天女×天姫×天使…天華統一

ハタケシロ

第28話 自爆

「もうそろそろで敵領地に入るぞ大和。準備はよいか?」

「当たり前だろ?それよか、アマは大丈夫か?緊張でトイレ行きたくないか?」

「それが……実はですね?すこーしだけ、行きたいなーと」

「よし、準備万端だな。野郎共行くぞー!」

「「おおっー!!」」

「ちょっと大和さまー!!漏れちゃう!!漏れちゃう!!」

なんで城出る前に行っといたのにもう出るんだよ。
頻尿か?その歳で可愛そうに。
つか、アマがこんな感じだからこちとら緊張なんてしなくて助かるな。こういう点はアマのお陰だな。

それにしても、

「大和さまー!!漏れる!!漏れるー!!」

うぜー!!
すげーうぜー!!
これから敵国に侵攻するってのに、なんなんだこのダメ天女は!!
少しは緊張感持てよ!!

「分かった。早く済ましてこい!」

「はい!!」

どうして俺は異世界に来てまで美少女のいや、美天女の青空トイレを待つということをしているのだろう。


「あの……お兄ちゃん」

ドクンっ
お兄ちゃん……。
こう呼ばれたいと俺は何年思っていたか……。
俺の中の何かが弾けた気がした。
お兄ちゃん。それは素晴らしい響きだ。
俺を含めた世の男どものハートを鷲掴みにする魔法の言葉。
そんな言葉を、こんな小さな可愛い女の子に言われるなんて俺はなんて幸運者なのか。

ただ、

「どうした?迷い子か?」

心配したパールが迷い子と思われる少女に話しかける。
見た目の目つきの鋭さからは想像ができない優しさだ。
ただその優しさは迷い子に対しての純粋な優しさではない。
俺と同じくこう思っているのだろう。

その首の首輪はどうした?と。

「ぅう……ぇっ」

パールの言葉に感化されたのか、少女は泣き始めた。
そして、小さな足でゆっくりと俺に近づき、抱きつくと、

「お兄ちゃん……ごめんね」

と、言っ

「大和ー!逃げろー!!」

「え?」

瞬間、少女に付けられていた首輪が光輝き始めーー爆発した。



「やはり、あの首輪爆弾の威力、爆発した時の光は綺麗ですね」

双眼鏡から覗き込んでいる目は爛々とし、口は楽しそうに歪んでいる。
ルシファーは、今、1人の少女の命を使って攻撃したのだった。

「3位、いえ、元3位のパールヴァティーを狙えと言ったのですが、あの目付きに怖気つきましたか。あのご武人は可哀想に。まぁいいでしょう。捨て駒はまだ沢山あります」

不敵にルシファーは笑った。



被害は甚大だった。
少女1人を使った自爆攻撃。
近距離にいたパールは、モロにその自爆攻撃を受けてはないとはいえ、爆風に煽られた勢いで怪我を負った。
それに、この大国攻略戦のために連れてきた一般兵たちも10数人の犠牲を出した。

1人の少女。いや、人間を使っての攻撃でこれだけの被害。作戦的には皮肉にも上々だった。

爆風によって土煙が舞う中、パールは自身の怪我の具合よりま、主君である大和の安否を心配していた。

「大和!大和ー!!」

さすがの大和とはいえ、あの至近距離での自爆攻撃。
ただでは済まないとパールは最悪の事態も想像していた。

「なにが、何があったんですが!?」

茂みに隠れ、用を済ましていたアマはかろうじて自爆攻撃の被害を受けておらず、状況が分からないまま困惑していた。

「これは……酷い……」

見渡せば、横たわる兵士たち。
すでに亡くなっている者もいる。
さらに、視線を動かすとその視線の先にパールをアマは捉えた。

「だ、大丈夫ですか!?パールさん!」

「あ、あぁ。我は大丈夫だ。それより大和が」

パールが指さす方向を見る。
土煙が舞っていて、その姿ははっきりとは見えないが、確かにそこに大和が居た。

「や、大和さまー!!」



ポタポタと、頬に水滴が当たる。

目を開けると、涙を流しているアマの顔が見えた。

「や、大和さま…」

「おいアマ。そんな声出すなよ。お前らしくないぞ?」

「だってぇ、だってぇ!」

体が痛い。というか熱い。
当たり前か、あんな至近距離で自爆されたんだから。


……俺は生まれて初めて間近で、人の死を体験した。

「待っててください大和さま!今治しますから!」

俺の身体はゲームデータの身体とは言え、それは戦闘向きの身体になったにすぎない。刀を扱える筋肉、ある程度の攻撃を受けても倒れない撃たれ強さ。つまりは、多少の攻撃には耐えられても治すことはできない。治癒能力は、今まで通りの俺だ。

そんなボロボロの身体の俺をアマは治すという。

半信半疑だったが、アマは俺に手を置くと、その両手を輝かせた。
すごく心地いい。アマの両手からなにか不思議な力が俺に注がれてるみたいだ。

「これで、治ったと思いますけど、どうですか?」

起き上がり体の感触を確かめてみる。
いつも通り、俺の身体は言うことを聞いてくれた。

「すごいな……」

まさか、ここまで完璧に傷を癒せるなんて。
まさかアマは本当はすごいやつじゃないのか?

「えへへ。戦闘は弱っちいですけど、これくらいなら」

ハニカムアマは、どこか誇らしげだ。

「パールと、それとほかの兵も治せるやつは治してくれ。できるか?」

「任せてください!」

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品