俺の嫁はデレない異世界のお姫様

りょう

第76話守り守られ

「私が記憶喪失になっている間に、そんな事があったの?」

「ああ。俺達が今いるこの場所が、そのルイヴァック島なんだよ」

 しばしココネが帰ってきた事に喜びを噛み締めた後、俺はここまでの経緯を彼女に説明した。ただ、俺はまだ一つだけ話していないことがある。

「話を聞いてほしくて作られた空間、不思議な話ね」

「最初は俺も驚いたよ。でも更にその空間の中に、もう一人伝えようとしている人物がいるんだもんな」

「本当信じられない話よ」

 ルナでさえ知らない、あの本の中の人物。歴史の伝承者とでも言うべきなのだろうか?

「とりあえず今日は遅くなったし、続きは明日話すとして、そろそろ寝るか」

「そうね」

 長い時間話をしていたので、すっかり眠くなってしまったので明かりを消そうとする。だがココネは自分の部屋には戻らず、何故か俺の布団に潜り込んでしまった。

「何やっているんだよココネ。自分の布団で寝ろよ」

「久しぶりに二人で寝ようよ。あんただって寂しかったんでしょ?」

「い、いや、それは……」

 確かにココネがいつもいなくて俺は寂しかった。だけどそれを改めて言われてしまうと、少し恥ずかしい。

「ほら、眠いんでしょ? 早く早く」

「分かったよ……」

 それでもココネは自分の部屋には戻りそうになかったので、諦めて二人で眠る事に。ただし、ナルカディアにある自分たちのベッドより大きくはないので、密着度はそこそこ高い。

「こうして二人で寝るのも、久しぶりよね」

「そうだな。あれから何だかんだで一ヶ月経っているからな」

「大丈夫かな、ナルカディア……」

 ココネが呟く。まだカグヤの事とナルカディアの現状を話していない為心が痛む。 
 今この事を彼女に話したら、果たしてどう思うのだろうか? 
 今すぐにでも助けに向かいたいと言い出すに違いない。だけど今の俺達には、すぐに向かえるような力がない。

「なあココネ」

「何?」

「まだお前に話していないことがあるんだけどさ……」

 だがそれを黙っているわけにもいかない。

「え……? う、そ」

「嘘じゃないんだよ。リタも由奈も、今カグヤによって捕まっている。そしてナルカディアもあいつに……」

「じゃあどうしてケイイチは、すぐに助けに行かなかったの?! 私は置いて行っても構わなかったのに!」

「そんな事できるかよ! お前を置いてなんてそんな事……」

 あの時、俺も今すぐにナルカディアに行きたいって気持ちになった。だけど、それと同等に大切なココネをこの島に置いていくだなんて、そんな事できなかった。

「私はすぐにでも向かってほしかった。そして、記憶が戻った時に見せてほしかった。いつものナルカディアの光景を……」

「悪い。俺が無力だったから……」

「絶対に私達で必ず助けるわよ」

「ああ、勿論だ」

「絶対だからね」

 ナルカディアも由奈もリタも、全部助け出す。その為には準備しなければならない。今のままだと返り討ちに合ってしまう。

「でも今すぐには助けに向かえない。この前戦った時に思ったけど、あいつの力は人間を越えている。だから万全な準備を整えるぞ」

「分かっているわよ。私の力も自由に使えるわけではないし」

「あの人の体の自由を奪う、みたいなやつか?」

「うん。私はケイイチを助けたいとひたすら願ったら、使えていたみたい。だから、ほとんどケイイチを頼ることになるかも」

「それでもいい。ただ……」

「ただ?」

「あんな無茶、二度としないでくれ」

 あの時ココネが俺を庇ってなければ、俺も重傷になっていたに違いない。それに変わって、彼女は大怪我を負って、記憶まで失ってしまった。

 だからあんな無茶だけは、二度としてほしくなかった。

「馬鹿ね。それはあんたも言えないじゃない」

「え?」

「いつしかケイイチは、私を庇って助けてくれた。だからこれで五分五分よ」

「あれは体が勝手に動いただけで、お前よりは重傷じゃなかった。だから……」

 五分五分だなんて事は言えない、と言おうとしたら、背中に暖かい物を感じた。ココネに抱きつかれでもしたのだろうか? 彼女にずっと背中を向けていたので、突然の出来事に俺は少々驚いてしまった。

「ココネ?」

「何言っているのよ……。私は何度もケイイチに助けられた。私の過去を受け止めてくれたのも、私をカグヤから助けてくれたのも、全部ケイイチ。だから少しでも恩返ししたかった」

 更にギュッとココネに抱きしめられる。俺は彼女から感じられる暖かみを体に感じながら、言葉を続ける。

「だからって命を張らなくてもよかっただろ……。俺がやってきた事よりも、重すぎるよ」

 それは俺の本心だった。命を張ってまで誰かに守られるだなんて事は一度もなかったから、俺にとってそれは重かった。

「でもこうして戻ってこれたんだからいいじゃない。私はこうしてケイイチにまた会えただけでも幸せだから……ありがとう」

「礼を言うのはこっちだよ……ありがとうココネ。そしてておかえり」

「ただいま、ケイイチ」

 久しぶりに二人きりで過ごした夜は、少し寂しくて、少しだけ暖かかった。

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