コンパイルキューブ

巫夏希

第三章 少年魔術師の反撃(4)

 ユウの話は続く。

「ブラックボックスは誰も解明させることが出来ないからブラックボックスというのだ。決してそれについて諦観の気持ちがあったとか、そういうことは無い。ブラックボックスではあったが、量産化は容易に出来たためだ」
「……その技術が解明されていなかったにもかかわらず?」
「あぁ、なんというか不思議な話だろう? そう思うのも仕方ないかもしれないな……。ともかく、ブラックボックスは解明されなかったが、コンパイルキューブの量産化及び実用は成功した。それと同時に『魔術』は浸透していき、魔術師は生まれた……」
「魔術師はコンパイルキューブの浸透とともに増えていった。それは当然な事由によるものだよ。魔術師を目指す人間はそれ程に多かったということだね。魔術師を目指す人間は、勿論様々な理由があった。例えば自分には何の取り得も無いから魔術を極めようという人間もいたな。はっきり言って、まったく愚かなことだ。そんな生半可な理由で魔術師になろうと思うのが間違っている」
「はっきりと言うんですね……」
「だってそうだろう? 魔術も才能だよ。才能が無ければ簡単な魔術を行使することだって出来やしない。それを知らず、コンパイルキューブが欲しいと戯言を言いだす。それは間違っていることだと私や他の人が言っても、だ。そしていずれ、あきらめる。それと同時に放たれる言葉はいつもきまっている」


 ――魔術師はケチな存在だ。だから、邪悪と呼ばれる。


「お前たちが今までなりたがっていた職業は何だ? と問いたくなったよ。まあ、私は大人の感性を持っていたわけだから、何も言わなかったけれどね。きっと私よりもユウの方が怒りに満ちていたと思うよ。何せ私が止めなかったら炎魔術でみんな焼き払っていただろうからね」
「さらっと言っていますけど、それって恐怖ですよ? 恐怖の一言に尽きますよ?」

 春歌の言葉にユウは微笑む。

「まあ、そういう時代もあったということだ。若気の至りというやつだよ。今はさすがにそんなことはしないけれどね。目立ってしまう。実際問題、私の行動だけで組織の凡てが決まってしまうと言っても過言では無いからね」
「本当に、若気の至りよねえ……。今は私も魔術師以外の職に就いて実感しているわ。魔術師という職業が、どれほど人間の世界とは違う生き方をしているのかということを」

 ユウはワイングラスを傾けたが、もうとっくにワイングラスの中身は空になっているので、それを確認して、ワイングラスをテーブルに置いた。

「それでは、話を戻しましょう。どれくらい戻す?」
「どれくらい、って……。ここに来たのはそもそも魔術師の歴史について語るためでも無いだろ? 先ずはホワイトエビルにどう立ち向かうか、それについて語るべきだ」
「そうね。流石香月クン。いい判断」

 ユウの言葉で、会議の舵が大きく取られる。

「それじゃ話を再開しましょう。先ず、私が知っている情報について簡単に説明します。私が知っている情報は全部で三つ」

 右手の指を三本立てるユウ。
 だが、すぐに人差し指だけを立てた。

「一つ、ホワイトエビルについて。私は前々からホワイトエビルの凶行には常々頭を悩ませていた。彼らの影響力は強い。それによって魔術師の評判全体が下がることにもつながりかねないからね。だから、彼らによる事件が起きたときはすぐさま解決するように全力を尽くした。現に君が春歌ちゃんと出会ったあの依頼……あれもホワイトエビル絡みだからね」
「まあ、薄々気が付いていたよ」

 香月は小さく溜息を吐いた。
 それを聞いてユウは小さく首を傾げる。

「あら、知っていたの?」
「知っていた以前の問題だ。ホワイトエビルの情報が出始めてから、僕と春歌が狙われ始めた。そこからホワイトエビルの線を当たるのは、常識だろう?」
「常識かどうかはこの際考えないが……、そうか。知っていたのか」
「ただし、これが確信に変わったのは今さっきだけれどね。それまでは確証が掴めないけれど可能性がある程度に過ぎなかった」

 ユウは一旦立ち上がると、会議室にある小さな扉の前に立った。
 どこへ向かうか解らなかったので、全員目線を集中させていたのだが――。

「……どうした? 別に見ても何も面白くないぞ?」
「え? 本当に?」
「だってこの扉は――」

 ギイ、といかにも立てつけの悪い音を立てて扉が開いた。
 そこにあったのは――大量のワインだった。

「……へ?」
「ここはワイン収蔵庫だよ。私はワインが好きでね。毎日飲んでも飽きないくらいだ。まあ、たまには焼酎も嗜むがね」
「会議中に酒を嗜むのがうちの代表のルール的なものがあるからね。それについては致し方ない。でも、いまだに反対する人間も居るんだし、少しは自制した方がいいんじゃないのか?」
「ええ? こっちの方が頭も回るからいやよ。嫌です。嫌なんです!」
「三段活用と思わせて全然違うからな、それ……」

 もはやギャグにしか見えない会議の流れに驚きを隠せない春歌。
 それを見た果が彼女の肩をポンポンと優しく叩いた。

「こういうのは苦手かい?」
「い、いえ……。でも、初めて見たので、その……」
「ああ、慣れないってことか。でも何回か会議を経験すれば慣れてくるよ。確かにユウはああいうやつだけれど、根はいいやつだからね。きっと、君の役に立ってくれるはずだ。それは香月クンも変わらない。彼も君を助けるために全力で取り組んでいる。ホワイトエビルに喧嘩を売るということははっきり言って無謀だが……。そうだとしても、彼らはたちむかうだろうね。いや、現に立ち向かっている。ボロボロになるかもしれない、もしかしたら死んでしまうかもしれない。その可能性が高いというのに、ホワイトエビルに喧嘩を売ろうとしているわけだ。そもそも先に被害に遭ったのはヘテロダイン側だから、順当な理由があるにはあるけれどね」

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