俺の嫁はデレない異世界のお姫様
第16話すぐ側に
たった一晩で大切なものを失った私は、それ以降部屋に引きもり続ける毎日が続いた。現実逃避のためと聞かれたら、恐らくそうだと答えると思う。あんな悲惨な光景を目の当たりにして、外に出たいとすら思えない。目を閉じるとあの光景が何度も蘇り、死にたいと思うことも何度もあった。
それでも、折角の命を投げ捨てることなんてできなかった。私は何もかも全てから逃げ、こののまま一生引き籠もり続けようとさえ思っていた。
そんな生活が終わりを告げたのは、あの事件から三年が経った頃、丁度去年の事である。
「ココネ様、起きてください」
「何よセレス、私の部屋に勝手に入ってこないで!」
「ココネ様がいつまでも引き籠もりを続けてるから悪いんですよ!」
「何よ私はもう外に出ないって決めたの! だから放っておいて」
「もう放っておく事なんてできません!」
「っ!」
きっかけをくれたのは、こんな私を見放さずにずっと支えてくれてきたセレスだった。
「わたくしはいつまでもそうやって、現実から逃げているココネ様を見ていられません。あなたは本当は国を一番に想うとても優しい方だって、この城に仕えている者は皆知っています。両親を亡くしてすぐに姫になられたというのに、ココネ様は弱音を吐かず仕事をしてきた姿を私たちは忘れていません」
「違う……。私は本当はお父さんとお母さんの死を受け入れられていなかった。でも折角二人が築き続けてきてくれたものを、壊すことができなくて我慢しながらここまでやってきた。だから……私なんか強くないのよ!」
お父さんとお母さんが亡くなってから私は、とりあえず国を守ろうと努力していた。内心自分も死んでしまえばいいと思っていたし、それにやっぱりもう一度だけ会いたいという気持ちだけはずっと消えなかった。
だから私は強くなんかない。本当は姫になる資格なんてなかったんだ……。
「それに私は国をこんな姿にしてしまった。だからもう、私には姫でいる資格なんてどこにもない。疫病神なんなり呼んでくれて構わない。それが私の罪なんだから」
今頃私は国どころか、世界から恨まれているに違いない。だから何とだって呼ばれても構わない。もう私は、一人の人間としての価値を失っているのだから。
「自分勝手な行動をした結果があんな結末を生み出したんだから、誰も私を受け入れてくれないし、誰も私を姫なんて思わない。だからもう……放っておいてセレス」
あんな辛い思いをしてまで、再びあの場に立つ権利なんて私にはない。どうせこの国は直に滅びるだろうし、もう私に居場所なんてない。だからもう一人にしてほしい。
「だったらもう一度、国を作り直せばいいじゃないですか」
でもそんな私に対して、セレスは何故か前向きだった。国をもう一度作り直す? そんな馬鹿なことを誰がするものか。
「何でまた作り直さなきゃいけないのよ。私はたった今姫である権利を放棄した。だからもう、関係ないのよ」
「そんな事はありません。お二人の子供であり王家の血を継ぐものです。そのあなたが関係ないだなんて言わないでください」
「そんな事言ったって、私にはもうこの国で生きる資格なんてない! 私はもう……一生償えない罪を抱え続ける最低な人間なの……だから……」
無償に涙が止まらなくなってくる。私は沢山の人を殺してしまった。しかも自分勝手な都合で……。そんな人間が姫でいていいわけがない。だから私は……。
「だったらその罪を私達も背負います。それでこの問題は解決です」
「そんなので罪は償えると思わないで! この罪は私だけが抱えればいいの。だからもう一人にしてよセレスゥ……」
それはもはや訴えなっていた。こんなにも自分と向き合ってくれる人が、すぐ側にいることがとても辛くて、悲しくて……。
「私はどんな時でもココネ様の味方です。ですから、一緒に国を再建させましょ。それがあなたにできるせめてもの罪の償い方です」
いくら私が突き放してもセレスは強かった。こんなにも私は心が弱いのに、彼は強かった。だから私も……。
「そんなので罪が償えるの……?」
だから私も、もっと強くなりたいと思った。
「はい。きっと償えます。ですから頑張りましょう」
「うぅ、えっぐ、うん……」
この日私は久しぶりに泣いた。本当は沢山泣きたいことがあったけど、ずっと溜めてきた。それがこの時爆発して沢山の涙へと変わっていった。その涙は悲しみの涙でもあり、決意の涙でもあった。
この国をもう一度作り上げるといいう決意。
そしてもっと強い人間でいようという決意。
この日、ナルカディアは新しい一歩を踏み出した。
■□■□■□■□
涙を流しながら語られた俺の知らないココネが抱えている過去、そして罪。それは俺の想像をはるかに越えるものであり、全てを話終えたあとしばらく言葉が浮かんでこなかった。
「これは後から聞いた話なんだけど、その事件の被害は隣国以上に広まったらしくて、全ての源である私はかなりの数の人間に恨みを買われるようになったんだって……。だから……疫病神って呼ばれても仕方ないの……」
確かにここまで話を聞けば、男性が彼女を疫病神と呼んだのか納得できる。彼女のせいで大きな災害をもたらすことになり、それが今でも続いているなら、そう呼ばれても仕方がない。
「ここまで聞いてくれてありがとう。あんたには少しでもこの話を知ってもらいたかったから長くなったけど、失望しちゃったわよね……」
こんな話を聞かされたら誰しもが失望し、彼女の元から離れていくだろう。疫病神の元についたらいい事なんて起きやしないと。
けど俺の中に生まれた感情は違った。
失望? そんなのはしない。俺と大して年齢が変わらない(ように見える)彼女が、こんなにも大きなものを抱えている、それはどうあがいても償えない罪。それに対して俺は、どうしてやればいいのだろう。
(そんなもの、答えは決まっているか)
「なあココネ」
「何よ……。どうせさっさと帰りたいって言い出すんでしょ?何度も言うけどそれは……」
「その罪、俺にも背負わさせてくれないか?」
「え……?」
 考えるよりも先に俺は、言葉が出ていた。それ以外に方法なんて浮かばなかったし、仮にも俺は彼女と結婚させられる立場だ。それくらいは背負わさせてもらいたい。
「その罪がどれだけ大きいものなのか、全然想像がつかない。けど、それを背負うことくらい俺にはできる」
「赤の他人のあんたに……そんな事できるはずがない……。あくまでこの罪は、私達が背負うだけでいいの。だからあんたには全く関係ないの」
「そうか? 俺には関係なくない話だと思うんだけど」
「どうして……そんな事が言えるのよ」
「うーん、何でだろうな」
 この国の王という理由以外に別の感情が俺の中では動いている気がする。それは海で彼女を庇った時にも生まれた感情だ。果たしてこれは一体どんな感情なんだろうか? とりあえずその感情をそのまま口に出してみる。
「多分お前の事が好きだからじゃね?」
「ふえ?」
「あ……」
 その感情は、爆弾発言に変わってしまった。
あー言葉って怖い。
それでも、折角の命を投げ捨てることなんてできなかった。私は何もかも全てから逃げ、こののまま一生引き籠もり続けようとさえ思っていた。
そんな生活が終わりを告げたのは、あの事件から三年が経った頃、丁度去年の事である。
「ココネ様、起きてください」
「何よセレス、私の部屋に勝手に入ってこないで!」
「ココネ様がいつまでも引き籠もりを続けてるから悪いんですよ!」
「何よ私はもう外に出ないって決めたの! だから放っておいて」
「もう放っておく事なんてできません!」
「っ!」
きっかけをくれたのは、こんな私を見放さずにずっと支えてくれてきたセレスだった。
「わたくしはいつまでもそうやって、現実から逃げているココネ様を見ていられません。あなたは本当は国を一番に想うとても優しい方だって、この城に仕えている者は皆知っています。両親を亡くしてすぐに姫になられたというのに、ココネ様は弱音を吐かず仕事をしてきた姿を私たちは忘れていません」
「違う……。私は本当はお父さんとお母さんの死を受け入れられていなかった。でも折角二人が築き続けてきてくれたものを、壊すことができなくて我慢しながらここまでやってきた。だから……私なんか強くないのよ!」
お父さんとお母さんが亡くなってから私は、とりあえず国を守ろうと努力していた。内心自分も死んでしまえばいいと思っていたし、それにやっぱりもう一度だけ会いたいという気持ちだけはずっと消えなかった。
だから私は強くなんかない。本当は姫になる資格なんてなかったんだ……。
「それに私は国をこんな姿にしてしまった。だからもう、私には姫でいる資格なんてどこにもない。疫病神なんなり呼んでくれて構わない。それが私の罪なんだから」
今頃私は国どころか、世界から恨まれているに違いない。だから何とだって呼ばれても構わない。もう私は、一人の人間としての価値を失っているのだから。
「自分勝手な行動をした結果があんな結末を生み出したんだから、誰も私を受け入れてくれないし、誰も私を姫なんて思わない。だからもう……放っておいてセレス」
あんな辛い思いをしてまで、再びあの場に立つ権利なんて私にはない。どうせこの国は直に滅びるだろうし、もう私に居場所なんてない。だからもう一人にしてほしい。
「だったらもう一度、国を作り直せばいいじゃないですか」
でもそんな私に対して、セレスは何故か前向きだった。国をもう一度作り直す? そんな馬鹿なことを誰がするものか。
「何でまた作り直さなきゃいけないのよ。私はたった今姫である権利を放棄した。だからもう、関係ないのよ」
「そんな事はありません。お二人の子供であり王家の血を継ぐものです。そのあなたが関係ないだなんて言わないでください」
「そんな事言ったって、私にはもうこの国で生きる資格なんてない! 私はもう……一生償えない罪を抱え続ける最低な人間なの……だから……」
無償に涙が止まらなくなってくる。私は沢山の人を殺してしまった。しかも自分勝手な都合で……。そんな人間が姫でいていいわけがない。だから私は……。
「だったらその罪を私達も背負います。それでこの問題は解決です」
「そんなので罪は償えると思わないで! この罪は私だけが抱えればいいの。だからもう一人にしてよセレスゥ……」
それはもはや訴えなっていた。こんなにも自分と向き合ってくれる人が、すぐ側にいることがとても辛くて、悲しくて……。
「私はどんな時でもココネ様の味方です。ですから、一緒に国を再建させましょ。それがあなたにできるせめてもの罪の償い方です」
いくら私が突き放してもセレスは強かった。こんなにも私は心が弱いのに、彼は強かった。だから私も……。
「そんなので罪が償えるの……?」
だから私も、もっと強くなりたいと思った。
「はい。きっと償えます。ですから頑張りましょう」
「うぅ、えっぐ、うん……」
この日私は久しぶりに泣いた。本当は沢山泣きたいことがあったけど、ずっと溜めてきた。それがこの時爆発して沢山の涙へと変わっていった。その涙は悲しみの涙でもあり、決意の涙でもあった。
この国をもう一度作り上げるといいう決意。
そしてもっと強い人間でいようという決意。
この日、ナルカディアは新しい一歩を踏み出した。
■□■□■□■□
涙を流しながら語られた俺の知らないココネが抱えている過去、そして罪。それは俺の想像をはるかに越えるものであり、全てを話終えたあとしばらく言葉が浮かんでこなかった。
「これは後から聞いた話なんだけど、その事件の被害は隣国以上に広まったらしくて、全ての源である私はかなりの数の人間に恨みを買われるようになったんだって……。だから……疫病神って呼ばれても仕方ないの……」
確かにここまで話を聞けば、男性が彼女を疫病神と呼んだのか納得できる。彼女のせいで大きな災害をもたらすことになり、それが今でも続いているなら、そう呼ばれても仕方がない。
「ここまで聞いてくれてありがとう。あんたには少しでもこの話を知ってもらいたかったから長くなったけど、失望しちゃったわよね……」
こんな話を聞かされたら誰しもが失望し、彼女の元から離れていくだろう。疫病神の元についたらいい事なんて起きやしないと。
けど俺の中に生まれた感情は違った。
失望? そんなのはしない。俺と大して年齢が変わらない(ように見える)彼女が、こんなにも大きなものを抱えている、それはどうあがいても償えない罪。それに対して俺は、どうしてやればいいのだろう。
(そんなもの、答えは決まっているか)
「なあココネ」
「何よ……。どうせさっさと帰りたいって言い出すんでしょ?何度も言うけどそれは……」
「その罪、俺にも背負わさせてくれないか?」
「え……?」
 考えるよりも先に俺は、言葉が出ていた。それ以外に方法なんて浮かばなかったし、仮にも俺は彼女と結婚させられる立場だ。それくらいは背負わさせてもらいたい。
「その罪がどれだけ大きいものなのか、全然想像がつかない。けど、それを背負うことくらい俺にはできる」
「赤の他人のあんたに……そんな事できるはずがない……。あくまでこの罪は、私達が背負うだけでいいの。だからあんたには全く関係ないの」
「そうか? 俺には関係なくない話だと思うんだけど」
「どうして……そんな事が言えるのよ」
「うーん、何でだろうな」
 この国の王という理由以外に別の感情が俺の中では動いている気がする。それは海で彼女を庇った時にも生まれた感情だ。果たしてこれは一体どんな感情なんだろうか? とりあえずその感情をそのまま口に出してみる。
「多分お前の事が好きだからじゃね?」
「ふえ?」
「あ……」
 その感情は、爆弾発言に変わってしまった。
あー言葉って怖い。
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