ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら

稲荷一等兵

第6節2部ー事後処理ー

《それより随分声がうわずっとるみたいやけど、大丈夫なんか?》
「大丈夫です……。ただ少し……動揺しているかも、しれません……」

 静流は、コクピット内で雛樹が乗せられたヘリの通信を傍受していた。

ステイシスは無事だ。そこは問題ないのだが、雛樹の負傷があまりにも深刻なのだ。

《骨折部位の固定完了しました! 銃創部の弾頭は抜けています。しかし出血がひどい》
《輸血が必要です!! 受け入れ可能な医療機関は!?》
《センチュリオンテクノロジーの医療部門へ搬送しろと、アルビナ大佐から連絡がありました!》
《よし! 企業連本部へステイシス様の身柄を引き渡したのち、センチュリオンテクノロジー本社へ搬送する!》

 静流はそこで安堵の息を漏らす。根本のところではまだ動揺しているのだが、アルビナ……つまりは、母が呼びかけ雛樹を治療させるようになったからだ。
 今現在、都市中の医療機関は侵入したドミネーターの被害により負傷した一般市民、または兵士たちでごった返している状況だ。
 そんな中、センチュリオンテクノロジーが運営する医療機関もフル稼動しているはずだが、アルビナが重傷者である雛樹の受け入れを命じたのだ。

 雛樹とステイシスを乗せたヘリは都市へ帰還し、摩天楼の上空を飛ぶ。
 企業軍隊の働きによって侵入してきたドミネーターは駆逐された。破壊されたセントラルゲートからのドミネーター侵入が、なぜかピタリと止まったからだ。
 そこら中で煙が立ち上ってはいるが、それでも被害は最小限に抑えられているという。

《しっかし……えらいことになったのぉ。防衛力を誇示するためのパレードでこんな不祥事が起こったとなると……》
「そこは、企業連がなんらかのアクションを起こすでしょうから。一兵士である私たちが考えなければならないことではありません」
《まぁ、せやけどな。それにしても、何者や?》
「何者……とは?」
《今搬送されとるPMCの兵士のことや。知り合いなんやろ?》
「ええ、まあ」
《単独で突っ込んで、ステイシス奪還。その上犯行組織の一人を生きたままのしとったらしいやないか。底辺会社の無階級兵士がようやったもんや》
「彼は……その、なんというか」
《なんやあ、想い人かいな》
「違いますが」
《んな怖い声出さんとってぇな……、冗談やがな》

 雛樹の力はよく知っている。ドミネーターを制圧するほどの力を持った部隊で銃を握ってきた、いっぱしの兵士なのだ。
 憧れの兵士、憧れの男であり、自分が想いを寄せていい相手ではない。

 彼には、もっとふさわしい相手がいる筈だ。

「こちら結月。企業連本部のヘリポートへを確認しました」
《了解、護衛感謝する。こちらはステイシス様を引き渡したあと、センチュリオンテクノロジーへ向かいます。あなた方は任務へ戻ってください》
「わかりました。ノックノック、事後処理へ向かいますよ。ドミネーターの残党が残っていないか確認しなければ」
《あいよぉー》

 ヘリの編隊から外れ、ブルーグラディウス、そしてコバルトスケイルは都市中心部へ向かった。


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