ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら

稲荷一等兵

第6節6部ー疑われる功労者ー

 どこかしっくりこないものを抱えながら雛樹は首を縦にふることになった。

「ここまで、すこし都合のいい話ばかりしたけれど……悪い話もあるわ」
「いい話ばかりでいいさ。悪いのは傷に響く」

「なら、それは僕が話そうか。傷に響くようなら僕の腕もまだまだだね」

 病室の扉が開き、その声が聞こえると雛樹の表情がどんよりと曇った。
 白衣を纏った、飄々とした男性医師。結月静流の父、結月恭弥ゆいつききょうやが点滴のパックを持って入ってきたのだ。

「あなたか……この治療……うわあ」
「ああ、その反応はいただけないね。せっかく君のために腕を振るったというのに、それじゃああまりにも寂しいじゃないか」

 結月恭弥は、葉月に会釈すると一言……失礼、と言いながら割って入ってきて、点滴のパックを新しいものに取り替えた。

「と、まあ冗談はその辺にしておいて……。どうだい、痛くはないかい? 少しばかりひどい損傷具合だったから、荒くなったけどしっかり治っているはずだ」
「……ご覧の通り、骨もしっかりついてる。すごいな、本土じゃ全治1ヶ月じゃ済まなかったところだった」
「こっちの医療技術は素晴らしいよ。その分、医師としての腕の振るいどころが少ないのが残念だけどね。はは、君のオペは久しぶりにいい憂さ晴らしになった」

 そこまで、静流の父が言った後……それを聞いていた葉月は顔面蒼白で……。

「う……うさばら」
「夜刀神、知らなかったか? この人はこういう人だぞ」
「あ、あのしずるんの父上とは思えない……」
「ああ、君が夜刀神葉月さんか。静流から話は聞いているよ。娘のことを随分好いてくれているようだと」
「あ、初めまして。夜刀神葉月と申します……。えと、その、しずるん……静流さんのことが好きだと言ってもその」
「ああいいよ。同性愛への偏見は持たない主義だ。むしろ、なんの生産性も持たないのに愛せるというのは、とても純粋な愛だと思うよ。その気持ち、大切にするといい」

 突然の同性愛肯定の言葉に、葉月は卒倒しそうになった。雛樹はそんな葉月の様子を見て、話題を変える必要を感じ……。

「あまりウチの社長をからかわないでやって欲しいんだけど」
「からかってなどいないよ。ありのままのことを言ったまでさ」
「いや、それはもういいんだ。で、あなたの腕が未熟かどうか確かめるための悪い話はどこ行ったんだよ」
「ああ、そうだね。そうだった。今回の一件で、君は随分といい功績を立てた。おめでとう、そしてよくやった。君の腕はCTF201へ所属していた頃となんら見劣りしていないようで安心したよ」
「そりゃどうも」

 結月恭弥から受けるその賞賛は、雛樹にとって何も嬉しくないものだ。恭弥にとって人を褒める、持ち上げるということはそれだけ落ち幅があるということに他ならない。

「ただし、本土から来たばかりの君がこうして功績を立ててしまったのは……少しタイミングが悪かったようだ」
「どういうことか、くわしく」
「今回、都市へ混乱を招き入れた組織は本土絡みだったそうだ。ことが起きる数日前に都市へ来た君という存在は、企業連上層部にとって随分怪しく映るようだよ」
「……俺が、奴らを招き入れたと疑ってるのか?」

コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品