つのつきのかみさま

きー子

国土の時代/5

 つのなしの領地の叛乱は、つのつきによって始められた。
 けれども実際に行動を起こした始まりの地がどこかということになると、それは何の変哲もないちいさな村から始まったということになるのだろう。
 つのなしの小隊と短角のつのつきの混成部隊。彼らが要塞の監視から無事に逃れて、いくつかの夜を野営でやり過ごしながら辿り着いたのが、そのちいさな村だった。働き手の多くを兵に取られてしまったせいで若者が少なく、残されたのは女子どもや老人、そして傷病人が多くを占めるという、小隊長のつのなしいわく「別に珍しくもない」村のひとつ。わたしにすればそれはちょっとした衝撃といってもいいのだけれど、この有り様の村からさらに税を取るというのだから無茶もいいところだった。なにもしなくたって早晩破綻してしまう気がしてならない。
 ともあれつのなしもつのつきもなにかを食べなければ生きていけないのだから、活動にあたってどこかしら根を下ろす場所が必要になる──それを踏まえた上で、叛軍の彼らにとってここはうってつけの土地だった。まずつのなしたちの故郷ではなく、親類縁者のたぐいもいないという大前提を満たしている。次に働き手が不足しているおかげで、「遠くの村にいたが戦火に見舞われてここまで逃げてきた」なんて雑な言い訳でも村人からはさして疑われることもなく歓迎された。住むものがいないせいで廃墟のようになっていた建物も少なからずあって、それも拒まれずに済んだ一因なのだろうと思う。そしてなにより、村を支配下に置く帝国への良い感情などみじんもない。それが最たる決め手ともいうべき要素だった。小隊のつのなしたちはごくごく平凡な農民として働きながら、一方で帝国への不信、不満を力強く訴えてもいた。叛乱の種を撒く、それはとても地道で地味な──それこそ途方に暮れてしまいそうな作業だった。
 一方で短角のつのつきはつのつきであることがばれてしまったら困るから、日頃はフードで角を隠して人気のない森の中に潜伏していた。大きな獣を仕留めては村のつのなしたちに分け与える生活をしていて、これがなかなか堂に入っていた。昔ながらのつのつきの狩人そのものといった感じで、わたしはなんだか懐かしいような気持ちになる。もちろんそれは単なる偽装で、本業は別にある。村のつのなしの生活をひそかに見て回ったり、陰ながら小隊のつのなしたちの行動を監視したり、村の周辺を行き交う馬車の中身に探りを入れたり。時にはつのつきの国に報告を入れ、また村への潜伏に身をやつする。
 ──無論のこと、こんなやり方では叛軍の地盤を築くだけでも気が遠くなるような話だ。滞りなくいっても何年もの時間がかかってしまうだろうし、そんなに長い時間をかけていたら情勢も大きく変わる可能性がある。厳密に期限が切られているわけではないけれど、彼らに残されている時間はその実そんなに多くはなかった。
 それゆえ、彼らは早いうちに打って出ることを決める。小隊のつのなしも、短角のつのつきにしても例外はなく皆揃って。それでも大した数になるわけではないけれど、要塞に直接殴りこみにいくわけではないのだから問題は全くない。彼らの目的はただひとつ、つのなしの領地の町から要塞へと向かう物資輸送隊を狙うことだった。この一帯の領地はみんな帝国領にあたるから表立って反抗する勢力はないし、そのおかげなのか輸送隊の護衛はすこぶる手薄。下手に歩兵をつけていたら輸送に時間がかかってしまうから仕方ないといえば仕方ないのだろうけれど、不用心であるところに変わりはない。輸送経路はすでに短角のつのつきが一度は追跡して調べあげているし、だいたいの頻度も要塞にいたつのなしたちが把握している。後はおおよその日付に当たりをつけて、それと思わしい地点にあらかじめ網を張っておくだけ。成功すれば敵の物資は奪えるし、おまけにそれをそっくり自分たちのものにできるのだから言うことはなかった。
 そもそも、要塞に運びこまれる物資はそのほとんどが現地民のつのなしを重税で締め上げて捻出したもの。横から掻っ攫うことにもなんらためらいは覚えないみたいだった。「奪われたものを、元あったところに、戻す。それだけのことだ」と、小隊長のつのなしはそういって意にも介さなかった。さすがに領地のみんなに均等に行き渡らせるような真似ができるわけはないけれど、活動を順当に拡大していけばそれも夢物語のたぐいではなくなる。なにはともあれ、まずはやることだった。成功させることだった。そうしなければ叛乱の火種は潰え、夢は夢のままに終わる。
 はたして、輸送部隊はあえなく彼らの監視網にかかった。つのつきたちが根城にしている村は見向きもされずに通りすぎて、輸送隊の馬車群は街道沿いをひた走る。こんな田舎の領地にまで道を敷いているのはさすがというか、帝国というのも名ばかりではないと思わずにはいられない。もっとも、村に住んでいるつのなしたちはほとんど村から出ることがないから利益をもたらすことはさっぱり無いのだけれど。
 そして僻地の宿命というべきか、街道沿いとはいっても森は深い。つのなしが少ないために森は必要最低限にしか切り開かれておらず、足の踏み場もないような状態では決してないけれど、率直にいって薄暗い。日中であっても高くそびえ立つ黒い木は空から降りそそぐ陽の光を届かせない。そんな街道は左右を木々に挟みこまれていて、つまり狭い。ものすごく狭い。輸送隊の幌馬車が二列になれるかどうかといったところで、要塞に駐留しているつのなし兵をみんな養うための物資量を考えてみれば、狭い道にちょっとした縦列が生まれるのもなんら不思議なことではなかった。
 当然、それはつのなしにとってもつのつきにとっても狙うべき隙にほかならない。縦列が伸びきった一時を狙い、短角のつのつきは高らかに合図の角笛を吹き鳴らす。つのなしたちには"つののしらせ"での通信を行えない以上、そういう原始的な連絡方法を取るほかなかった。それでも、つのつき・つのなしの混成部隊は速やかに──かつ一斉に攻撃を開始する。左右から射掛けられる矢が、ことごとく走る馬を狙って射殺す。
 狭い道で一方向に進み続けている馬など、狙うのはさして難しくもない。荷車を曳いているせいで速さも落ちているのだからなおさらだった。攻撃を受けた輸送隊のつのなしたちは面白いくらいに混乱してあわてふためき、まともに反抗を示すような様子はまるでない。周囲についていた兵など護衛というのもはばかられるほどで、どちらかといえば輸送隊につけられた監視という面が強かったのだろう。つまるところ、襲撃を受けること自体を想定していないということ。不用心だとわたしは思う。けれども考えてみれば無理もない話で、例えば戦争をしかける、しかけられる際には宣戦布告を行う文化がつのなしたちにはあるという。そして当たり前だけれど、後方で輸送を担う部隊を攻撃するときにそれをわざわざ喧伝するようなやつはいないだろう。いたらわたしよりあほだ。
 つまるところ帝国のつのなしたちにとって、輸送を行う人員とは、戦と無関係な非戦闘員にあたるのかもしれない。わからないでもない話だった。そして薄情な話だけれど、つのなし・つのつきの混成部隊にとってそれは付け入る隙以外のなにものでもない。作戦行動は、弓矢の斉射がほんの数度立て続けに放たれたところであえなく決した。もったいないけれども足になる馬は残さず射殺し、部隊を率いるつのなしや護衛のつのなしたちを速やかに拘束。短角のつのつきたちは目撃者をみんな残さず消してしまうべきと主張したものの、つのなしたちはそれには承服しかねるよう。理由はというと、それぞれを尋問してみればどうやら帝国に属するつのなしのみならず、雇われの現地民のつのなしも含まれているからだった。やっぱり故郷を同じくする民というのは、殺さない理由として十分なものなのだろう。つのつきたちにしても、それはよくよくうなずけることみたいだった。
 そこで短角のつのつきは、それぞれの意見を折衷するかたちで計画の修正を試みる。情報を漏らさず完全に潜伏したまま略奪を続けるという方針を、現地民のつのなしを使って「情報を、流させる」という方針に転換。確かな実力を備えてから決起するのでなく、叛軍の存在を臭わせることで足元から帝国の支配を揺るがそうという考えだった。まだちいさな芽のうちに潰される危険性も無いではないけれど、いずれにしても物資が奪われたという事実は絶対に伝わってしまうのだからあながち悪い選択でもなさそう。重要なのは誰がやったか、そしてどこで襲われたかというのを確定させないこと。
 結果、輸送隊の御者は目隠しなどをさせて襲撃地点から離れたところで解放することに。そして現地の生まれであった護衛の兵は、いっそのことと腹を打ち明けて叛軍に取り込んでしまうことになった。反発されたらそのときはやむを得ないだろうけれども、幸い反対の声は全くといっていいほどなかった。それどころか両手もろてをあげて荷車の解体──つまりは証拠隠滅に手を貸す始末で、やっぱり支配者への反感は大きいのだろうと思う。背景にいるのがつのつきというのは知らせていないから、無用な葛藤を与えてしまうこともない。
 もちろん、物資は持てるだけのありったけのものを抱えて撤収する。殺してしまった馬の肉もきちんと回収しておいしくいただく。食糧や水はいわずもがな、武具のほかにあの長い筒──"笛"もしっかりと物資の中に含まれていた。隠密行動を是とするつのつきにとっては宝の持ち腐れもいいところだけれど、つのなしたちにとってはその限りではない。弓よりもかなり命中精度に劣るというのは難だけれども、逆にいえば、弓ほど年月をかけて訓練をせずとも"真っ直ぐに弾を撃つ"くらいならすぐにできるようになる。長い時間をかけてやるわけにはいかない叛軍に、この存在はとても大きい。極端な話ではあるけれど、例えば村の農民みんなに"笛"を持たせて並べたら、それだけで即席の兵力ができあがってしまうという代物なのだから。
 ともあれ、今の段階では配るのは"笛"ではなくて、もっとみんなに必要とされているもの──食料だ。きつい税の取り立てで蓄えも無きに等しいちいさな村に、それなりの軍を保つための食料というのはほとんど天の恵みみたいなもの。つのなしの数がそう多くないだけにそれは蓄えをつくるのに十分な量で、ひょっとしたら一年くらいは持たせられるかもしれなかった。各地からかき集められて輸送されるところだった物資なのだから、それもさして不思議なことではない。
 村のつのなしたちは大いに喜び、感謝もしてくれたものだけれど、同時に言い知れない疑念を覚えもしたみたいだった。当たり前といえば当たり前だった。疑問を覚えないほうがどうかしている。叛軍のみんなは「不当に簒奪されたものが神の手によって取り戻されたのだ」と仰々しく──というかめちゃくちゃ無理やりに誤魔化したのだけれど、はっきりいって怪しすぎた。出所不明の大量の食料なんて、それこそどこかから掻っ払ってきたとしか思えないだろう。しかも合ってる。かといってどこにそんな蓄えがあるのかという話にもなるし、すぐに思い当たることのできるつのなしはいなかったみたいだった。今はそれでいい、と叛軍のみんなは静観の構え。一方で輸送隊への襲撃は全く大人しくもしないで続けた。届くはずの物資が一向に要塞まで届かないのだから回を重ねるたびに護衛のつのなしは増えていたけれど、そのたびにつのつき・つのなしの混成部隊もまた様々に一計を案じた。というより、襲撃への対策を練らせないために初回は単純なやり方──つまりは手抜きでやったかのようだった。
 手始めに輸送経路上に細工をほどこす。簡単なのは穴を掘って道をでこぼこにしておくことで、それだけで荷車が引っかかって進めなくなることもしばしばある。派手にやるなら道を塞ぐように木を倒しておくのもいい。倒木の除去作業をしている輸送部隊は無防備この上ないので的も同然だった。輸送経路を変えてくる時期と見て周辺の街道にまでも気を配り、決して逃さないように襲撃をかける。そのころには"笛"もある程度の数が揃っていたから、部隊のつのなしたちがそれらを一斉に叩けば馬はたいてい雷鳴のような轟音に驚いてだめになった。"笛"は連射が効かないけれど、作戦の成否はほとんど一手目で決まるようなものなのだから一発だけでも十二分。暴れ馬への対応に意識が割かれた兵たちは更なる追撃にとても脆く、一突きしてやれば大抵はあっという間に潰走してしまう。
 またある時には、物資を分散しての輸送が行われることもあった。叛軍はそのうちひとつの輸送隊に集中することでこれに対応。それは根拠地の村から一番離れた街道を通る輸送隊だった。向こう側の誘い出しに乗ってやるわけはないということ。あいにく要塞には無事に物資が届いてしまうわけだけれど、それはそれで短角のつのつきたちはよしとした。要塞が完全に機能不全に陥ってしまったら、戦果が大きすぎて目を付けられる可能性も高くなるということ。無闇に相手の優先順位を上げさせるのは避けたかったみたい。
 数回に渡って情報網や罠を駆使した略奪を行ったものの、この活動は次第に縮小せざるをえなくなる。輸送隊につけられる護衛があからさまに増え、とてもではないけれど被害を出さずに物資を奪える相手ではなくなったからだ。例え策を練って打ち破ったとしても完全につのなしたちの口を封じることは難しくなるだろうし、そうなれば叛軍の討伐が実行される可能性はかなり高くなる。もともと危険を侵していることに変わりはないけれど、無茶はしないのにこしたことはなかった。
 幸いにしてこれ以上の略奪を繰り返さずとも、すでに地盤を固められる程度の物資はしっかりと集まっていた。食料しかり、建材しかり、装備もまたしかり。さすがに不要な物資を売っぱらったりといった大掛かりなことはできないけれど、食料や薬は必要十分な量を拠点の村にしっかりと施していく。今や村内のつのなしたちは見違えるほどに回復していて、以前は女子どもさえ食べるものに困っていたなんて想像さえもできないほど。とはいえ、それは今はこの村だけのことだ。いずれはこういう状況をつのなしの領地全体に広げていかなければならない。そのための足がかりは、確実に出来上がり始めていた。
 まずはじめの兆候は、物資の出所を怪しむものが出始めたときのこと。病気がちなために兵に取られなかった若いつのなしは、小隊のつのなしを訪ねて問い質しにきたのである。「どうやったかは知らないが、あれらは、軍から盗んできたものなのではないか」と。それを死角から聞いていた短角のつのつきは彼を消してしまったものか考えていたようだけれど、その心配は無用だった。彼はつのなしに尋ねる恰好を取ってはいるけれどすでに確信してもいて、つのなしたちの所業を咎めるつもりもまたなかったからだ。それどころか、若きつのなしは彼らを心配してさえいた。病みと餓えが蔓延する村の様子を憂えて、危険な盗賊行為に踏み切らせてしまったのではないか、と。
 元より軍に被害を与えるためにやったのだから若いつのなしの解釈ははなはだ誤解もいいところだったけれど、早合点してくれるのは決して悪い話でもない。叛軍のつのなしたちは別段否定することもなく、ただ口止めだけをしたうえで尋ね返した。「無理強いはしないが、俺たちは、力になってくれるものを求めている」そういうことが相次いで、村はいつしか叛軍の根拠地という様相を呈するようになった。大きくなることは同時に帝国の目につく危険性が高まることでもある。けれども輸送隊を神出鬼没に襲撃した彼らは地理的な所在地が特定されておらず、割り出されてしまうのにまだ猶予はある。おまけに、略奪を受けたせいで輸送していた物資がまるごと無くなったのも問題になった。損失はどこかで埋め合わせをしなければいけないから、帝国はさらに税を釣り上げる。各地で不満の声があがるものの、領地のつのなしたちに反抗できるような兵力は全くない。くすぶる反帝国の感情は燃え上がらないまま、その火種を無理やりに抑えつけられて静かになる。それでも、表面化で反感が高まっているのは誰が見たって明らかだった。帝国側とて問題の責を"略奪を繰り返す逆賊の叛徒"に押し付けてはいるものの、宣伝効果はかんばしいとはとてもではないけれど言えない。反感を買っているのは今回限りのことではなく前々から積もり積もっているのだから、今さらちょっと釈明したって話を聞いてくれるわけもなく。第一、そんなことを言うのは略奪者にまともに対応ができていない現状をさらけ出すようなものだった。
 やがて収穫の時期を迎えるも、そのほとんどが厳しい取り立ててで持っていかれてしまうような事態が各領地で相次いで起こる。失われた物資をまかなうためだけならばまだしも、領地を治める領主が中抜きするぶんも含めてまるっきり取られてしまうような有り様なのである。それでも豊作だった村などはまだいいけれども、そうでなかった土地は口では言い表せないくらい悲惨だった。どんな理屈を抜きにしたって、ごはんがなければつのなしは生きていけない。どこを探し回ったってごはんが見つかるわけはないし、でなければどこかで畑を耕す以外の仕事を見つけるしかない。山菜摘みに終始するか、冬になるまで狩りに精を出すか、あるいは──持っているものから奪うため、無謀な山賊行為に身をやつすつのなしが出始める。領内の治安が急速に悪化する。そうなれば、要塞の兵が出張るか出張らないかという話にもなってくる。徴兵されたつのなしに山賊に扮する同郷のつのなしを討伐するよう命令が下される、そんな地獄がいともたやすく広がりかねない情勢だった。
 帝国に属する軍は、それ相応に規模が大きい。となれば任務が末端に降りてくるのにも時間がかかる。そんな彼らに先んじて叛軍のつのなしたちが動き出すのは、なんら難しいことではない。
 それも、馬鹿正直に逆賊としての活動を始めたのではない。彼らは領内の自治団として名乗りをあげた。領地内の治安回復を目指して賊徒を取り締まるという大儀をかかげた、この上なくわかりやすい行動規範。構成員は現地のつのなしのみならず、各地から集まった食い詰めものなんかも少なくはなく、端的にいって混沌としている。それでも人数ばかりはしっかりと揃っていたから、賊徒と化した各地のつのなしは着実に駆逐されていく。帝国麾下の軍隊からしてみればほとんどお株を奪われたような恰好だけれど、兵たちを動かさずに済んだのは都合のいいことだったに違いない。実のところ山賊化したつのなしは殺されたわけではなく、"叛軍"の一員として自治団に取り込まれていたのだけれど。
 つまりは情勢不安に乗じ、自治的な鎮圧行為に欺瞞したあからさまな戦力増強。そこにまで思い至ったつのなしがいたのかは定かではないけれど、軍以外にそんな兵力が遊ばされているというのやっぱり問題だったのだろう。そんな大勢を養える食料が一体どこにあるのか、どこから出ているのかという問題にもなってくる。
 そんな疑いの目を向けられれば、かつて散々に領内を暴れまわった略奪団と結びつけて考えるつのなしが現れるのも時間の問題だろう。ゆえに、つのなしの小隊長は──自治団団長にして、また叛軍の長でもあるひとりのつのなしは、堂々たる不可逆の行動に出た。
 ちいさな村の外れ、ひそかに潜伏していた百をゆうにこえるつのなしたち。彼らは長のつのなしの命令一下で作戦を開始、村内を我が物顔で縦断して領主の屋敷を襲撃する。止める村民はひとりとしていなかった──彼らはみな、この襲撃のことを昨夜のうちに知らされている。村に被害は出されないとわかっているから、騒ぎを完全に黙認しているのだった。
 この村の一帯を統括する領主はいわば帝国の使いっ走りで、上に頭を下げながら下々から吸い上げることには余念がないというたぐいのつのなしだった。足元の村内では叛乱の兆候があちこちからうかがえたものだけれど、それをことごとく見逃したのは彼がひとえに民を顧みなかったこともあろう。本来見張りの役目を果たす彼の息がかかった地方官吏は、とっくのとうにつのなしに懐柔されている。ちっぽけな村のことと侮ったのが運の尽きで、かのつのなしはまんまと足元を掬われることになった。
 よそもののごろつきさえかき集めたような叛軍は、しかし作戦行動時もひどく整然として列を乱すようなことがない。訓練の賜物などでは決してない。それはいわば、帝国憎しで一致団結した一体感が彼らを一個の集合体めいて動かしているかのように。彼らはあくまでつのなしだというのに、それはさながらつのつきの張り巡らせた"網の目"の影響下にあるのではないと錯覚するほど
 正面から押し入れられた領主の屋敷は瞬く間に数の暴力によって制圧、占領される。本来そんな大規模な叛乱が起こるはずの地域ではないのだから、あらかじめ置かれていた防衛の兵力などなんの問題にもならない。囚われた衛士はふたつにひとつを選ぶことになる。つまりは服従か死か。
 けれども、領主のつのなしに選択肢が与えられることはない。そのつのなしは現地の民ではあったけれども、そんなことは関係なく問答無用で処刑が決まった。彼は村の真ん中で火にかけられ、死体は三日三晩晒されて鳥がついばむままに捨て置かれることになる。捧げられたむくろを贄に、みなを率いるつのなしは拳を握る。かつてを思わせる力強さといかめしさで、けれども以前からは考えられないくらいの熱量をもって。
「我々は、我々を不条理に苛み、苦しめ、不当な簒奪を行う支配者に抗うものだ。道無き圧政のもとに民を踏みつけにする帝国に牙を剥くものだ! 我々は、彼奴らの支配に甘んじることは、断じてない! 我々は、"国土解放軍"の樹立を、いまここに宣言する!」
 それこそは、つのつきたちにとり、目下の目的とされていた帝国領内での叛乱──計略の第一段階が、まさに産声を上げた瞬間だった。

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