ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら

稲荷一等兵

第5節3部—ステイシス、救助—

 自分が壊したものを探そうと、ステイシスは瓦礫の山に向き直ったが……。なにやら顔色が悪い。敵を圧倒したはずのステイシスが不具合を起こしているのだ。

「あれぇ……さっきまでそんな気配全く感じなかったのにぃ……!?」

 なにか、自分が求めていた気配を感じて瓦礫の山、その一部に走り寄ったのだ。そして、片手で軽く瓦礫を持ち上げていくと見えた腕。それは防護手袋雨をしていなかったが、間違いなく先ほどの人間のものだろう。

 ステイシスはその手を握る。握っても、その手は黒い石になったりはしなかった。
 すぐさまその瓦礫の山から引きずり出して、持ち上げると……。

「しどぉ?」
「……やっと気付いたんだな」

 目を丸くさせて、ステイシスは首をかしげた。

「この服のせいかしらぁ……しどーの気配も何も感じ取れなかったぁ」

 半分だけ脱がれた防護服。雛樹は、崩れたガラスや金属片の中で隠れて防護服を脱いでいたのだ。この防護服は、グレアノイド粒子などを遮断する分厚い特殊繊維で編まれたもの。
 その防護服を着ていたせいで、ステイシスの言う、独特な雛樹の気配というものを遮断させてしまっていた可能性が大きい。
 雛樹は自分の足で立ち、ステイシスの様子を確認する。

 先ほどまでの狂気と不安定感が消えている。キョトンとした表情で目の前に立つ彼女からは何の脅威も感じられない。

「君は、本土の潜水艦に拉致されて囚われていたんだ。だから助けに来た」
「助けぇ? ほんとぉ?」
「ほんとだ」
「へぇ、助け、ねぇ。一応何かあっても大丈夫なように、お父様にこれ解いててもらってたんだけどぉ」

 着ている拘束衣のベルトは全く締められておらず、両腕の長い袖やベルトをふりふりと振って自由に動けることをアピールするステイシスだったのだが……。

「でも、助けに来てもらうっていうのも悪くないわぁ。なんだか不思議な気分。さっきの大丈夫ぅ? 結構派手にやっちゃったわぁ」
「問題ないさ。とにかく目的も達した。さっきの騒ぎで間違いなく見つかってる。急いで脱出しないとダメだ」

 戻るのはまずい。扉も先ほどのステイシスの攻撃により歪み、瓦礫が積み上がって開きづらくなってはいるがもうその前まで敵が来ているのだ。

《救助目標に殺されるところだったわね……。その先にまだ部屋があるわ。そこは格納庫に隣接する場所だから、壁を彼女に破壊して貰えばいけるんじゃないかしら》
「そうするほかなさそうだ。えーと、ステイシス……でいいのか?」
「ステイシスでも、アルマでも、お好きなほうでどうぞぉ?」

 心底嬉しそうな表情で、そう言った彼女は本当にただの少女にしか見えなかった。しかし、先ほどの破壊力を見ている分、まだ心を許せる状態でないのは確かなのだが……。

「じゃあ、ステイシス、行こうか」
「はぁい。生身でお外なんて久しぶりだからぁ、ちゃんとエスコートしてねぇ?」
「ん? わかった」

 なぜか執拗に自分の腕を掴んでくるステイシスに驚きながらも、雛樹はその先の部屋へと歩を進めていく。

「あったかぁい……」
「?」
「んーん、アルマ、こうして人間の体に触れるの初めてだからぁ……ふふ」

コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品