柊木さんと魑魅魍魎の謎

巫夏希

第六話

 村長の家にある地下へと延びる階段を下りて、暫くすると金属製の扉が目の前に見えた。
 その扉は、どこか囚人を閉じ込めておく牢獄に似ていた。

「……これは」
「まあ、中を見てもらえれば解る。この村が、私たちが、何を隠しているのか」

 そう言って、村長は鍵束を構成している鍵の一つを取り出し、扉を開ける。
 扉の向こうに広がっていたのは、赤い柱が等間隔に建てられていた広間だった。

「……これは、いったい」
「竜宮城」

 村長は端的にたった一言で答えた。

「竜宮城、だと? 竜宮城は確か、海の中に……」
「ここも海の中だろう? ここには、竜宮城があった。正確に言えば、竜宮城を封印するために、我々が居るとでも言えばいいか」
「竜宮城を封印、か。どういうことか、教えてもらおうか」
「……ここで知ったことを、すべて外に出さないということを条件として提示させてもらおう。構わないね?」
「ええ。じゃあ、こちらも条件を出させてもらおうかしら。行方不明になった彼女――椎名秋穗をこちらに五体満足で戻すこと。それなら、その条件を飲んでも構わない」

 村長は夏乃さんの言葉を聞いて頷く。
 そして横にそれて、また鍵のかかった扉を開けた。
 そこには、普通の部屋が広がっていた。床はフローリング、ベッド、テーブル、椅子、クローゼット、恐らく風呂にトイレも完備しているのだろう。こじんまりとしているものの、きちんと生活できそうな部屋が広がっていた。
 そうして、その部屋にある椅子に一人の少女が腰かけていた。

「君が、椎名秋穗か?」

 夏乃さんの質問に、小さく頷く。

「助けに来た。私は君の兄の友人だよ。船が戻ってくるのは数日後になるが……、それでも家に帰ることは出来る。だから安心したまえ」

 それを聞いた少女――秋穗さんは堰が壊れたのか、両の目から涙が溢れ出した。

「……さて、それでは簡単にこの島の役割についてお話ししましょうか。そして、浦島太郎伝説と交えながら――」

 そう言って、村長は話を始めた。
 浦島太郎伝説と、この島の役割を。


 ◇◇◇


 簡単に言ってしまえば、この島は竜宮城だった。
 しかしながら、竜宮城の上にあった無人島には竜神が住んでいて、人々は崇敬の念を抱きその竜神を崇めていた。もちろん、その時にはまだ竜宮城のことなど知らなかった。
 しかし、ある時この島に住む浦島太郎という男が竜宮城を見つけてしまう。竜宮城は竜神の家と言っても過言では無い場所だった。
 しかしながら、浦島太郎はそこで竜神の妻である乙姫に恋をしてしまう。
 そして浦島太郎は乙姫を自分のものにしてしまおうと、思った。乙姫を連れ出して、上に住む自分の島へ向かおうと乙姫に伝えた。
 乙姫は当然ながらそれを拒否した。しかしながら、それでも諦め切れなかった。だから、浦島太郎は強制的に乙姫を連れ出した。
 それに怒り狂ったのは竜神だった。竜神はその島に向かい、浦島太郎から乙姫を取り戻すと、浦島太郎に呪いをかけた。
 その呪いこそが、浦島太郎から『若さ』を奪う――ということだった。よく浦島太郎の物語で知られている『玉手箱』、それはその呪いをそういうニュアンスで表現したものだった。
 竜神の怒りはそれだけに留まらなかった。
 島の住民にも呪いをかけた。その呪いは子孫代々続くものだった。その呪いこそが――。

「島から出ることを禁じる、呪いだということだ」

 ここで、話し手は村長に戻る。

「つまり、この島で生まれ育った人間は、この島から出ることを許されていない、と? それも、何百年もの間」
「ああ。そういうことだよ。正確に言えば、長くは生きられないというだけだ。実際のところ、半年程度は生きられるだろう。なぜ半年程度かというと、その呪いを信じなかった若者が島を飛び出して、全員一年未満に謎の死を遂げているからな……」

 つまり、未だに竜神の呪いは健在ということか。

「……そして、何故彼女がこの島に攫われていたか、ということなのだが。これは簡単なことだ。この島に住む人間は、この島から出ることが出来ない。結果的に、この島に住む人間だけで結婚して子供を産む必要がある。この島に居る人間を、子孫を途絶えさせないためにはそうしなければならない。しかしながら、いずれその血筋は途絶えていく。いつかは外からその血筋を入れていかねばならない。……そう考える急進派も少なくない」

 そこで夏乃さんはピンと来たのだろう。村長の胸倉を掴み、睨んだ。

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