ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら

稲荷一等兵

第6節4部—病室での目覚め—

 葉月が呼んだのか、随分と若い女性の看護師が来て雛樹の容態を確かめると……。

「意識ははっきりしています。随分顔色もいいですし、問題はなさそうですね。点滴だけ替えておきましょうか?」
「お願いします」
「いや、いい。必要ないぞ」

 雛樹はこのチューブを煩わしく感じたのか、今すぐ外してくれと頼んだのだが……。

「まだ内蔵の方がひどく傷んだままですから、外してもらうと困るんです。最低限の栄養摂取には必要ですので……」
「……うそん」

 雛樹は絶望した。なにせ、胃が食物を求めているのだ。それなのにまだ何も食べられないというのはキツイ。
 ドミネーターに全身を殴打された際に、ひどく内蔵を痛めたのだ。昔にも経験があった。
 こういうときに物を食べると、高確率で戻してしまうのだ。

「15時頃、診察をするので……その時に許可が出れば、消化に良いものをお出しします。それまで我慢してくださいね」
「はい……。まあ、飯にありつけるだけありがたいな」

 何もしなくても食料が出てきて、綺麗な水が飲めるというのがどれだけありがたいことか知っている雛樹にとっては、点滴すらもありがたいものなのだ。
 看護師が病室から去り、残された葉月はベッドに寝ている雛樹を見下ろしながら一言。

「意識が戻ってなによりだわ。祠堂君」
「どうも。随分痛めつけられたからな」
「こんな有様じゃなかったら思いっきりひっぱたいてるところよ」
「こんな有様でよかったよ。そんな顔で叩かれたらどうしていいかわからなくなってた」

 葉月の目には、濃い隈が現れ、若干だがやつれて肌にツヤがない。
 充血して赤くなった目は涙で潤んでおり、どう見ても寝不足か何かで元気のない表情をしていたのだ。

「口ばっかり達者な男ね。でも、よくやったわ。あなたは。これを見て」

 葉月はそう言いながら、端末から雛樹の目の前にモニターを展開させた。
 そこに映ったのは、なんらかのニュース映像だった。

《夜刀神民間軍事会社の兵士により、無事ステイシスのコアが奪還されました》

映っていたのは、都市の上空を飛ぶヘリの様子だった。ステイシスのコア……という表現は、一般住民に向けた言葉なのか、放送局自体もステイシスの正体をよくわかっていないのか……。

《そして、首謀者と思わしき犯行組織の男性も捕らえたとの事です。これは、無名の軍事会社としては身を見張るべき成果です。特別報酬の付与が検討されています。さて、犯行組織の目的はステイシスコアの強奪、および都市への攻撃とみられており——……》

「特別報酬か。食い物だといいな」
「あなたの報酬ってそれでいいの……? 本土人ってみんなこんななのかしら」


「ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「SF」の人気作品

コメント

コメントを書く