最強は絶対、弓矢だろ!
あ?魔女?
☆☆☆
岸壁が崩れ、そこに埋もれる形で目を回していた……道化師のような容貌の魔法使いはなんと無傷。
レシアは背中の剣を引き抜き、目を回す魔法使いの喉元に剣を突き付ける。
暫くして、回復した魔法使いは現状を確認するように首を回し……そして突き付けられた剣先を見て、口が動いた。
レシアがそれを見逃すはずがなく、容赦無く剣を突き刺そうとすると既に魔法使いの姿は消えており、おれもレシアも驚愕した。
「どこへ……」
「こっちじゃよ〜」
と、どこか挑発めいた声の方向へ首を回すと俺たちの後ろに魔法使いは普通に立っていた。
レシアも俺も、後ろを取られたことに警戒を強めた。
魔法使いはフムフムと唸り、指を一本立てる。月夜の如く美しい黒髪の長い女魔法使いは、月をバックに高らかに叫んだ。
「儂こそは!森羅万象を征す、悪逆非道な大魔法使い!そう、儂こそ……闇に抱かれし暗黒の血統!ハニー・ハニー・ロンドスタッフであ〜る!さぁさぁ、劣等種よ!控えよ〜」
むふん……と、胸を張って両手を腰に置き、ドヤ顔で魔法使い……ハニー・ハニー・ロンドスタッフが言った。
俺は小声で、隣で頬を引攣らせているレシアに言った。
「わりぃ……あいつが何言ってんのか全然分からんのだが」
「珍しく意見が合いましたね……」
お前もか。よかったー俺だけかと思ったわー。どうやら、頭おかしいのは目の前の自称大魔法使い様だけのようだ。
とはいえ、頭がおかしいと言っても……俺たちの背後を取るその手腕は只者じゃない。限りなくバカっぽいが、油断できない。
レシアは気を取り直すように頭を振り、目の前で胸を張って満足そうにしているヘンテコ大魔法使いに問うた。
「突然襲ってくるとは、礼儀がなっていないようですね。大魔法使いさん?」
レシアの見え透いた挑発に、大魔法使いハニーはキョトンと目を丸くすると、コロコロと笑った。
「ほぅ?儂の名前を聞いても逃げ出さずにおれるとは……中々、骨のある女じゃな〜」
楽しそうに言うハニーの意味深な言葉に……レシアが顔を顰め、小声でハニー・ハニー・ロンドスタッフという名前を復唱する。
そして、何かに気づいたようにハッとした。
「ロンドスタッフといえば……刻印魔法の理論を確立した美しき天才魔法使い……?いえ……そんなまさか」
刻印魔法……?
俺は知らない単語に首を傾げる。魔法ってのが、俺たちが身体の中に持つ魔力ってのを使うことで発動するもんだとは知ってるが……ぶっちゃけ、魔法については詳しいことは知らない。俺のような小さな村民は、知る必要もなかった。
それから俺は美しき天才という部分に対して、ハニーを見てなるほどと納得した。
綺麗な黒髪で、格好も奇抜だが大人の色気のようなものを感じるデザインだ。黒が基調というのもポイントだろう。胸はレシアよりも慎ましいものだが、エルフィアよりもある。腰つきも非常に良い。手足もスラリと長く、セクシーだ。
「美しき天才魔法使いね……ふっ、たしかに良い女だぜ」
「……」
俺の一言にレシアから無言の圧力を感じた。
俺は素知らぬふりで視線を明後日の方向へ向ける。すると、レシアはため息を吐いてハニーに向かって再び問う。
「ハニー・ハニー・ロンドスタッフ……刻印魔法を作った、あのロンドスタッフというのですか?」
レシアの問いにニコニコと笑うハニーは、「そうじゃよ〜」と軽い感じで答えた。
レシアはその軽さに呆気にとられながらも、再度訊いた。
「あなたのようなお方が何故このような場所に?それに、どうして私たちを襲ったのでしょうか」
「ふーむ……」
ハニーは何か考えるように顎に手をやり、何かを口にしようとしたところで盛大にグゥ〜というヘンテコな音がなった。
レシアに目を向けるとキッと睨まれた。なるほど、違うと……ならばとハニーへ目を向けると、あはは〜と腹を抑えて蹲った。
「ハラー……減ったのじゃ」
「「……」」
俺とレシアは顔を見合わせ、同時に再びハニーへ視線を戻す。
ハニーは本当に腹が減っているようで、先程からお腹を鳴らしてはうーうー唸ったいる。
俺はふとピンと来て、何気なく口を開いた。
「ひょっとして、腹減って俺たち襲った的な……」
「うーうー……暗かったのでなー。獣かと思ったのじゃが、すまんのぉ……許してくれるかえー?」
嘘を付いている感じはしなかったが、レシアが警戒を解く気配がしない。俺は頭を掻き、ハニーに提案した。
「飯、食わせてやるからよ。ちょいと話を聞かせてもらおうじゃねぇか」
「む?ホントーかえ!?おぉ!お主は神様じゃ〜」
「よせよ……照れるじゃねぇか」
俺が顎に手をやって格好付けたところで、隣にいたレシアが俺の裾を引っ張ってどういうつもりかと小声で怒鳴ってきた。
俺は、「まあ落ち着け」と同じように小声で返した。
ハニーはユラユラと立ち上がり、生まれたての子鹿のような足で、フラフラとこちらへ歩いてくる。目の前まで来ると、夜空と同じ色の瞳が面白いものを見るように、俺を映した。
「しかしー話を聞かせるとはなんじゃ?儂はお主に聞かせられる話など持っとらんぞー?」
「いやいや、惚けんなよ。さっきレシアが訊いてたろ?どうして、てめぇみたいなのがこんなところにいるのかってな」
「ふむ……それで?」
ハニーは興味深そうに頷き、続きを促す。俺は両腕を組んで続けた。
「ぶっちゃけ、てめぇのことはまるっきり知らねぇんだがな。レシアの反応を見る限りじゃ、少なくともこんなへんぴな場所に夜中ほっつき歩いてる奴じゃねぇってことは分かった。魔法使いとしての腕も相当なんだろーな。で、そんな奴が丁度俺たちの目の前に現れた……」
怪しいことこの上ないが、腹が減って俺たちを襲ったのは嘘ではなかった。俺たちと出会ったのは偶然……答えは否。
嘘はついていなくても、本当のことは言っていない。
「腹が減ってんのは本当だが、それが理由で襲ったんじゃねぇ……何の思惑があるかしらねぇが、俺たちと接触したい別の理由があるんだろ?狙いはなんだか知らねぇがな」
レシアへ目を向けると、レシアは呆れたように首を横に振る。その反応から察するに、ハニーというこの魔法使いが伝説の武器の争奪に関わっている可能性が低いということだろう。
再び視線をハニーへ戻すと、ハニーはほけーっと俺を眺め……ぐぅ〜っとお腹を鳴らした。
それで俺もレシアも苦笑し、俺はやれやれと両手を挙げた。
「まあ、ここで話してても仕方ねぇ……戻るぞ」
「ロア……」
「分かってる。警戒はしろってんだろ?」
レシアの意を汲んで答えると、レシアは頷いて先に戻る。シールとエルフィアを起こして、ディースも交えて事情を説明してくれるのだろう。
ハニーはこっちの話が纏まるのを待っていたか、ぐぅぐぅとお腹を鳴らしながら俺の隣まで歩いてきた。
「話はついたかえ〜?」
「あぁ。腹が鳴ってると、美人が台無しだな」
俺がそう言うと、ハニーはうへぇと顔を歪ませた。
「そんな取って付けたような世辞はいらぬよー。全く、頭の回る男じゃて。おぉ!そういえばお主の名を聞いとらんのじゃが?」
「あ?そういえば名乗ってねぇな……俺はロア・キースだ。つっても、知ってんだろ」
「むぅ?なぜそう思うのかえ?」
キョトンと、またまた惚ける魔法使いに俺はため息を吐きながらこっちの言ってやる。
「名前も知らずに襲ってきたのんて、考え難いからな」
そう得意気に言ってやると、ハニーは面白そうにコロコロ笑った。それから馬鹿にするように俺を見下して言った。
「ぷぷぷ〜得意気なところわるいんじゃがのー。お主のことは本当に知らなんだ〜。儂が知っておるのは、あの剣士の娘、この国の王女、そして特に目立たない御者、その三人だけじゃよ〜」
のほほんと、普通に言っているが……逆に言えばその三人のことについては知っている。そして、この三人の関連性は伝説の武器の収集、その延長線上に存在する王位継承争いに他ならない。
「てめぇの目的は何なんだ?」
率直に問うと、ハニーは不敵に笑って答えた。
「さぁてのー。案外、なーんにも目的がないかもしれんぞ〜」
それを聞いた俺は呆気にとられ、そしてもしかしたらそうなのかもしれないと思った。それでも食い下がるように、負けじと口を利かせる。
「だが、それだとわざわざ攻撃してくる意味ねぇだろ。こっちを警戒させるだけじゃねぇか」
「どんな意図があったかーと言われれば、試したというのが一番近い表現じゃがの〜」
試した……ね。
俺は腕を組み直し、肩を竦めた。
「で?てめぇのお眼鏡にはかなったかよ」
ニヤリと言うと、ハニーも肩を竦めてワザと戯けたフリをして答えた。
「いやはや、死ぬかと思ったわい」
と、その言葉の最後と同時にハニーの腹が鳴る。なんとも締まらない感じで、俺はやれやれともう一度首を振った。
ハニーは、「むぅ」と唸ってふて腐れたように頬を膨らませる。その行動はどこか子供っぽいが、わざとそうして見えるようにしているようだ。
ハニーは子供が悔しがるような仕草で、こう返した。
「ふん……そろそろ、剣士の娘が事情を説明し終えた頃じゃろうて。いい加減にせんと、儂の背中とお腹がくっ付いてしまうのじゃ!」
あぁ……バレてた。
頭のような回る魔法使いのようだ。天然装っている分、余計に怪しいもんだが……だからこそ、こいつから目を離すのは危険だ。
さっきの瞬間移動みたいなのもそうだが、こいつは得体が知れなさ過ぎる。レシアもそれを理解したからこそ、こいつを連れて行くことに許可をしたのだ。
ハニーがこれから語る言葉が偽りか真実かはさておき、とにかく只者じゃないということだけはたしかだろう。
岸壁が崩れ、そこに埋もれる形で目を回していた……道化師のような容貌の魔法使いはなんと無傷。
レシアは背中の剣を引き抜き、目を回す魔法使いの喉元に剣を突き付ける。
暫くして、回復した魔法使いは現状を確認するように首を回し……そして突き付けられた剣先を見て、口が動いた。
レシアがそれを見逃すはずがなく、容赦無く剣を突き刺そうとすると既に魔法使いの姿は消えており、おれもレシアも驚愕した。
「どこへ……」
「こっちじゃよ〜」
と、どこか挑発めいた声の方向へ首を回すと俺たちの後ろに魔法使いは普通に立っていた。
レシアも俺も、後ろを取られたことに警戒を強めた。
魔法使いはフムフムと唸り、指を一本立てる。月夜の如く美しい黒髪の長い女魔法使いは、月をバックに高らかに叫んだ。
「儂こそは!森羅万象を征す、悪逆非道な大魔法使い!そう、儂こそ……闇に抱かれし暗黒の血統!ハニー・ハニー・ロンドスタッフであ〜る!さぁさぁ、劣等種よ!控えよ〜」
むふん……と、胸を張って両手を腰に置き、ドヤ顔で魔法使い……ハニー・ハニー・ロンドスタッフが言った。
俺は小声で、隣で頬を引攣らせているレシアに言った。
「わりぃ……あいつが何言ってんのか全然分からんのだが」
「珍しく意見が合いましたね……」
お前もか。よかったー俺だけかと思ったわー。どうやら、頭おかしいのは目の前の自称大魔法使い様だけのようだ。
とはいえ、頭がおかしいと言っても……俺たちの背後を取るその手腕は只者じゃない。限りなくバカっぽいが、油断できない。
レシアは気を取り直すように頭を振り、目の前で胸を張って満足そうにしているヘンテコ大魔法使いに問うた。
「突然襲ってくるとは、礼儀がなっていないようですね。大魔法使いさん?」
レシアの見え透いた挑発に、大魔法使いハニーはキョトンと目を丸くすると、コロコロと笑った。
「ほぅ?儂の名前を聞いても逃げ出さずにおれるとは……中々、骨のある女じゃな〜」
楽しそうに言うハニーの意味深な言葉に……レシアが顔を顰め、小声でハニー・ハニー・ロンドスタッフという名前を復唱する。
そして、何かに気づいたようにハッとした。
「ロンドスタッフといえば……刻印魔法の理論を確立した美しき天才魔法使い……?いえ……そんなまさか」
刻印魔法……?
俺は知らない単語に首を傾げる。魔法ってのが、俺たちが身体の中に持つ魔力ってのを使うことで発動するもんだとは知ってるが……ぶっちゃけ、魔法については詳しいことは知らない。俺のような小さな村民は、知る必要もなかった。
それから俺は美しき天才という部分に対して、ハニーを見てなるほどと納得した。
綺麗な黒髪で、格好も奇抜だが大人の色気のようなものを感じるデザインだ。黒が基調というのもポイントだろう。胸はレシアよりも慎ましいものだが、エルフィアよりもある。腰つきも非常に良い。手足もスラリと長く、セクシーだ。
「美しき天才魔法使いね……ふっ、たしかに良い女だぜ」
「……」
俺の一言にレシアから無言の圧力を感じた。
俺は素知らぬふりで視線を明後日の方向へ向ける。すると、レシアはため息を吐いてハニーに向かって再び問う。
「ハニー・ハニー・ロンドスタッフ……刻印魔法を作った、あのロンドスタッフというのですか?」
レシアの問いにニコニコと笑うハニーは、「そうじゃよ〜」と軽い感じで答えた。
レシアはその軽さに呆気にとられながらも、再度訊いた。
「あなたのようなお方が何故このような場所に?それに、どうして私たちを襲ったのでしょうか」
「ふーむ……」
ハニーは何か考えるように顎に手をやり、何かを口にしようとしたところで盛大にグゥ〜というヘンテコな音がなった。
レシアに目を向けるとキッと睨まれた。なるほど、違うと……ならばとハニーへ目を向けると、あはは〜と腹を抑えて蹲った。
「ハラー……減ったのじゃ」
「「……」」
俺とレシアは顔を見合わせ、同時に再びハニーへ視線を戻す。
ハニーは本当に腹が減っているようで、先程からお腹を鳴らしてはうーうー唸ったいる。
俺はふとピンと来て、何気なく口を開いた。
「ひょっとして、腹減って俺たち襲った的な……」
「うーうー……暗かったのでなー。獣かと思ったのじゃが、すまんのぉ……許してくれるかえー?」
嘘を付いている感じはしなかったが、レシアが警戒を解く気配がしない。俺は頭を掻き、ハニーに提案した。
「飯、食わせてやるからよ。ちょいと話を聞かせてもらおうじゃねぇか」
「む?ホントーかえ!?おぉ!お主は神様じゃ〜」
「よせよ……照れるじゃねぇか」
俺が顎に手をやって格好付けたところで、隣にいたレシアが俺の裾を引っ張ってどういうつもりかと小声で怒鳴ってきた。
俺は、「まあ落ち着け」と同じように小声で返した。
ハニーはユラユラと立ち上がり、生まれたての子鹿のような足で、フラフラとこちらへ歩いてくる。目の前まで来ると、夜空と同じ色の瞳が面白いものを見るように、俺を映した。
「しかしー話を聞かせるとはなんじゃ?儂はお主に聞かせられる話など持っとらんぞー?」
「いやいや、惚けんなよ。さっきレシアが訊いてたろ?どうして、てめぇみたいなのがこんなところにいるのかってな」
「ふむ……それで?」
ハニーは興味深そうに頷き、続きを促す。俺は両腕を組んで続けた。
「ぶっちゃけ、てめぇのことはまるっきり知らねぇんだがな。レシアの反応を見る限りじゃ、少なくともこんなへんぴな場所に夜中ほっつき歩いてる奴じゃねぇってことは分かった。魔法使いとしての腕も相当なんだろーな。で、そんな奴が丁度俺たちの目の前に現れた……」
怪しいことこの上ないが、腹が減って俺たちを襲ったのは嘘ではなかった。俺たちと出会ったのは偶然……答えは否。
嘘はついていなくても、本当のことは言っていない。
「腹が減ってんのは本当だが、それが理由で襲ったんじゃねぇ……何の思惑があるかしらねぇが、俺たちと接触したい別の理由があるんだろ?狙いはなんだか知らねぇがな」
レシアへ目を向けると、レシアは呆れたように首を横に振る。その反応から察するに、ハニーというこの魔法使いが伝説の武器の争奪に関わっている可能性が低いということだろう。
再び視線をハニーへ戻すと、ハニーはほけーっと俺を眺め……ぐぅ〜っとお腹を鳴らした。
それで俺もレシアも苦笑し、俺はやれやれと両手を挙げた。
「まあ、ここで話してても仕方ねぇ……戻るぞ」
「ロア……」
「分かってる。警戒はしろってんだろ?」
レシアの意を汲んで答えると、レシアは頷いて先に戻る。シールとエルフィアを起こして、ディースも交えて事情を説明してくれるのだろう。
ハニーはこっちの話が纏まるのを待っていたか、ぐぅぐぅとお腹を鳴らしながら俺の隣まで歩いてきた。
「話はついたかえ〜?」
「あぁ。腹が鳴ってると、美人が台無しだな」
俺がそう言うと、ハニーはうへぇと顔を歪ませた。
「そんな取って付けたような世辞はいらぬよー。全く、頭の回る男じゃて。おぉ!そういえばお主の名を聞いとらんのじゃが?」
「あ?そういえば名乗ってねぇな……俺はロア・キースだ。つっても、知ってんだろ」
「むぅ?なぜそう思うのかえ?」
キョトンと、またまた惚ける魔法使いに俺はため息を吐きながらこっちの言ってやる。
「名前も知らずに襲ってきたのんて、考え難いからな」
そう得意気に言ってやると、ハニーは面白そうにコロコロ笑った。それから馬鹿にするように俺を見下して言った。
「ぷぷぷ〜得意気なところわるいんじゃがのー。お主のことは本当に知らなんだ〜。儂が知っておるのは、あの剣士の娘、この国の王女、そして特に目立たない御者、その三人だけじゃよ〜」
のほほんと、普通に言っているが……逆に言えばその三人のことについては知っている。そして、この三人の関連性は伝説の武器の収集、その延長線上に存在する王位継承争いに他ならない。
「てめぇの目的は何なんだ?」
率直に問うと、ハニーは不敵に笑って答えた。
「さぁてのー。案外、なーんにも目的がないかもしれんぞ〜」
それを聞いた俺は呆気にとられ、そしてもしかしたらそうなのかもしれないと思った。それでも食い下がるように、負けじと口を利かせる。
「だが、それだとわざわざ攻撃してくる意味ねぇだろ。こっちを警戒させるだけじゃねぇか」
「どんな意図があったかーと言われれば、試したというのが一番近い表現じゃがの〜」
試した……ね。
俺は腕を組み直し、肩を竦めた。
「で?てめぇのお眼鏡にはかなったかよ」
ニヤリと言うと、ハニーも肩を竦めてワザと戯けたフリをして答えた。
「いやはや、死ぬかと思ったわい」
と、その言葉の最後と同時にハニーの腹が鳴る。なんとも締まらない感じで、俺はやれやれともう一度首を振った。
ハニーは、「むぅ」と唸ってふて腐れたように頬を膨らませる。その行動はどこか子供っぽいが、わざとそうして見えるようにしているようだ。
ハニーは子供が悔しがるような仕草で、こう返した。
「ふん……そろそろ、剣士の娘が事情を説明し終えた頃じゃろうて。いい加減にせんと、儂の背中とお腹がくっ付いてしまうのじゃ!」
あぁ……バレてた。
頭のような回る魔法使いのようだ。天然装っている分、余計に怪しいもんだが……だからこそ、こいつから目を離すのは危険だ。
さっきの瞬間移動みたいなのもそうだが、こいつは得体が知れなさ過ぎる。レシアもそれを理解したからこそ、こいつを連れて行くことに許可をしたのだ。
ハニーがこれから語る言葉が偽りか真実かはさておき、とにかく只者じゃないということだけはたしかだろう。
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