俺の嫁はデレない異世界のお姫様

りょう

第24話最後の月夜

『私も一緒に連れてって』

 由奈の思わぬ提案に俺はどうすればいいか分からなかった。それが彼女意志だというなら、俺は反対しないけど、果たして彼女はあの環境に耐えられるのだろうか? 彼女には優しさがありすぎるあまり、一人で抱え込んでしまう癖がある。だから遠い異世界で何か自分の身に起きたとしても、誰にも相談できずに一人で抱え込んでしまう。更に俺はこれからココネと、多分結婚させられる。彼女の気持ちを知っている俺だから言えるけれど、好きな人が目の前で他のの女性と結婚する姿を見たら、彼女の中の何かが絶対に崩落してしまう。
 そんな環境に彼女を置いておいていいのだろうか? たとえそれが本人の意志だとしても俺は……。

「いよいよ明日ね」

「そうだな」

 結局彼女をここに置いていくか否かで迷い続けた結果、ついに出発前夜になってしまった。今は明日の準備をしているのだが、うきうきしながら準備をしている彼女の姿を見て胸が苦しくなった。

「なあ、本当についてくるのか?」

「何度も言わせないでよ。それが条件なんだし、私だって言ったことは変えないよ」

「お前がその気なら、俺はなんにも言えないけどさ……」

 本当は色々と言いたいことがあるが、それは彼女の自尊心を傷つけかねないので、なるべく遠まわしに色々と聞いてみることにした。

「前にも話したと思うけどさ、俺は多分ココネと政略結婚させられると思うんだけど、それに対してお前はどう思っている?」

「どうって言われても……」

 作業の手を一旦止めて考え込む由奈。やはり彼女の中にも複雑な感情があるんだと想う。だからこうして悩んでいるし、俺もそれに対してはゆっくり待つことにした。

「うーん……別にいいんじゃないかな」

「え?」

 二分後ようやく口を開いた由奈はそんな事を言ったので、俺は思わず驚きの声を上げてしまう。あんな直球に告白してきて、これだけあっさり諦めるだなんて、ちょっと彼女らしくない。

(もしかしてこれも……由奈なりの優しさなのか?)

「本当は私嫌なのかもしれないけど、圭ちゃんの気持ちは絶対あっちに傾いちゃってるから、諦めるしかないと思ったの。情けない話だとは思うけど。もうそれでいいのかなって」

「由奈……」

「でもだからといって、完全に諦めたわけじゃないわよ。私だってあんなお姫様に負けたくないもん」

「負けたくないってお前な……」

 仮とは言え一度縁を結んだら、そんな簡単に元の自分の生活に戻ることなんてできないと思う。それでも彼女は諦めないというのだろうか?

「私を甘く見ては困るわよ。私はどんな時だって圭ちゃんを支える存在なんだから、そんな事で簡単に心が折れたりしないわよ」

「そ、そうか」

 なんかすごく不安なんだけど、本人がそこまで言うならその気持ちを尊重してあげたい。いざ何かあったときは、俺が何とかするしココネ達だってきっと助けてくれる。だから俺は……。

「お前にそこまでの意志があるなら分かったよ。いいよ一緒に来て」

「明日出発なのに、今更断られても困るけど、それならよかった。ありがとう圭ちゃん」

「ああ」

 こうして正式に由奈の同行が決まり、最後まで入念の準備をして俺と由奈はこの世界での最後の夜を迎えることになった。

■□■□■□

 全ての支度を終え、明日は早い時間にここを出るので、早めにベッドに潜り込んだ。だけど勿論眠ることなんてできないので、これまであった事を色々と思い出していると、
「ねえ圭ちゃん、起きてる?」

 俺と同様に眠れないのか由奈が話しかけてきた。

「起きてる」

「私なかなか眠れないから、少しこの状態のままお話しない?」

「いいよ。俺もちょうど寝れずに困ってたところだし」

「ありがとう」

 少しだけ体を起こし、由奈が寝ている布団に視線を向ける。そこには、小さい頃お泊まり会とかした時によく見た懐かしの由奈の顔があった。

「どうしたの? 急に私の顔なんか見て」

「いや、何か気分でお前の顔を見てた」

「気分で私の顔を見ないでよ。す、すごく恥ずかしいでしょ」

「悪い悪い」

 怒られてしまったので再び布団に潜り込み、今度は彼女がいる方向とは真逆の方向に体を向けた。

「ねえ圭ちゃん」

「ん?」

「圭ちゃんは向こうの世界に行ったら最初にやりたい事とかある?」

「うーん、半年間もあっちにいたし、そんなにこれといってやりたい事はないかな」

「国の復興は?」

「それは勿論やるよ。でも他にやりたい事があるって聞かれても、なかなか浮かんでこないな。あそこあまり目玉スポットとかないから面白いことなんてないんだよ」

「確かにあそこまで人がいないなんて私も思っていなかったけど、そんなにひどい状況なの?」

「ああ。ほとんどの人が亡くなっているし、あれだけ寂れた国じゃ人だって来ないからな」

「どうしてそこまでなったの?」

「ん? そういえば話してなかったっけ」

「うん。何か曖昧な言葉で誤魔化された」

「でも今直接話すのもなんだし、今度本人に聞いてみれば? 多分答えてもらえないけど」

「だったら教えてよ」

「だが断る」

「このけちんぼ!」

「痛っ!」

 思いっきり背中を由奈に蹴られる。そんなに近い距離で寝ているわけではないのに、とてつもない衝撃が背中に走った。あいつどれだけ強く蹴ったんだよ。

「やっぱり訂正。お前はどう考えても優しい人間じゃない」

「どうしてそうなるの? 私はこんなにも優しい人間なのに酷い」

「人の背中を思いっきり蹴る優しいやつがどこにいる」

「ここにいるわ」

「嘘つけ!」

 この後俺達は本来の話題を忘れ、どちらかが寝落ちするまでずっと口喧嘩をしていた。どれもくだらないものだったが、決して悪い意味での喧嘩ではなかったので、とても楽しい夜となった。最終的に寝落ちしたのは由奈で、一人になった俺は、窓から見えるこの世界での最後の月を眺めていた。

(今日で最後……か)

 いざ離れるとなるとちょっと寂しいけど、もう後には退けない。俺は自分の選んだ道を突き進む。

「おやすみなさい」

 独り言で俺は最後にそう呟き、ゆっくりと目を閉じ最後の夜を終えた。

 そして、旅立ちの朝がやってくる。この世界との永遠の別れとともに……。

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