃亡しているという企業連正規軍のエグゾスケルトン。

「……目視しました」

 青い残光を残しながら低空飛行するブルーグラディウス、その前方約800メートルに、もうすぐセントラルストリートを抜け、海へ飛び出さんとする機体が見えた。

「ムラクモ、一から三刃で目標を補足ロック……保護対象、ステイシス
、スフィアを避け正規軍二脚機甲のみ破壊します」
《ちょおー! ちょっと待って結月少尉!! ダメ! あの機体を破壊するのはダメだ!!》

 連戦に次ぐ連戦で、これ以上なく昂ぶった精神状態に任せて目の前の逃亡機を破壊しようとしていた静流だったのだが。
 突如としてそこに割り込んできたオペレーター、東雲姫乃の言葉に止められてしまった。

「なんですか! このままでは、ステイシスを外に……!」
《今、葉月ちゃんから連絡が入ったんだよ!! あの機体の中に、祠堂雛樹君が乗っているって!》
「……はい?」

 一瞬、静流の頭の中が真っ白になる。ステイシスを強奪した機体の中に、雛樹がいる? もしかして、その強奪者は……いや、ありえない。彼に限ってそんなことは。それに何も知らない彼が二脚機甲の操縦など……。

《今、あの機体は遠隔操作で動いてるらしいの! それを、祠堂雛樹が止めようとしているみたいなんだけど……無理だって!》
「ごっ、誤解のある言い方をしないでください、東雲准尉! 心臓が止まるかと……!」

 とりあえず、雛樹があの暴走機体に乗ってステイシスを奪ったわけではないことにホッと胸をなでおろした静流は、機体の高度を上げてセントラルストリートを見下ろせる位置取りへ。

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