俺の嫁はデレない異世界のお姫様

りょう

第45話地下に眠りしもの

 襲撃事件から早くも五日が経ち、リタの体調もよくなり始めた頃、俺は一人でライドアにやって来ていた。ココネはどうしたのかと言うと、まだリタの体調が心配なのでしばらく付き添ってもらっている。

(一人で来ると、この前より圧倒的に大きく感じるなここ)

 前回よりは肩の力を抜いてライドア城内に入ることができたが、ナルカディアとは違った独特な雰囲気がやはり慣れない。だけど前回訪れた時と少し違うのが、前回は招かれる立場だったのだが今回は俺が自らタナトゥス国王にある交渉をしにやって来たのだ。

(うまくいくか分からないけど、やらないからには始まらない)

 この前の一件が俺にとって、いや俺達にとって大きなショックを与えてしまった。特にリタはあれから五日も経つというのに、未だベッドから出てこようとはしない。怪我自体は治っているらしいが、やはり心の方に大きな問題を抱えてしまっている。そんな絶望的な状況の中で、俺はもう一度立ち直るために、他国との協力が必要だと思い、今日はその交渉に来た所存だ。

「よく来てくれた。中に入りたまえ」

「はい、失礼いたします」

 前回と同じような流れで城の使用人に案内され、国王がいるところまで案内される。今回俺が通されたのは、書斎(?)らしき所。国王の私室だろうか? 

「先日は大変苦労されたらしいな。魔物の襲撃にあわれたとか」

「はい。おかげでその日の前日に開店したばかりの店が滅茶苦茶にされ、一人が心に大きな傷を負ってしまいました」

「確か世界で最も有名な料理人の、リタという少女だったかな。彼女がその被害者なのだろう?」

「はい。自分から依頼しておきながらとても情けない話です」

 四角いテーブルに、向き合って席に座らさせてもらう。着席するやいなや、奥様がお茶を出してくれたので、それを一杯飲んで一息つく。

「そう自分を責めるのはよくない。いつか負の感情に囚われてしまうぞ」

「分かってはいるんですけど、リタには申し訳ないことをしたなって思うんです」

「気持ちは分かるが、いつまでも暗い顔してたら見えるはずのものが見えなくなる。少しは元気を出したほうがいい」

「はい……」

 そうは言われても、やはり落ち込んでしまう。最近ずっとこの調子が続いていて、周りから逆に心配されてしまっている。

「それより話があるからわざわざアポを取ったんだろ?そっちの話をしなかい?」

「あ、そうですね。えっと今日こちらに伺った理由はですね」

 俺はタナトゥス国王に要件を話す。ちなみに今回俺が交渉しにきた内容はこういう感じだ。

 国同士の貿易の交渉

 復興支援依頼

 どちらも難しい内容ではないが、今の俺達だけではこれら全てをどうにかすることができない。とくに貿易に関しては、これから更に盛んな国を目指すためには最重要のことだと思われる。だからまずは、一番身近なところから交渉に入ったという感じだ。

「なるほど。どちらも難しい話ではないな」

「昔のような国に戻すためには、ライドアのご協力が必要なんです。今すぐにとまでは言いませんが、どうか考えてはいただけないでしょうか?」

 俺はあまりに必死のあまり、その場で土下座をして頼む。もう失敗しないためにも、ココネの為にも、そしてナルカディアの為にも、今俺ができる事をできる限りした。それがプライドを捨てることなったとしても、だ。

「さっきも言った通り難しい話ではない。君がそこまでして頼むのは、きっと国を思ってのことだろう。君の意志は亡き友の意志でもある。是非とも協力させてもらおう」

「ほ、本当ですか!?」

「ああ。共に頑張ろうではないか」

「は、はい! ありがとうございます」

 こうしてナルカディアは、まだ形だけとはいえライドアと事実上の同盟を組むことになったのであった。

■□■□■□
 思わぬ成果を得て帰国した俺は、早速ココネにそれを報告。それを聞くなり彼女は、何故か俺を避けずんだ目で見てきた。

「な、何だよその目は」

「あんたみたいな人間が、プライドを捨ててまで土下座をするなんて意外だなって思っただけよ」

「意外で悪かったな! 俺もやる時はしっかりやるんだよ」

「何か信じられないけど、まあいいや。それよりあんた、今からちょっと時間ある?」

「あるもなにも、今しがた今日やるべきこと終わったばかりだからあるよ」

「じゃあ、ちょっと私に付いてきて」

「付いてきてってどこに?」

「行けば分かるわ」

「あ、おい」

 突然ついて来いと言われ、俺は言われるがままココネの後をついていく。一体どこへ行くつもりなのだろうか?

 歩き続けること五分後。

 俺は城の地下みたいなところまで来ていた。

(まさか城にこんな地下があるなんてな)

 ココネに以前から聞いてはいたが、実際にこうやって来てみると、ちょっと違和感を感じ。あんなに豪華な城の地下は、見渡す限りのあたり一面に敷き詰められている石でできていた。こんな所まで来て、俺に何を見せようとしているのかさっぱり分からない。

「なあどこへいこうと……ぐふっ」

 いい加減歩き疲れた俺は、文句を言おうと下が、ココネが突然止まったので彼女の背中にぶつかってしまう。ココネはそれに動じず、ただ目の前にある扉だけを眺めていた。

「急に止まるなら先に言ってくれよ。それでこの扉がどうしたんだ?」

「この扉の先にあれがあるわ。私も見るのは五年ぶりに見ることになるんだけど」

「あれって何のことだよ……って、まさか」

「ええ。この先に、五年前の悲劇の起源となる死者の扉があるわ」

「この先に、お前が言っていたやつが……」

 死者を蘇らすことができると言われている(ココネは結果的に失敗しているが、調べてみたところ実際にあるらしい)死者の扉があるのか。

(全ての始まりの扉が……ここに)

 一体どういう物なのだろうか?

「さあ開けるわよ」

 どうやら入口の扉は頑丈にできているらしく、ココネ一人では開けられないらしいので俺も手伝う。

「せーの」

 ギギギ

 とドアが軋む音とともに開かれる死者の扉が眠りし部屋。いよいよ俺もそれを見る時が……。

「ってあれ?」

「え? ど、どうしてなの」

 ドアが完全に開かれた先に俺達を待っていたのは、なにも残っていないすっからかんの部屋だった。

「おいおい嘘だろ」

「死者の扉が……ない」

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