ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら

稲荷一等兵

第4節最終部—消えたステイシス—

  特殊な担架に乗せられたステイシスは安らかな表情で仰向けに寝ている
。白く長い髪は担架一面に広がり、張りのあるそこそこに豊かな胸がツンと上を向き、谷間が拘束位の胸元から覗いている。
身長や顔つきは十代半ばの少女だが、その胸と程よくくびれた腰、むっちりとした太ももが彼女を年相応以上に見せる要因だろう。

「素手で触れられねーってのが残念だけどよー、まじで」
「まだやることがあるでしょう? ソウジから報告のあった男がまだ機体にいるんだから」

 その場にいた全員が、自分たちが先ほどまで操ってきた機体へ目を向けた。

「ハッチを開けてその男をとりおさえなさい」

 軽い口調の男、その隣にいた女性がそう言うと、何人かの戦闘兵らしき者たちが、その機体のハッチの前まで階段で駆け上がり、銃を向け、一人がハッチを開けるため、アクセスした。

 まだ機体の制御は奪ったままだ。ハッチはなんのためらいなく開かれていった。

「っ、なんだ!?」

 勢いよく開いたハッチから、とんでもない量の海水が溢れ出てきたのだ。不意を突かれた兵士たちは皆一様に後ずさり、海水が出切ったコクピット内に目を凝らしたのだが……。

「報告にあった男がいません!!」
「ハァ? そんな訳ないでしょーが。機体がここへ来るまで、脱出しなかったと連絡があったのよ? よく探しなさいな馬鹿共。ほら、あんたらはお姫様をグレアノイド遮断エリアへ運びなさい」

 女の命令で、彼らはコクピットへと踏み込んだ。海水で満たされていたコクピット内は、その全てにおいて湿り気を帯び、天井からはそれが滴となって落ちてきていた。

 隠れられる場所はない。それに、防水壁の役割も果たすはずのハッチを通り、コクピットが海水に満たされていたということは……。

 その要素から、軽い口調の男は報告のあった警備兵の行方に気づき、顔色を変えた。

「海中で脱出したんじゃねーか……?」
「ここは海溝の縁の200メートル付近よお? そんな深さで、人間がまともに泳げると思うわけ?」
「海中でハッチを開いた。それだけは間違いねーだろよ。まあ、水没してびっくらこいて急いで脱出したってんなら分かんけどな」

 防護服を着た兵士たちが、担架にステイシスを乗せ、運び出し始め……。格納庫の出口へ差し掛かった時だった。

 突然、艦内すべての明かりが消え、光のない暗闇の世界に変わったのは。

 当然、格納庫内は騒然となる。仕切っていた男性兵士と女性兵士も同様にだ。

《第一動力一時停止。間もなく復旧します》
「くっそ、なんだ驚かすんじゃねーよ。一時停止か……機関トラブルでもあったのかよこんな時によぉ」

 艦内放送の言葉通り、この潜水艦の電源は復旧した。復旧して明かりは元どおりになったのだが……ひとつ。おかしな部分が現れていた。

「!? どうしたの!?」

 格納庫から出ようとしていた、防護服の兵士たちが一人残らず立ってはいなかった。ある者は腕を折られて呻き、ある者は腹を撃ち抜かれている。
 そのほとんどは意識が無かったのだが……。

「ステイシスがいねェじゃんかよ……!!」

 乱暴に落とされていた担架の上に、重要な人物が乗っていなかったのだ。
 それに、防護服をまとった兵士が一人足りない。ここまで根こそぎ負傷させられているのに、一人だけ影も形も見当たらないのだ。

「まさか……もうすでに侵入していて、なりすましてやがったのか!?」

 緊急事態。館内全域にアラート音が鳴り、侵入者が発生した旨を報告。侵入者の男の特徴と、ステイシスの特徴を放送した後……。

《侵入者は発見し次第即排除しろ。ステイシスは間違っても傷つけるな、いいな》

 そう、言葉が付け足された。

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