月ふる夜と光とぶ朝のあいだで

些稚絃羽

2.大きなライオン

「お前……うさぎか?」
その声が話す度、ラビーの体の毛がさわさわとゆれます。
ラビーにはもう、どうすることもできません。
まだ小さなラビーでも、自分が食べられてしまうことは分かります。
心の中でお父さんとお母さんに、悪い子だったことをあやまるとゆっくりとふり返りました。

そこにいたのは、ラビーが30羽いても足りないくらいに大きな大きなライオンでした。
ラビーはライオンを初めて見ました。
お父さんがかいてくれたライオンの絵は、もっと目がつり上がっていて、もっとたてがみがギザギザしていました。
でも今目の前にいる本当のライオンは、月の光に照らされて金色のたてがみがキラキラしています。風が吹いてフワフワとゆれています。
ラビーの顔くらいある目はよく見ると真ん丸です。
ラビーはそのライオンをきれいだと思いました。そしてかっこいいとも思いました。

「どうしてここにいる。」
ライオンがこわい声で言いました。
「山を歩いていたら道に迷ったの。」
ラビーははっきりと答えました。
ライオンはラビーがこわがっていないのに気が付いて、へんなうさぎだなと思いました。
「もうすぐ森のやつらが動き出す。そうしたら食われてしまうぞ。」

「ライオンさんは食べないの?」
ラビーはたずねました。山のみんなからは、ライオンが一番こわいと聞いていたからです。
すぐにでも食べられてしまうと思ったのに、ライオンはそうしません。それがふしぎでした。

ライオンは答えません。ただくるりと後ろを向いて、
「行くぞ。」
とラビーに声をかけました。
「どこへ?」
とラビーがたずねると、
「山へ帰るんだろう?」
ライオンは少しふり返って答えました。

ラビーは山に帰れることがうれしくて、ライオンの後ろをちょこちょこと付いていきます。
その時、『だれかに助けてもらう時はまずお礼と名前を言いなさい』と、お母さんに言われていたのを思い出しました。
「ライオンさん、ありがとう!わたしの名前は、」
「待て。」
お礼を言って、名前を言おうとしたら、ライオンに止められてしまいます。
「この森で、名前を言ってはいけない。」
そのことはお母さんから教えられていません。
「どうして?」
「だれかが名前を聞いて、おまえを食うためにだまそうとするかもしれん。」
小さなラビーにはよく分かりませんでした。
「いいか。本当なら森に入った時に食われていたかもしれないんだ。
 森にいるあいだは他のやつに気付かれないようにしろ。」

何となくラビーにも分かりました。名前を言うと食べられてしまうのでしょう。
それはいやなので、ラビーは名前を言わないことにしました。
「ライオンさんのお名前も聞いてはだめなの?」
ライオンの名前を知りたいと思いました。
ライオンは少し考えてから教えてくれました。
「おれは、レオンだ。」
ラビーはその名前がピッタリだと思いました。

するとレオンが急にねころがります。
「乗れ。」
ラビーはレオンが背中に乗るように言っていることに気が付いて、わくわくしながらピョンととび乗りました。
レオンが立ち上がると、ふり落とされれてしまいそうなほど大きくゆれます。
ラビーはレオンのたてがみをギュッとつかんで、落ちないようにふんばりました。
それからレオンはのそのそと歩き始めました。

 

「童話」の人気作品

コメント

コメントを書く