最強は絶対、弓矢だろ!
三つ巴の戦い
☆☆☆
朝食会議(?)の後、暫くエルフィアの寝所に居た俺たちの元に……それはやって来た。
コンコンと扉のをノックする音に俺たちは話す手を止め、目配せする。とはいえ、目を見て考えが分かるのはレシアだけなんだが……。
――私が出ましょう。
――頼むわ。
俺とレシアがパチパチと瞳を合わせて、言葉を交わす。ここまで来るとかなり便利だなと思い……ふと、ハニーがピョコピョコと手を挙げて自己主張していたために反射的に目を向けると、パチパチとハニーも目で語り出す。
――儂も混ぜて欲しいのじゃ〜。
黙れ。
俺とレシアは全く同時にハニーから目を逸らす。無視された挙句そっぽ向かれ、ハニーは頭の上にガーンという文字が浮かび上がるほどにショックを受けてションボリとしている。
レシアは警戒しながら慎重に扉を開ける。扉の向こうには、食事を運んできた侍女が降り、その手には羊皮紙の書状があった。間違いなく……ハンニバルとアレクセンからの書状だ。
侍女は一礼してから部屋の中へ入ると、手元の羊皮紙を広げながら口を開いた。
「ハンニバル様、並びにアレクセン様より……エルフィア様へ申し上げます。明日の朝から夕刻まで三勢力の総力戦を行うとの御達しでございます。つきましては、こちらの書状をご覧下さい。失礼致します」
侍女はレシアに書状を手渡すと、ささっと部屋を出て行く。俺たちは揃ってレシアの持つ書状に目を向け、レシアは直様テーブルの上にそれを広げる。
俺はそれに目を通し、そういえば文字が読めないことを思い出してエルフィアに読ませた。
「えっと……私とお兄様達の総力戦。戦場は王都の南区の市街地で伝説の武器の奪い合いみたい……」
エルフィアが呼んだ書状の内容によると……、
エルフィア派閥
ハンニバル派閥
アレクセン派閥
この三勢力による三つ巴の戦いを、この王都で行なうという。市民は一時退去させ、本格的な戦場とするようだ。市民にとっても、この戦いは次期国王を決める戦い……ハンニバルはどうせやるならとお祭りのように盛り上げるつもりらしく、王都にある闘技場に市民を集めて戦いの様子を実況していくつもりなようだ。
ルールは簡単。市街地を舞台にした伝説の武器の奪い合い……である。各陣営100名まで私兵を投入でき、その中の数人に各陣営が保有する伝説の武器を持たせる。
伝説の武器の保有者を倒すと、倒したものに伝説の武器を所有権が移る。しかし、その後伝説の武器を手に入れた者がさらに誰かに倒されると今度はその倒した者に所有権が移る。
また、各陣営ごとに大将を置く。大将が倒された場合、その陣営は今回の戦いの参加資格を失うため、その場で退場となる。その時点までに伝説の武器を奪って居た場合は、その陣営のものになる。
つまり、制限時間まで伝説の武器を持って逃げるか大将が倒されれば……一応手に入れた伝説の武器はこちら側のものになるということ……。
ハンニバルにとっては、他の陣営を完全に潰すことができ、アレクセンにとっては挽回のチャンスといったところ……そして、エルフィアにとっては起死回生の踏ん張りどころである。
とはいえ、聞いた感じだと確実に不利なのはエルフィアだ。なにせ、エルフィアの戦力はこの場にいるエルフィアを含めた6人のみ。
つまり、この6人で両陣営200人を相手にしなくてはいけない……ということになる。
「こ、こんな……こんなルール不正でしかありません!」
レシアは憤慨し、温厚なシールも眉を顰めている。たしかに、気持ちも分からないではないだろう。これはどう見ても、エルフィアをここで完全に潰そうとしているのだから。
ハニーはそんな二人に対しても冷静にことを述べる。
「落ち着くのじゃ……二人の気持ちは儂も分かるがのぉ〜?それでも、エルは戦わねばならぬ。そうじゃろ?」
ハニーの真剣な問い掛けに、エルフィアは力強く頷く。本当は戦いなんて嫌いで、怖いはずだろうに……エルフィアはそれでも自分が突き進む道を貫くために戦う覚悟を持っているようだった。
「しかし……」
それでも、エルフィアが心配なレシアは悲痛そうな面持ちでいる。そんなレシアに、エルフィアは我儘を言う子供を諭す母親のような母性溢れる笑顔で言った。
「…………私は戦うよ。だから、レシア……付いてきて欲しいの」
「お嬢……様」
「他の皆も……」
エルフィアはレシア以外にも……シール、ハニー、ディースと目を合わせて行く。各々、エルフィアと目を合わせると力強く頷いた。
「もちろんです!」
「おうとも〜」
「うむ!」
そして……エルフィアの目が最後に俺と合う。エルフィアの考えていることは分からないが……まあ、何となく分かる。俺はやれやれと肩を竦めつつ、口を開いた。
「ああ、お前が大将だ」
と……俺を最後に全員の心が通い合う。エルフィアは自然と右手を掲げ、他のやつも釣られるように手を挙げる。拳を頂点でぶつけ合い、エルフィアが大将らしく音頭を取る。
「私は必ずこの国の王になって、誰もが幸せになれる……そんな国を作りたい」
エルフィアの願い……夢が拳を合わせる者たちに広がって行く。続いて、シールが恥ずかしそうにしながらも口を開いた。
「僕は……そんなお嬢様の力になりたい……いえ、なります」
男らしく、シールらしい……天晴れな誓い。シールは俺と目を合わせると苦笑した。いつも俺に男ならとかなんとか……言われていたもんな……。シールは短いながらも、この旅の中で強かになった。
「我輩は、我が友のために拳を振るおう」
ディースも男らしく大きな拳を合わせて言う。本当に俺とは気が合い、今日まで仲良くやってきた。気のいい奴だ。
「儂もエルのために、みなのために力を貸すのじゃ〜」
便乗する形だから少し格好つかないが……それもまたハニーらしいかなと思う。
「……私はお嬢様の剣。いつでもどこでも……私はお嬢様をお守りしましょう」
最後にレシアが己の在り方を、この場で確立させる。揃いも揃って誰かのために戦場に立つ。良い奴ら……良い心構え、良い信条だ。
拳をただ一人合わせず、五人の視線を一身に受ける俺は……内心でダラーっも汗を垂れ流しにしていた。
やっべぇ……ど、どうすっかなぁ……なんか言い出し難いんだがっ!?
俺は……一つ重大なことを五人に言い忘れていた。否、正確には言いたくても言えなかった。それは、この戦いに関するとんでもなく重要なこと……基本的に手抜きや出し惜しみが嫌いな俺様は、無論他の五人と同じで最初から全力で取り組む所存でいた。
まあ……ぶっちゃけこいつらと違って誰かのためなんて崇高な理由はないけれど……。
もしも俺が拳を合わせていたなら、こう言っていただろう。
『俺は俺が最強の弓使いだと証明するために』
と……いくら俺でもこのマジな雰囲気でこれを言うのは憚れてしまう。が、紛れもなく俺の本心であるために余計言い難い……。
そして、俺が重大な案件に関して言い出し難いのもそれが理由だったりする。とにかく、こんな盛り上がった中ではとてもじゃないが言えない。
この戦い、一見エルフィアが不利なように見えるが……俺から言わせて貰えば――――と、俺がダラダラと汗を流していることに、さすがに不審に思ったレシアが俺と目を合わせて……ハッと何かに気がついたように息を呑む。
俺はバレたかとバツの悪い顔をし、レシアはパクパクと口を震えさせながら……ゆっくりと言葉を発する。
「ろ、ロア……ま、まさか……?」
「……………………」
頭上にハテナマークを浮かべる他の面子も、さすがに俺が何か隠していると分かったからか手を下ろして俺の言葉を待っていた。
……ここまで来たら言わないわけにも行かないなと、俺は頭の後ろをガシガシと掻きながら全員に言ったのだった。
朝食会議(?)の後、暫くエルフィアの寝所に居た俺たちの元に……それはやって来た。
コンコンと扉のをノックする音に俺たちは話す手を止め、目配せする。とはいえ、目を見て考えが分かるのはレシアだけなんだが……。
――私が出ましょう。
――頼むわ。
俺とレシアがパチパチと瞳を合わせて、言葉を交わす。ここまで来るとかなり便利だなと思い……ふと、ハニーがピョコピョコと手を挙げて自己主張していたために反射的に目を向けると、パチパチとハニーも目で語り出す。
――儂も混ぜて欲しいのじゃ〜。
黙れ。
俺とレシアは全く同時にハニーから目を逸らす。無視された挙句そっぽ向かれ、ハニーは頭の上にガーンという文字が浮かび上がるほどにショックを受けてションボリとしている。
レシアは警戒しながら慎重に扉を開ける。扉の向こうには、食事を運んできた侍女が降り、その手には羊皮紙の書状があった。間違いなく……ハンニバルとアレクセンからの書状だ。
侍女は一礼してから部屋の中へ入ると、手元の羊皮紙を広げながら口を開いた。
「ハンニバル様、並びにアレクセン様より……エルフィア様へ申し上げます。明日の朝から夕刻まで三勢力の総力戦を行うとの御達しでございます。つきましては、こちらの書状をご覧下さい。失礼致します」
侍女はレシアに書状を手渡すと、ささっと部屋を出て行く。俺たちは揃ってレシアの持つ書状に目を向け、レシアは直様テーブルの上にそれを広げる。
俺はそれに目を通し、そういえば文字が読めないことを思い出してエルフィアに読ませた。
「えっと……私とお兄様達の総力戦。戦場は王都の南区の市街地で伝説の武器の奪い合いみたい……」
エルフィアが呼んだ書状の内容によると……、
エルフィア派閥
ハンニバル派閥
アレクセン派閥
この三勢力による三つ巴の戦いを、この王都で行なうという。市民は一時退去させ、本格的な戦場とするようだ。市民にとっても、この戦いは次期国王を決める戦い……ハンニバルはどうせやるならとお祭りのように盛り上げるつもりらしく、王都にある闘技場に市民を集めて戦いの様子を実況していくつもりなようだ。
ルールは簡単。市街地を舞台にした伝説の武器の奪い合い……である。各陣営100名まで私兵を投入でき、その中の数人に各陣営が保有する伝説の武器を持たせる。
伝説の武器の保有者を倒すと、倒したものに伝説の武器を所有権が移る。しかし、その後伝説の武器を手に入れた者がさらに誰かに倒されると今度はその倒した者に所有権が移る。
また、各陣営ごとに大将を置く。大将が倒された場合、その陣営は今回の戦いの参加資格を失うため、その場で退場となる。その時点までに伝説の武器を奪って居た場合は、その陣営のものになる。
つまり、制限時間まで伝説の武器を持って逃げるか大将が倒されれば……一応手に入れた伝説の武器はこちら側のものになるということ……。
ハンニバルにとっては、他の陣営を完全に潰すことができ、アレクセンにとっては挽回のチャンスといったところ……そして、エルフィアにとっては起死回生の踏ん張りどころである。
とはいえ、聞いた感じだと確実に不利なのはエルフィアだ。なにせ、エルフィアの戦力はこの場にいるエルフィアを含めた6人のみ。
つまり、この6人で両陣営200人を相手にしなくてはいけない……ということになる。
「こ、こんな……こんなルール不正でしかありません!」
レシアは憤慨し、温厚なシールも眉を顰めている。たしかに、気持ちも分からないではないだろう。これはどう見ても、エルフィアをここで完全に潰そうとしているのだから。
ハニーはそんな二人に対しても冷静にことを述べる。
「落ち着くのじゃ……二人の気持ちは儂も分かるがのぉ〜?それでも、エルは戦わねばならぬ。そうじゃろ?」
ハニーの真剣な問い掛けに、エルフィアは力強く頷く。本当は戦いなんて嫌いで、怖いはずだろうに……エルフィアはそれでも自分が突き進む道を貫くために戦う覚悟を持っているようだった。
「しかし……」
それでも、エルフィアが心配なレシアは悲痛そうな面持ちでいる。そんなレシアに、エルフィアは我儘を言う子供を諭す母親のような母性溢れる笑顔で言った。
「…………私は戦うよ。だから、レシア……付いてきて欲しいの」
「お嬢……様」
「他の皆も……」
エルフィアはレシア以外にも……シール、ハニー、ディースと目を合わせて行く。各々、エルフィアと目を合わせると力強く頷いた。
「もちろんです!」
「おうとも〜」
「うむ!」
そして……エルフィアの目が最後に俺と合う。エルフィアの考えていることは分からないが……まあ、何となく分かる。俺はやれやれと肩を竦めつつ、口を開いた。
「ああ、お前が大将だ」
と……俺を最後に全員の心が通い合う。エルフィアは自然と右手を掲げ、他のやつも釣られるように手を挙げる。拳を頂点でぶつけ合い、エルフィアが大将らしく音頭を取る。
「私は必ずこの国の王になって、誰もが幸せになれる……そんな国を作りたい」
エルフィアの願い……夢が拳を合わせる者たちに広がって行く。続いて、シールが恥ずかしそうにしながらも口を開いた。
「僕は……そんなお嬢様の力になりたい……いえ、なります」
男らしく、シールらしい……天晴れな誓い。シールは俺と目を合わせると苦笑した。いつも俺に男ならとかなんとか……言われていたもんな……。シールは短いながらも、この旅の中で強かになった。
「我輩は、我が友のために拳を振るおう」
ディースも男らしく大きな拳を合わせて言う。本当に俺とは気が合い、今日まで仲良くやってきた。気のいい奴だ。
「儂もエルのために、みなのために力を貸すのじゃ〜」
便乗する形だから少し格好つかないが……それもまたハニーらしいかなと思う。
「……私はお嬢様の剣。いつでもどこでも……私はお嬢様をお守りしましょう」
最後にレシアが己の在り方を、この場で確立させる。揃いも揃って誰かのために戦場に立つ。良い奴ら……良い心構え、良い信条だ。
拳をただ一人合わせず、五人の視線を一身に受ける俺は……内心でダラーっも汗を垂れ流しにしていた。
やっべぇ……ど、どうすっかなぁ……なんか言い出し難いんだがっ!?
俺は……一つ重大なことを五人に言い忘れていた。否、正確には言いたくても言えなかった。それは、この戦いに関するとんでもなく重要なこと……基本的に手抜きや出し惜しみが嫌いな俺様は、無論他の五人と同じで最初から全力で取り組む所存でいた。
まあ……ぶっちゃけこいつらと違って誰かのためなんて崇高な理由はないけれど……。
もしも俺が拳を合わせていたなら、こう言っていただろう。
『俺は俺が最強の弓使いだと証明するために』
と……いくら俺でもこのマジな雰囲気でこれを言うのは憚れてしまう。が、紛れもなく俺の本心であるために余計言い難い……。
そして、俺が重大な案件に関して言い出し難いのもそれが理由だったりする。とにかく、こんな盛り上がった中ではとてもじゃないが言えない。
この戦い、一見エルフィアが不利なように見えるが……俺から言わせて貰えば――――と、俺がダラダラと汗を流していることに、さすがに不審に思ったレシアが俺と目を合わせて……ハッと何かに気がついたように息を呑む。
俺はバレたかとバツの悪い顔をし、レシアはパクパクと口を震えさせながら……ゆっくりと言葉を発する。
「ろ、ロア……ま、まさか……?」
「……………………」
頭上にハテナマークを浮かべる他の面子も、さすがに俺が何か隠していると分かったからか手を下ろして俺の言葉を待っていた。
……ここまで来たら言わないわけにも行かないなと、俺は頭の後ろをガシガシと掻きながら全員に言ったのだった。
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