ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら

稲荷一等兵

第4節20部ー脱出成功ー

 機体馬力だけならば、静流のブルーグラディウスを遥かに凌ぐ。だが、雛樹の機体には自らの馬力を支える機体強度が不足しているため、どうなるかはわからない。

「その機体、衝撃吸収に油圧式サスペンションを使ってるんですね。破損し機能はしていないため、着地の衝撃に機体が持つかどうか……」
《こうか?》
「……ヒナキ!?」

 ぐっと膝を曲げた雛樹の機体を見て、静流は声を上げた。
 次の瞬間にはもうそこに機体の姿はなく、凄まじい跳躍力を持って跳んだ機体はまっすぐこの施設の天井を目指した。

「もうッ、焦りすぎです!」

 静流操るブルーグラディウスもその後を追うために飛翔し、崩れゆく施設から難なく脱出した。
 が、先に行ったはずの雛樹の機体の姿が見当たらない。すでに地上にいてもおかしくなかったのだが……。

《ああああぁあ!!》
「まだ上に!?」

 雛樹は予想をはるかに超える跳躍と衝撃に驚愕していた。折れた右足の痛みなど忘れるほどに。
 しかし、今や自由落下状態。本来ならば推進機構をうまく使用し、落下速度を落とさなければならないのだが……。

「落ちる……!!」
《ヒナキ、脚部、背面、前面にあるスラスターを起動させてください!! そのままでは落ちて潰れますよ!!》
「わ、わかった……!!」

 雛樹は高部から聞いていたスラスターの使用方法をそのまま実践した。だが、起動させるのが遅かった。推進剤噴射により落下速度が落ちたのはいいのだが、それでも地面に到達するまでに安全域に到達せず、墜落する。


「もーう、あたしほったらかしでなにしてるのよぅ」

 その、雛樹の機体着地点に凄まじい速さで走り、先回りしたガーネットが不満げな顔で両腕を交差させていた。
 そして、赤い物質化光をその先にまとわせると思いっきり開く。

 まとわせていた物質化光が網のように大きく広がり空中へ展開された。

「ぐっ……」

 もう地面と激突する。そう身構えた雛樹がモニターに映ったその赤く光る網を確認した頃には、機体の落下は止まっていた。
 柔らかなマットにでも受け止められたかのような感覚と共に。

 軟性を持ちながらも限りなく強固な物質化光の網。そんなものを張れるのはガーネットしかいない。
 案の定、眼下ではぶすくれているガーネットが確認できる。

 もういいでしょとでもいう風に、物質化光の網が解かれて、低い高さから雛樹の機体が落下し着地。
 その高さでも強い衝撃が、コクピット内の自らの体を強かに打ち据えたのだが。

「……助かったよ、ガーネっ」

 ガンガンガンガンと、ハッチを思いっきり叩く音が聞こえてきて、体をビクつかせた。

「ちょっとぉ、開けなさいよぉ!! そこに乗ってんのわかってるんだからぁ!!」
「ちょっ、ちょっと待てすぐ開ける! おい、ハッチがへこんでるからやめろ!!」

 どんな怪力だ、このままではハッチを力ずくで壊されかねないため焦りながらも開閉ボタンを押し、ガーネットを中に招き入れた。

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