月ふる夜と光とぶ朝のあいだで

些稚絃羽

3.月のカケラ

レオンがラビーを助けたのはきまぐれではありませんでした。とてもやさしいライオンなのです。
本当はいつも森に迷い込む動物たちを助けたいと思っていました。
けれど、レオンはライオンです。みんなレオンを見るとにげてしまいます。
そして他の動物たちに食べられてしまうのです。レオンはそれが悲しくてたまりませんでした。
ねぐらにラビーのすがたを見た時、本当は少しドキドキしていました。またこわがられると思ったからです。
だからこわがらないラビーを見て、このうさぎを助けてあげたい、と思ったのです。

レオンは歩きながら考えています。
レオンは森で一番強い動物です。だれにも負けたことがありません。
でももう少しおそくなると、オオカミが出てきます。オオカミはうさぎのような小さな動物たちが好物です。においで気付いてしまうでしょう。
たくさんのオオカミが出てきた時、この小さなうさぎを守ってやるのはむずかしいかもしれない、と思います。
できるだけ早く山に帰らせてあげなくてはいけません。

レオンが考えている時、
「ねぇ、今日のお月さまはどうしちゃったのかな?」
とラビーののんきな声が聞こえました。
ラビーはレオンと比べてとても小さいので、その声はとても小さく聞こえます。
ですが他の動物たちにも聞こえにくいので安心です。
「真ん丸じゃないの。半分、どこかに落としちゃったのかな?」
ラビーは本当にしんぱいしています。
レオンはどう答えたらいいか分かりません。そのことをふしぎに思ったことがないからです。
月は丸くなったり細くなったりするのだと教えても、分かってもらえるでしょうか。

その時、ハラハラと白く小さなつぶが空から落ちてきました。
レオンはそれが雪だとすぐに分かりました。

ラビーは雪を知りませんでした。この山と森では雪は夜にふるもので、夜にはお家から出ないように言われているからです。
その白いつぶを見ていると、ラビーの手に1つ、落ちました。
「冷たいっ!」

レオンは思いつきました。
「これは月のカケラだ。月のカケラが落ちてきたから月が半分だったんだ。」
うそは悪いことですが、レオンはラビーを楽しませてあげたいと思いました。
「これが、お月さまのカケラ?」
ラビーの声に、うそがばれたかなと少しさみしくなります。

「すごい、すごい!初めて見た!お母さんに教えてあげなきゃ!」
ラビーはとても喜びました。月のカケラにさわったと思っているからです。
レオンは母親に言われたらばれてしまうなと思いましたが、ラビーを喜ばせられたのがうれしくもありました。

キャッキャと雪をつかまえようと背中ではねるラビーの声を聞きながら進んでいると、何やら音が聞こえてきます。
それはよく聞く、おなかを空かせた動物のあらい息の音です。
「静かに!」
レオンが低い声でラビーに言います。
ラビーはおどろいて両手で口をふさぎます。でもレオンの背中から落ちそうになって、今度はあわててたてがみをにぎり直しました。

「何か、いるの?」
こわくなって小さな声でレオンに聞きます。
「オオカミだ。おまえのにおいに気付いたんだろう。」
レオンの言うことにラビーはもっとこわくなります。見つかってしまえばレオンまであぶないかもしれません。どうすればいいのか、ラビーには分かりませんでした。

「おい。耳をかくせ。それでおれのたてがみの中に丸まっていろ。」
ラビーはレオンに言われた通り、両手で長い耳をおさえつけてレオンのたてがみの中にかくれました。
ラビーの赤茶色の毛は、夜の金色のたてがみに上手にまぎれています。
「それから、何があっても声を出すなよ。」
ラビーはレオンから見えていないのに、何度もうなずきました。たてがみの中はレオンのけもののような、それでも安心するにおいがしました。

レオンは止まることなく歩きつづけます。オオカミが気付く前に森を出たいと思うからです。
するとレオンの行く先。真っ黒な木の向こうから、ガサガサと音がします。
仕方なく、レオンは立ち止まりました。
いくつかの光る目がレオンの前に出てきました。

 

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