ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら

稲荷一等兵

第5節5部—本土の兵器—

 ふと敵から視線を外し、隣のステイシスの方に視線を向けた。彼女はどこか機嫌を損ねている様子で、目を合わせてはくれない。
 黒い塊にならない、こうして人に触れるのは初めて……というのは、言葉通りの意味だったのかとどこか得心がいった。

「人の形をしてるってだけで特別扱いはダメなんじゃねーのかなぁ?」
「特別も何も、彼女を任されてここにいるんだ。絶対に連れて帰る」

 飛燕は呆れた風に首を振り、交渉ごとのわからねぇ奴だと一言。雛樹はステイシスの腕を引き、自分の後ろへ引き込んで万が一の際の壁になった。
 引き込まれたステイシスは、護ってもらわなくても大丈夫だけどと呟いていたが、見た目のせいかどうしても保護してやらなければいけないと思ってしまう。

「その化け物さえ手に入れば、本土は新たな力を得るのよぉ? 分からない子ねぇ」
「あんたは……」

 緊迫した状況の中、飄々と現れた女性はそう言いながら水槽の前に立った。

「あんたまでいたのか……真月まがつ所長」
「ふふ、お久しぶりね。CTF201の子狼ちゃん」
「ドミネーター生体研究の第一人者がなんでここにいる……。いや、聞くまでもないか」
「研究機関が軍部に吸収されてねぇ。ちょっと素敵な研究ができるようになったの。ほら、これがその成果」

 その女性は、水槽の壁に右手のひらをつけた。中にいるドミネーターはそれに呼応するように、頭部の眼を動かし出した。

「まだまだ試作段階だけどねぇ。私たちは、彼らそのものを使う方法を選ぶことにした。この怪物たちを駆逐する方法を研究していた私たちが。皮肉な話だけど、ねぇ」
「生き残るためだ。何を使おうが別段文句はないさ……。でも俺は、あくまでその怪物を敵に回してきた人間だ。それを肯定することはできない」
「そうよねぇ。でもこうなっちゃったのは仕方ないわよねぇ? すごいでしょう? 今日連れてきた子たちの数」

 方舟に侵入してきたドミネーター。その全てが、本土側の配下だったとでもいうのか。

「あの子たちは私たちがおびき寄せた野良たちだけどねぇ。ここに来て今までの研究が役に立ってきてるのよ? 特殊な粒子反応を起こすことでぇ……」
「……悪趣味なゲロクソ女ぁ」

 雛樹の背後から声が発せられた。その声を聞き、醜く歪むま真月の表情。

「口の悪い子ねぇ……」
「あんたは性格も見た目もクソよぉ? そんな雑魚を手なずけたくらいで大きな顔しないで欲しぃわねぇ?」

 雛樹の背後から出てきたステイシスは、拘束衣に包まれた両腕を広げた。

「せいぜいβ級のかわいこちゃんひっぱってきて、自慢ー? 笑えるわぁ。でも胸糞わるいからぁ……」

 ステイシスは、己の長い髪をひとつまみすると、爪ですぱんと切った。そして……その髪を空中にばらまいたかと思うと……。

 その一本一本が赤い光の矢となり、ステイシスの前方へ展開。敵を囲むようにして滞空していた。

「ぜーんぶこわしてあげるぅ」

 その矢を今まさに撃ち出さんとした時だった。真月の口元が歪み、彼女の手元で何かのデバイスが光ったのは。

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