ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら

稲荷一等兵

第4節27部ー事の顛末ー


「はろぉ、青いのぉ」
「ステイシス……!!」
「本当なら噛み付いてやるところだけどぉ。今それどころじゃないからやめといたげるぅ」

 雛樹からのご褒美を大人しく受けるので満足しているためか、随分と穏やかなものだった。
 静流は色々と吐き出そうとしていた悪態をまとめて飲み込みながら雛樹に問う。

「ヒナキ、あなたを襲った二脚機甲のパイロットはいったい……」
「伊庭だったよ。伊庭少尉だ。企業連上層部の命令を受けていたらしい。俺を殺せと」

 連絡を取り合ってなかった葉月にとって、その話は初耳だ。なんのことだと雛樹に問いただす。
 静流はというと、企業連上層部の事情をあらかた把握しているためか、随分早い根回しですねとどこか呆れていた。

「スパイ容疑がかけられている以上、そういったことにならない可能性は少なからずありましたが……。まさか、GNCの尉官をけしかけてくるとは……」
「いや、待ってそれじゃあ同じ GNCのRB軍曹は……」

「俺ァそいつの敵じゃねェぜ、夜刀神PMCの社長さんよ」

 どこか粗暴な男の声が医務室の入り口から聞こえてきた。その声に、静流は居住まいを正し、葉月も同じく姿勢を正し、ガーネットは剣呑な表情になった。
 その男、RB軍曹はその空気の変わりように肩をすくめながらも医務室に入ってきて、椅子を出しどっかりと座った。
「悪ィな祠堂。伊庭のやつに出し抜かれちまった」
「いや、助かった。あのままじゃ本気で殺されてたとこだったからな」
「ッハ。それが殺されそうになってた男のツラかァ? 呑気な野郎だぜ。ヨォ嬢ちゃん。随分機嫌良さそうじゃねェか」

 それは、雛樹に撫でられながらも剣呑な表情をしているガーネットに言ったのだろうが……。

「……」
「おいおい待て、何するつもりなんだよ」

 雛樹の手を離れて、たしかな殺気を放ちながらゆらりとRBに近づこうとしたガーネット。
 その殺気に驚き、雛樹はすぐさまガーネットの腕を押さえて引き寄せて止めた。

「あたしぃ……こいつ嫌ぁい」
「お互い様だボケ」
「しどぉ離してぇっ、こいつ殺したぁい!」

 大人しくしてろと頭を小突かれ、ぶすくれた表情を雛樹に向けるがとりあえずは大人しくなってくれた。

「RB軍曹、雛樹の敵でないというのはどういうことでしょうか?」
「結月少尉、あんたの方が上官なんだぜ。そうかしこまる必要はねェぞ」
「いえ、そういうわけにも」

 階級だけでは推し量れない上下関係というものがあるようで、結月少尉が態度を崩すことはなかった。
 それに対してRB軍曹は、ただ頭を掻きながら言う。

「俺は高部総一郎に、祠堂を護るよう言われて今回の任務に就いてたのさ」
「高部局長が……」
「まぁ、情報機関からは伊庭と同じ、祠堂を始末しろってェ命令は受けてたんだけどな」

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