ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら

稲荷一等兵

第4節17部ー規格外の兵器ー


 そう、ただでさえ操縦の仕方というやつを静流にお願いしていたところだったのだ。
 練習もせず、いきなり実践などできるはずもない……のだが、目の前の機体は有無を言わさずコクピットへのハッチを開けた。

「……」

 それにしても、なんと無骨な機体なのか。最近見た二脚機甲などは、あらゆる機関が小型化、軽量化された上、装甲は薄くても丈夫なものになっており、外観はスマートなものが多い。

 だが、目の前の機体はどうだ。現代機よりも目立つ大きなスラスターに、胸部、脚部にはごつい追加装甲が施され、その下にはまだ侵食の跡が残る劣化した装甲が見えていた。

 精悍な顔つきを見せる頭部は右側面に、アンテナと思われる平たい、刃物のような機関。メインカメラである赤い目には光が灯り、じっと自分を見据えているようだ。

「まずい……!!」

 その機体の何かに反応したのか、破壊すべきグレアノイド体の一部がその機体に向かってきた。
 もう迷っている暇はない。

 雛樹はすぐさまその機体に走り寄り、腕から射出させたアンカーをハッチ付近に吸着させ、一気に駆け上がった。

 途中、絡みついてきたグレアノイド体のせいで足を滑らせながら、ハッチからコクピットに飛び込む。
 振り返って中に入ってきたそのグレアノイド体をちぎるようにして閉め、息を吐きインカムに手を当てた。

「機体に乗り込みました。どうすれば……」
《コクピットシートに座り、システムを立ち上げて欲しい。すでに待機モード中だ、すぐに動かせるようにしてある》

 言われるがままに、雛樹はシートに座る。すると、辺りにホログラムモニターが次々に展開され、ゲージが表示、その全てがフルになるとオールグリーンの文字、待機していたシステムが起動した。

 その機体の動力が始動し、グレアノイドのエネルギーが機体全体に回された。
 一際目立つスラスターから赤い粒子が放出され、渦を巻く。
 コクピット内が重く振動し始め、眼前180度をカバーするように外の景色が映し出された。

 コクピット内のグレアノイド濃度が増したためか、雛樹の瞳が赤に変わる。

 その後、高部から通信機越しにある程度の操縦法を聞き、言われた通りに機体を動かしていく。
 まとわりついていたグレアノイド体を、各部に備えられたスラスターを噴かすことで振り払いながら、目の前の巨大なグレアノイド体と向かい合った。

《いいかい? その機体に、今取り付けている兵器は一度使えば瓦解してしまう。その一撃で、目の前のグレアノイド体を消滅させるんだ》
「わかりました」

 機体を動かし、数歩後退してから機体にそぐわない、アンバランスな大きさを持つ右側の兵器を水平に構えた。
 衝撃に耐えるため、脚部からアンカーを放ち地面に機体自体を固定する。

 その兵器の状況を示すモニターがすぐ隣に現れ、グレアノイド粒子の収束率と、放出量を示す。
 ターゲットモニターに照準が現れ、グレアノイド体を映し出した。

 腕の兵器、その収束機関が右へ左へ交互に回転しだし、砲口に赤い光が
球となって現れた。 その赤い光の球はどんどん圧縮され、小さく、密度を高めていく。

《さあ、撃つんだ》

 言われるがままに、雛樹はトリガーを引いた。
 解放されたエネルギーが射出され、グレアノイド体を貫き、さらにはこの施設ごと山をぶち抜いていった。

 それだけではない。射出した衝撃で、その兵器自体が破損し、指向性を失ったエネルギーがあらぬ方向から漏れ出し周囲、さらには機体すら傷つけ始めた。



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