俺の嫁はデレない異世界のお姫様

りょう

第34話食事会への誘い

 俺がこの国の国王に正式になって数日経ち、少し落ち着き始めた頃、国王としての初仕事が舞い込んできた。初仕事といっても、元からそういった類のものをやってきた俺にとっては、特に大きなことではないと思っていた。が、今日はちょっとだけ事情が違った。

「ライドアから招待状?」

「はい。先日国王になられたケイイチ様に大変興味を持たれたらしく、是非とも一度お会いしてお話がしたいという旨の招待状が届きました。内容としてはどうやら、食事会を開かれるらしく、そちらへの招待という事らしいです」

「食事会ねぇ」

 ライドアには少し前にココネと訪れたことがあるが、その時は色々あってまともに回ることができなかった。でも今度は、向こう側からの招待だ。商業の国ならば今後の貿易やらなんやらで、色々と役に立つだろうし、国同士の信頼を作るためにも絶好のチャンスになる。俺は当然行く気になっていたが、

「嫌よ私は」

 当然とでも言うべきか、ココネは行きたくないと主張した。『疫病神』とまで言われて、他国から明らかに嫌われているそんな人達が集まる場所に行きたいわけがない。でもこのままいつまでも避け続けていいものなのだろうか? いつかはぶち当たる壁を、今の内に乗り越えておいたほうが、俺はいいと思うんだけど。

「なあココネ、今回を機にお前も成長してみてもいいんじゃないか?」

「成長って、どこをよ」

「お前があまり人のいる場所に出たくない気持ちはすごく分かるけど、いつまでもそこで立ち止まっていていいのか」

「そ、それは、だって私がいたら皆が疫病神って呼ぶから嫌なだけよ」

「皆誰しもが同じことを言うのか? この前の結婚式じゃ一度もそんな言葉聞いてないぞ」

「言わなくてもそう思っているわよ絶対」

「それはお前が勝手に決めつけているだけだろ」

 でなければわざわざ招待状なんて送ってこないし、この前の結婚式だって他国から人なんて来ないはずだ。彼女は自分が疫病神だからって決めつけて、他国との接触を避け続けてきた。でもそれをいつまでも続けても、一歩なんか踏み出せるわけがない。だからそれを彼女には分かってほしい。

「なあ、お前もそろそろ成長しようぜ。どうせこの先避けては通れない道なんだから、今のうちに克服しておいたほうがいいんじゃないか」

「あんたが言いたいことはすごく分かる。分かるけど、怖いのよ」

「でももうお前は一人なんかじゃない。俺がついてるから怖い思いなんてさせない。それは絶対に約束するよ」

「ケイイチ……」

「だから少しずつでもいいから、頑張ろう。これからの国の為にもさ」

 ココネは一国の姫であり、俺の奥さんでもある。だから俺は、国王として、そして一人の家族として彼女を守っていかなければならない。それは使命とかそういうのではなくて、単純に俺は彼女の事が好きだから。

「……分かったわよ。あんたがそこまで言うなら、私も頑張ってみるわよ。だからひとつだから一つだけ約束しなさい。どんな時でも私を守る、分かったわね?」

「ああ。男に二言はない。絶対に約束する」

「それならいいわ。さっさと準備するわよ」

「準備って?」

「行くんでしょ? パーティ」

「……ああ!」

■□■□■□
 それから約二時間後、着替えなどの準備を済ませた俺とココネは、わざわざあちらから手配してくれた馬車に乗り、ライドアへと向かっていた。
その道中、今日二人が着ている服装について、ちょっとした談義をしていた。

「相変わらずあんたの服って、こういう場には合わないわよね」

「うるせえな。まともな服がこれしかないのだから仕方がないだろ」

「その黒い物体が?」

「物体とか言うな! これでも立派なスーツっていう服なんだぞ」

 俺が今回パーティに着用してきたのは、あっちの世界から持ってきた真っ黒なスーツ。こっちの世界にもあるのだが、どうもサイズが合わず、わざわざ自分で持ってきたのだ。

「こっちの世界ではあまり認識されていないかもしれないけど、こういう場に行く時の服装としては一番合うやつなんだぞ」

「ふーん」

「そういうお前だって、いつもの服だろ」

「失礼ね。これでも毎日違うのよ」

「俺には全部同じようにしか見えないけど」

 ココネの服は半年前に出会った時から、何一つ変化していない気がするのは気のせいなのか? まあ、流石に毎日同じ服を着ていることはないと思うんだけど、洗濯とかしているところ見たことないし、誰がそういうのをやっているのだろうか。

「そういえばお前って、自分の身の回りのことって、基本的に誰にやってもらっているんだ?」

「誰ってそれは勿論メイドに決まっているでしょ」

「まあ普通に考えればそうだよな。じゃあもしかして洗濯のやり方とか分からないのか?」

「洗濯? 何それ」

「え? まさかお前、洗濯って言葉も知らないのか?」

「うん」

「まじか!」

 流石はお姫様といったところだろうか。

「あ、もしかして洗濯って、服を洗うことを言うの?」

「今分かったのかよ。ていうか、それもそれでやばいって」

もしかしてココネの場合、性格とかそれ以前にそういった一般常識とか知らないのか?

「じゃあ料理は……って、当然出来るわけないよな」

「うちのコックが作ってくれるわ」

「いくら姫でも、料理くらいはできないとやばいぞ。一人の女性として」

「で、出来ないとは言ってないわ。た、ただ作ったことがないだけよ」

「それを出来ないって言うんだよ」

 俺が住んでいる世界で、こんな女性がいたら確実に結婚相手見つからないよな。基本的な家事もできないんじゃ、奥さんとしての役目も務まらないわけだし。

(どうやらこれは、由奈の出番かもな)

 あいつなら、基本的な家事とか炊事とかできるから、今度教えておいてもらおう。


 それから馬車に揺られること三十分、ようやくライドア王国城へ到着。

「うわ、何というか圧倒的にナルカディア城が小さく感じる」

「予算の都合だから仕方ないでしょ」

 目の前に立ちはばかるのは、圧倒的な大きさの城壁。そしてその奥から垣間見える城壁より明らかに大きい城。俺は今からここに入り、食事会の招待客としてライドアの国王と会う。果たしてこれが成功に終わるのか、はたまた失敗に終わってしまうのかは、俺達次第。ここは気を引き締めていかなければならない。

「と、とりあえず行くぞ」

「わ、分かっているわよ」

 引き締まっていな気もするけど、まあ何とかなるだろう。多分。

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