ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら
第2節最終部ーインプリンティングー
コーヒーの苦味がまだ口内に残っているのか、ステイシスはまだ眉間にしわを寄せていたが……。
「ねぇ、ここに来た時から気になってたんだけどぉ……」
渋い表情を浮かべながら、右袖で足元をちょんちょんと指し示す。雛樹と葉月はお互いに顔を見合わせた。
「この下からデトと似たような反応を感じるんだけどぉ」
その一言で、ステイシスにも地下に存在する朽ちた機体を見せることになった。連れてこられたステイシスは、地下に倒れた侵食されゆく機体をしばらく見つめた後、言ったのだった。
“なぁに、このオンボロ”
そのあと、彼女は機体に取り付き破壊された装甲の隙間、関節部、電子兵装の残骸などを確認し流暢に話し始めた。その朽ちた機体についてのスペックを、事細かに。
「——……それよりなによりぃ。動力に対して、機体自体が脆弱過ぎるのよぅ。せっかく超高負荷粒子性兵器を扱えるジェネレーターを積んでるのにこれじゃあ宝の持ち腐れだわぁ……って、なによぅその顔ぅ……」
機体に付属していた外部兵装、補助兵装のことまで事細かく話したステイシスの意外性に、雛樹と葉月は呆気にとられていたのだ。
彼女の口から知る。生体兵器として、そして兵器の頂点に立つものとして、すべての兵器は彼女の下にあり、そしてその知識を有しているということを。
それは唯一彼女に刷り込まれた知識であり、常識だったのだ。
………………。
“一週間後、4月23日午前3時30分、救難信号に対する救援任務当日”
「部隊の準備が整った頃じゃな」
「はい、御察しの通りドミネーター制圧部隊、輸送部隊とその護衛部隊。全ユニットの準備が整いました。センチュリオンノアから島までの距離は約150キロメートル。大方予想通りとなりましたね、オスヴァルト情報部長」
センチュリオンノアの情報収集、分析、統制を一手に引き受ける企業連情報機関。そのトップであり企業連合幹部でもある、老いを感じさせる肌と褪せた金色を呈す長い髪、深く濁った碧い瞳を半分垂れたまぶたに隠す男が、秘書である若い女性と話していた。
場所は個人に与えられた企業連本部情報機関室書斎であった。
「本当によろしいので?」
「うんん、何がじゃ」
「このリストを見る限り、大きな軍事力を持つ企業からの兵士が見当たりませんが。輸送部隊、護衛部隊はともかくとして、ドミネーター制圧部隊に企業連正規軍、そしてGNCの二脚機甲部隊を欠いているのはどうかと思うのですが」
「良い、今回の任務はあくまでも支援物資の輸送任務じゃ。必要最低限の物量を揃えれば問題なく事は運ぶじゃろう」
老人は、深くシワが刻まれた顔に笑みを貼り付けながら秘書に目すら合わさずそう言い放った。
「高部兵器局長の要請により、GNCよりRB軍曹と伊庭少尉。センチュリオンテクノロジーより結月少尉とウィンバックアブソリューターが編成に組み込まれたのは心強いですが」
「うむ。あの小僧は心配性じゃからのう。たまには熟練度の低い者たちを実戦へ駆り出さんといかんというのに」
「そうですが、何事にも備えは必要でしょう……それではオスヴァルト情報部長。私は仕事へ戻ります」
「うむ、ご苦労」
秘書はその場から書斎の出口まで移動し、一礼してから外へ出て行った。そのあと、書斎に残った老人はなんともつまらなそうな表情でつぶやく。
「我々の傘下に入らぬ不届きな企業めが……。不要なことをしおって」
目の前に表示されたリストをつらつらと眺めながら、その老人は言った。
「“ゴミ掃除”など、使い捨ての有象無象にさせれば良いものをなぁ……」
そのリストを、まるでゴミでも扱うかのような態度で削除してから、その老人は深く背もたれに体を預けていた。
「ねぇ、ここに来た時から気になってたんだけどぉ……」
渋い表情を浮かべながら、右袖で足元をちょんちょんと指し示す。雛樹と葉月はお互いに顔を見合わせた。
「この下からデトと似たような反応を感じるんだけどぉ」
その一言で、ステイシスにも地下に存在する朽ちた機体を見せることになった。連れてこられたステイシスは、地下に倒れた侵食されゆく機体をしばらく見つめた後、言ったのだった。
“なぁに、このオンボロ”
そのあと、彼女は機体に取り付き破壊された装甲の隙間、関節部、電子兵装の残骸などを確認し流暢に話し始めた。その朽ちた機体についてのスペックを、事細かに。
「——……それよりなによりぃ。動力に対して、機体自体が脆弱過ぎるのよぅ。せっかく超高負荷粒子性兵器を扱えるジェネレーターを積んでるのにこれじゃあ宝の持ち腐れだわぁ……って、なによぅその顔ぅ……」
機体に付属していた外部兵装、補助兵装のことまで事細かく話したステイシスの意外性に、雛樹と葉月は呆気にとられていたのだ。
彼女の口から知る。生体兵器として、そして兵器の頂点に立つものとして、すべての兵器は彼女の下にあり、そしてその知識を有しているということを。
それは唯一彼女に刷り込まれた知識であり、常識だったのだ。
………………。
“一週間後、4月23日午前3時30分、救難信号に対する救援任務当日”
「部隊の準備が整った頃じゃな」
「はい、御察しの通りドミネーター制圧部隊、輸送部隊とその護衛部隊。全ユニットの準備が整いました。センチュリオンノアから島までの距離は約150キロメートル。大方予想通りとなりましたね、オスヴァルト情報部長」
センチュリオンノアの情報収集、分析、統制を一手に引き受ける企業連情報機関。そのトップであり企業連合幹部でもある、老いを感じさせる肌と褪せた金色を呈す長い髪、深く濁った碧い瞳を半分垂れたまぶたに隠す男が、秘書である若い女性と話していた。
場所は個人に与えられた企業連本部情報機関室書斎であった。
「本当によろしいので?」
「うんん、何がじゃ」
「このリストを見る限り、大きな軍事力を持つ企業からの兵士が見当たりませんが。輸送部隊、護衛部隊はともかくとして、ドミネーター制圧部隊に企業連正規軍、そしてGNCの二脚機甲部隊を欠いているのはどうかと思うのですが」
「良い、今回の任務はあくまでも支援物資の輸送任務じゃ。必要最低限の物量を揃えれば問題なく事は運ぶじゃろう」
老人は、深くシワが刻まれた顔に笑みを貼り付けながら秘書に目すら合わさずそう言い放った。
「高部兵器局長の要請により、GNCよりRB軍曹と伊庭少尉。センチュリオンテクノロジーより結月少尉とウィンバックアブソリューターが編成に組み込まれたのは心強いですが」
「うむ。あの小僧は心配性じゃからのう。たまには熟練度の低い者たちを実戦へ駆り出さんといかんというのに」
「そうですが、何事にも備えは必要でしょう……それではオスヴァルト情報部長。私は仕事へ戻ります」
「うむ、ご苦労」
秘書はその場から書斎の出口まで移動し、一礼してから外へ出て行った。そのあと、書斎に残った老人はなんともつまらなそうな表情でつぶやく。
「我々の傘下に入らぬ不届きな企業めが……。不要なことをしおって」
目の前に表示されたリストをつらつらと眺めながら、その老人は言った。
「“ゴミ掃除”など、使い捨ての有象無象にさせれば良いものをなぁ……」
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