俺の嫁はデレない異世界のお姫様

りょう

第25話愛しきこの世界にさようなら

  迎えた旅立ちの日の朝。俺と由奈は早めに起きて軽い朝食を済ませて部屋を出た(部屋の後処理は大家さんに任せたらしい)。この後俺たちが向かう先は勿論全ての始まりとなった俺の部屋。始まりとなった部屋だが、これからの始まりともなる俺の部屋は由奈の家から電車で二十分かかるところにある。
その道中、

「そういえば圭ちゃん、結構重たそうな荷物持っているけど何が入っているの?」

「何って勿論家電用品とか、これから復興に使えそうな物とか色々だよ」

「復興で使えそうなものはなんとなく分かるけど、家電用品の意味が分からないんだけど。だってあそこ電気なんてなかったわよ」

「シャンデリアの光も何か特別なものを使っているらしいな」

「だったら尚更よ。電気が通らないあの世界で、どうやってその家電用品を使うのよ」

「それはあっちに行ってからのお楽しみだ。きっと面白いことになると思うから期待しておけよ」

「圭ちゃんの言うことは信用できないんだけどなぁ……」

「俺どれだけ信用されていなの?!」

 そんなに由奈に対して悪いことをしたっけ俺。

「冗談冗談。圭ちゃんは私を絶対に裏切らないって私知っているから心配しないで。……一度裏切られてるけど」

「やっぱり信用してないだろ!」

 結構傷つくんだぞ、そういう言葉。

「まあそんなくだらない事は置いておいて、この景色を少しくらい楽しもうよ」

 くだらない事じゃないんだけど、どうやら本人はスルーしてしまったので、その提案に俺も外の景色を眺めてみることにした。

(この景色が見れるのも最後か……)

 電車の窓の外に流れる懐かしい風景たち。僅か二十分という移動時間なのに、その時間が俺にとっては濃密で、ちょっとだけ寂しい気持ちにさせるゆな時間だった。間もなく我が家の近くの駅に到着しかけようとしたその時、ずっと景色を眺めていた由奈がこんな事を言ってきた。

「ねえ圭ちゃん、私ね」

「ん?」

「あっちの世界に行っても、看護師になるって夢諦めないことにしたの」

「いいんじゃないのかな。あの国にもそういった施設が必要になってくるだろうし、そういう時にお前の力があれば助かる命があると思う」

「大げさよ。私はあくまで看護師なんだから、そんなたいそれた事は出来ないわよ」

「そうかな。お前ならきっと出来ると思うよ俺は」

「それはお世辞で言ってるの?」

「お世辞じゃなくて本心だよ」

 彼女なら救えなかった命もきっと救えると思う。本人はあまり自身がなさそうだけど、彼女がどれだけ努力しているのか勿論知っている。だからきっと彼女なら……。

『次は……』

 そんな彼女の決意を聞いたところで目的地に到着。

「よし、降りるか」

「うん」

■□■□■□
 俺の住んでいたアパートは、電車を降りてから約五分ぐらい歩いた先にある。その五分の間も、ずっと周りの景色を目に焼き付けながら歩き、気がついたらあの扉の目の前までやってきていた。

「ここか」

「うん」

 なんの変哲もないその扉。半年前までは本当に何ともない俺の部屋への入口は、今は別の世界につながっている。これを開けた先に待っているのは、当然俺の部屋ではなくあの城の中だ。

「いざ目の前まで来ると、すぐに開けづらいな」

「一生の別れだもんね。この世界と」

「ああ」

 目を閉じ、この二十年間の出来事を少しだけ思い出してみる。小さい頃のことなんてほとんど覚えていないが、由奈と奈津美に出会った頃からは、微かにだが記憶に残っている。少し控えめな性格の由奈と、それとは対照的で明るい性格の奈津美の姉妹とは、結構小さい頃からの腐れ縁で、よく三人で遊んでいた。それは高校に入ってからも変わらず、あの事件が起きるまではどこにでもいる幼馴染三人組だった。けど奈津美が亡くなったことによって、由奈は俺に会ってくれなかった。理由は勿論その原因が俺にあって……。

「なあ由奈」

「何?」

「まだ怒っているよなあの事」

「当たり前でしょ。私はまだ圭ちゃんの事許してないからね」

「分かっているよ。でもいつかは償うからなきっと」

「期待しないで待ってる」

「んじゃ、そろそろ開けるか?」

「うん」

 予めココネからこの時間に開けておくと教えてもらっているので、あとは扉を開けばあっちの世界が待っている。半年前は突然の出来事だったけど、今回はお互いちゃんと覚悟をした上でこの扉を開く。だからちゃんと別れを告げておかなければならない、二十年間育てられたこの愛おしき世界に。

(もう戻ってこれないのはちょっと寂しいけど、ありがとう。そしてさようなら)

 心でひっそりとそう呟く。よし、挨拶も済ましたし行くか。

「俺は一応別れの挨拶はしたけど、由奈は大丈夫か?」

「うん。大丈夫」

「じゃあ、行くぞ」

 ドアノブに手をかけ、ゆっくりと回す。そして少しずつその扉を引き、ゆっくりと新世界への扉を開けていく。

(さあ行こう、俺の新しい居場所へ)

 全てを開き終えた先に見えた景色は、半年前にも見た同じ光景。そう、俺がナルカディアにで初めて見た光景だった。

『ようこそナルカディア城へ! 新国王様』

 そこに居たのはたくさんのメイド達と、一人の執事と、この国の姫であるココネだった。

「本当に帰ってきてくれたのね。ケイイチ」

「ああ、ただいま。ココネ」

 俺と由奈とココネの新しい物語が、今ここに始まる。

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