異世界レストランガイド
はちみつ飴
口の中にはちみつの味が広がる。
あまり食欲が湧かない時にこういうのを舐めておくのがベストだ。少し糖分が手に入り、疲れも癒すことができる。
今、俺たちは工場地帯を抜け、本社へと入っていた。意外にも簡単に入ることができたのでそこはほっとしている。
「それにしてもブランシュ・インダストリィの土地はあまりにも広すぎるだろ……。どうしてここまでの土地を確保することができたんだ?」
俺はふと思った疑問をハルにぶつけてみた。
ハルは非常につまらなそうな顔をしながら、それでも俺の疑問に答えてくれた。
「簡単なことだよ。この町ディクスがブランシュ・インダストリィを中心に構成されて出来上がった町だからさ」
「ブランシュ・インダストリィを中心に……?」
「この町ディクスは、もともと小さな農村だった。貧しい村と言われているよ。それでも、食べ物が作れる時点ではこの町の表側にある『貧民街』より貧しくはないだろうけどね」
ハルが話してくれた、ディクスという町の歴史はこんなことだった。
今から百年ほど前、ちょうどブランシュ・インダストリィができる少し前のことだ。まだディクスという町は農村のひとつに過ぎず、税金を収めることのできる民が三割にも満たない現状だった。
その窮状をどうにかしようと立ち上がったのは、当時ディクスの土地の五割を保有して、それを農民へと貸し与えていた大地主ランブル・ブランシュである。ランブルは考えた、どうしてこんなことになってしまうのだろうか。どうして弱者に救われない世界が生まれてしまったのだろうか。ランブルは深い悲しみとともに、考えて考えて考え抜いた。
そんなある日のことだった。枯れ果てたとされている果実樹の果実に入っていた種を食したランブルはその味を感じて、感動を覚えた。
こんな美味しい種は、今までに見たことも感じたこともない!
そう思ったランブルはそれを売り出すことに決めた。
そしてそれは彼らの言葉から『奇跡』という意味の古代語『ココール』をもじって、カカオと呼ばれるようになり、それを食べやすいように加工したものを『チョコレート』というようになったのは、それから十年後のことであった。
「……そうしてブランシュ・インダストリィはチョコレートの開発からお菓子の開発を始めた。販売ももちろんブランシュ・インダストリィが執り行い、その後世界一の製菓企業になったのは……君だって知っているだろう?」
それを聞いて俺は頷く。長い話のようにも思えたが、意外にも時間はそれほど経っていないらしい。恐らく、歴史の深さに反比例して深く内容を切り込まなかったからかもしれない。
ハルは小さく溜息を吐いて話を続ける。もしかしたら俺の反応が無味乾燥過ぎてつまらなかったのかもしれない。だが、俺はそれを聞いて別に感動する話でもなければ聞いて嬉しい話でもない。もしここが酒場の席だったりするならば、酒の魔力で笑うこともできたのだろうが。
「……まあ、いい。別にこの話を面白い話にするわけでもないし、実際そうではない。この話はただ平凡な出世話だ。確かに全然面白くないだろう」
ハルの話は続く。
「昔こそブランシュ・インダストリィはいい会社だったのかもしれない。いい企業だったのかもしれない。周りに住んでいる人間のことを思って、様々なことを行った結果今のブランシュ・インダストリィがあるのだから。でも、今は違う。明らかに違う。大きく違う。誰がなんと言おうと、違うものばかりだ。ブランシュ・インダストリィはもはや変わってしまった……そういう声が聞こえてくるくらいだよ。そうした声を聞いて、我々が調査をしているといっても等しい」
ハルはそこまで言って一転、笑みを浮かべる。
「ま。すべてこれも団長の言葉の受け売りに過ぎないけどね」
そう言ってハルはせせら笑う。まるで悩む俺を嘲笑うようにも思えて、とても気分が悪かった。
「……さて、もう大丈夫かい。これから向かうのは大きな戦いだ。小さな戦いになるかもしれないが、結果を見るに大きくなるのは間違いないだろうね。準備はいいか?」
俺はその言葉を聞いて、頷いた。
それはハルに対する反抗だったのかもしれない。
だが。
俺はもう決めたのだ。この作戦に自ら身を投じる、と。
そう強く思いながら、俺はもう薄膜めいていたはちみつ飴を噛み砕いた。
あまり食欲が湧かない時にこういうのを舐めておくのがベストだ。少し糖分が手に入り、疲れも癒すことができる。
今、俺たちは工場地帯を抜け、本社へと入っていた。意外にも簡単に入ることができたのでそこはほっとしている。
「それにしてもブランシュ・インダストリィの土地はあまりにも広すぎるだろ……。どうしてここまでの土地を確保することができたんだ?」
俺はふと思った疑問をハルにぶつけてみた。
ハルは非常につまらなそうな顔をしながら、それでも俺の疑問に答えてくれた。
「簡単なことだよ。この町ディクスがブランシュ・インダストリィを中心に構成されて出来上がった町だからさ」
「ブランシュ・インダストリィを中心に……?」
「この町ディクスは、もともと小さな農村だった。貧しい村と言われているよ。それでも、食べ物が作れる時点ではこの町の表側にある『貧民街』より貧しくはないだろうけどね」
ハルが話してくれた、ディクスという町の歴史はこんなことだった。
今から百年ほど前、ちょうどブランシュ・インダストリィができる少し前のことだ。まだディクスという町は農村のひとつに過ぎず、税金を収めることのできる民が三割にも満たない現状だった。
その窮状をどうにかしようと立ち上がったのは、当時ディクスの土地の五割を保有して、それを農民へと貸し与えていた大地主ランブル・ブランシュである。ランブルは考えた、どうしてこんなことになってしまうのだろうか。どうして弱者に救われない世界が生まれてしまったのだろうか。ランブルは深い悲しみとともに、考えて考えて考え抜いた。
そんなある日のことだった。枯れ果てたとされている果実樹の果実に入っていた種を食したランブルはその味を感じて、感動を覚えた。
こんな美味しい種は、今までに見たことも感じたこともない!
そう思ったランブルはそれを売り出すことに決めた。
そしてそれは彼らの言葉から『奇跡』という意味の古代語『ココール』をもじって、カカオと呼ばれるようになり、それを食べやすいように加工したものを『チョコレート』というようになったのは、それから十年後のことであった。
「……そうしてブランシュ・インダストリィはチョコレートの開発からお菓子の開発を始めた。販売ももちろんブランシュ・インダストリィが執り行い、その後世界一の製菓企業になったのは……君だって知っているだろう?」
それを聞いて俺は頷く。長い話のようにも思えたが、意外にも時間はそれほど経っていないらしい。恐らく、歴史の深さに反比例して深く内容を切り込まなかったからかもしれない。
ハルは小さく溜息を吐いて話を続ける。もしかしたら俺の反応が無味乾燥過ぎてつまらなかったのかもしれない。だが、俺はそれを聞いて別に感動する話でもなければ聞いて嬉しい話でもない。もしここが酒場の席だったりするならば、酒の魔力で笑うこともできたのだろうが。
「……まあ、いい。別にこの話を面白い話にするわけでもないし、実際そうではない。この話はただ平凡な出世話だ。確かに全然面白くないだろう」
ハルの話は続く。
「昔こそブランシュ・インダストリィはいい会社だったのかもしれない。いい企業だったのかもしれない。周りに住んでいる人間のことを思って、様々なことを行った結果今のブランシュ・インダストリィがあるのだから。でも、今は違う。明らかに違う。大きく違う。誰がなんと言おうと、違うものばかりだ。ブランシュ・インダストリィはもはや変わってしまった……そういう声が聞こえてくるくらいだよ。そうした声を聞いて、我々が調査をしているといっても等しい」
ハルはそこまで言って一転、笑みを浮かべる。
「ま。すべてこれも団長の言葉の受け売りに過ぎないけどね」
そう言ってハルはせせら笑う。まるで悩む俺を嘲笑うようにも思えて、とても気分が悪かった。
「……さて、もう大丈夫かい。これから向かうのは大きな戦いだ。小さな戦いになるかもしれないが、結果を見るに大きくなるのは間違いないだろうね。準備はいいか?」
俺はその言葉を聞いて、頷いた。
それはハルに対する反抗だったのかもしれない。
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俺はもう決めたのだ。この作戦に自ら身を投じる、と。
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