ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら

稲荷一等兵

第2節6部ー新たな依頼ー


「随分風通しが良くなったなあ、社長」
「わかったわよ……直せばいいんでしょ」

 こう壊されてしまえば直すほかなく、葉月はため息をつきながら通信端末で扉の修理を依頼した。

「えっと……。ステイシス、さん?」
「ガーネットでいいわよぉ? しどぉがそう呼べって」
「ステイシスだと色々都合が悪そうだからな。俺がつけた」
「そうね、うん。都市で暮らすには、広まりすぎてる名だもの。いい判断だと思うわ」

 葉月はテーブルの上に座るステイシスに対して、ある種の恐れと感動を覚えながら、話しかけている。
 それもそうだろう。今まで散々方舟の防衛力の象徴として扱われてきている彼女を目の前にして、腰の引けない人間はいない。
 雛樹のようなにわか者にはその感情はわからないが……。

「高部さんからは、あなたをある条件下の元でなら好きに働かせてもいいと言われているわ」
「条件下ぁ?」
「必ず祠堂君と共に行動すること。そして、方舟があなたを必要とした場合はいついかなる時でも召集に応じること」

 床についていない足をぱたつかせながら、ステイシスは空返事をした。大体のことは事前に高部総一郎から説明を受けて把握しているのだろうが、少々不安になった葉月は雛樹に問う。

「祠堂君、たぶんあなたはステイシス……ガーネットを制御しなければならない立場にいるわ。大丈夫なの?」
「請け負ったなら、最後までやり通すさ」
「その言葉……信じるわよ」

 葉月はそこまで言うと、己の胸の高さの位置に現れたホログラムキーボードを叩き始めた。
 暗転する室内に、何が始まるのかとステイシスはワクワクした様子であるが、雛樹は室内中央に現れたモニター画面を見て仕事かとつぶやいたのだった。

「今から一週間後、海溝上に浮いた陸に接近するわ。そこへ、対ドミネーター兵器を主とした物資を運び込むの」
「浮島か。そんなとこに戦線を張ってる奴らがいるのか?」
「ええ、およそ3千人のね。大規模地殻変動で切り離される前はユーラシア大陸の一部だった場所。ただ、今その島がいる場所の下には大量のグレアノイドが発生してるの。必然的に、ドミネーターの襲撃を頻繁に受けるようになったみたい」

 モニターにその島の衛星写真が写し出された。かつて大陸だったこともあり、かなり大きな島だが、本土同様荒地がその大半を占めているようだ。その島の中央に街のようなものが見える。そこがその島の住民が住まう場所なのだろう。

「今、この島から半径500キロ圏内に届くよう救難信号が発せられてるわ。島の現状は不明。ドミネーター制圧のための二脚機甲部隊と、資源輸送のための部隊が組まれ、その輸送部隊の護衛任務を輸送企業から依頼されたわ」
「……内容を見るに、なんで海上輸送からの陸上輸送なんだ? 空輸はダメなのか?」
「その島にはドミネーター排除用の自動対空兵器が島中に配備されているの。なぜかその島に通信が繋がらないらしくて、攻撃機部隊が偵察に向かったんだけど、対空兵器からの攻撃が激しくて近寄れなかったって」

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