スキルゲ!!
終結
「おはようございます」
「はい、おはようございます」
僕は芦屋先生に朝の挨拶を行い、先生も挨拶を返してくれた。
場所は理科準備室。時間は学校が始まるには、まだ時間がある。
滝川晴人が作った結界。理屈はわからないけど、あの結界には時間にすら影響を与えていたらしい。
つまり、『リヴァイアサン』が消滅してから数分しか時間は経過していない。
学校は無茶苦茶に破壊されて、世界が滅ぶかどうかの戦いをしていたはずなのに、まるで夢でも見ていたように元通りに戻っている。
僕は、先生に今朝の出来事を簡単に説明する。
「……というわけで解決しました」
「そうですか。それはおめでとうございます」
先生は笑顔で拍手をしてくれた。なんだか変な感じがしたけど、嬉しかった。
「ところで亮期君。『リヴァイアサン』の様子はどうですか?」
あの後、僕は『リヴァイアサン』を見殺しにすることはできず、初めて召喚スキルを使って『リヴァイアサン』を僕の体内に封印している。
封印した『リヴァイアサン』を意識してみるとどうやら、僕と『リヴァイアサン』は感覚がつながっているらしい。 力は弱体化している。けれども、その鼓動は力強く伝わってきている。
「なんとなくですけれども……大丈夫そうです」
「そうですか。そういえば、どうして『リヴァイアサン』が不死身と言われているか知ってますか?」
「いえ?知りませんが……」
「実は『リヴァイアサン』って言うのは1年に1回は死ぬみたいですよ」
「……はぁ?」と、先生の前にも関わらず、僕の口からマヌケな声が漏れた。
じゃ、見殺しにしても生き返っていたのか?僕の悩みはなんだったのか?
全身が脱力していく。なんだかなぁ……。
「いえ、君のやった事は無意味じゃないですよ。あのまま、『リヴァイアサン』を見殺しにしていたら、君の召喚士としてのスキルは消失していたと思います」
「そうなんですか?」
「ええ、君が『リヴァイアサン』を見捨てていたら、きっと『リヴァイアサン』は他の誰かの召喚獣として転生して、君ではない誰かを苦しめていたでしょ」
「……」
「勘違いしては困りますが、『苦しむのが君だけでよかった』という意味ではありません」
「え?」
もちろん、芦屋先生がそんな事を考えてるなんて思っていなかったが、先生の言葉の意味がわからず、疑問の声を出した。
「現に君は乗り越えたじゃないですか。君が苦難を乗り越えれたのは、他ならぬ君だからだと、私は思います。他の誰でもなく、君だから……」
「そうですか。ありがとうございます」
僕はお礼を述べて、部屋を出た。教室の外、女性が待っていた。
その女性は、橘あかねだった。
「やぁ」と僕は挨拶。
彼女は小さく、頭を下げて挨拶を返してくれる。
そのまま、彼女の横を歩いて教室へ向かう。
何かがついてくる気配を感じて、背後を振り向く。
すると、橘あかねがいた。
「あれ?僕に用事?」
てっきり、芦屋先生に用事があって理科室の前に立っていたのかと思った。
彼女は無言で頷き「護衛」と一言、ポツリと言った。
「護衛?」
何の事だろう?心当たりは……ない。
というか、こんなに無口な子だったのか?
「芦屋先生から、影ながら守れと言われた」
「なるほど。それは聞いてる」
「もう影ながら守る必要はない」
「嗚呼、そりゃそうだね」
「だから、こうして、堂々と守れる」
「……いや、その理屈はおかしい」
「?おかしい?」
本気で不思議そうな顔をされた。
考えてみると、彼女は会うたびに印象が違うというか……捉え難い性格なのかもしれない。
「まぁいいか」と僕は切り替え、二人で教室へ向かう。
場面は再び理科準備室。
朝倉亮期が退出した直後、部屋の主は試験管を見ていた。
「本体が近くにいても反応はなしか……」
誰に聞かせるでもなく、1人呟く。
試験管の中は液体だ。黒く濁っているが、まるで生物の血液にも見える。
『リヴァイアサン』にまつわる逸話。それについて、まだ話していないことがある。
それについて、まだ明かすべき時期ではない。芦屋悟朗は、そう考えての判断だった。
一方、場所は朝倉亮期の自宅。
そこに朝倉正成はいた。
彼は敗れた。彼の計画は破綻した。
しかし、彼は自宅にいる。自宅の台所だ。
彼は台所で何をしているのか。……いや。台所でする事は一つだけだろう。
彼は料理に勤しんでいた。鼻歌混じりで、楽しげですらある。
固めた肉をパンパンと軽く叩いて空気を抜いている。
どうやら、ハンバーグを作っているみたいだ。
火を通して、皿に移す。事前に用意していたソースを横に置き、一息。
どうやら、完成したようだ。
次に正成が用意したものはペン。そして、新聞紙に挟まっていたチラシを取り出した。
チラシを裏返し、メモ代わりに使う。
そして、その内容は―——
「亮期へ
父さんは海外に出張になった。いつ帰れるかはわからん。
急な話で困惑するだろうが、心配するな。
メモの横に置いている貯金通帳に生活費は定期的に振り込んでおく。
ハンコはいつもの場所だ。なくすなよ。では、1人暮らしを楽しんでくれたまえ」
正成は一気に書き上げ、席を立つ。
台所から立ち去る前にテーブルの上のハンバーグを見る。
芦屋悟朗が朝倉亮期に聞かせていなかった『リヴァイアサン』の逸話。
それは、『リヴァイアサン』を退治した後の逸話。
終末の日。『リヴァイアサン』は神により退治され、聖なる人に食されるという。
そして、テーブルには渾身のハンバーグ。
その匂いに背を向け、正成は家を後にした。
「はい、おはようございます」
僕は芦屋先生に朝の挨拶を行い、先生も挨拶を返してくれた。
場所は理科準備室。時間は学校が始まるには、まだ時間がある。
滝川晴人が作った結界。理屈はわからないけど、あの結界には時間にすら影響を与えていたらしい。
つまり、『リヴァイアサン』が消滅してから数分しか時間は経過していない。
学校は無茶苦茶に破壊されて、世界が滅ぶかどうかの戦いをしていたはずなのに、まるで夢でも見ていたように元通りに戻っている。
僕は、先生に今朝の出来事を簡単に説明する。
「……というわけで解決しました」
「そうですか。それはおめでとうございます」
先生は笑顔で拍手をしてくれた。なんだか変な感じがしたけど、嬉しかった。
「ところで亮期君。『リヴァイアサン』の様子はどうですか?」
あの後、僕は『リヴァイアサン』を見殺しにすることはできず、初めて召喚スキルを使って『リヴァイアサン』を僕の体内に封印している。
封印した『リヴァイアサン』を意識してみるとどうやら、僕と『リヴァイアサン』は感覚がつながっているらしい。 力は弱体化している。けれども、その鼓動は力強く伝わってきている。
「なんとなくですけれども……大丈夫そうです」
「そうですか。そういえば、どうして『リヴァイアサン』が不死身と言われているか知ってますか?」
「いえ?知りませんが……」
「実は『リヴァイアサン』って言うのは1年に1回は死ぬみたいですよ」
「……はぁ?」と、先生の前にも関わらず、僕の口からマヌケな声が漏れた。
じゃ、見殺しにしても生き返っていたのか?僕の悩みはなんだったのか?
全身が脱力していく。なんだかなぁ……。
「いえ、君のやった事は無意味じゃないですよ。あのまま、『リヴァイアサン』を見殺しにしていたら、君の召喚士としてのスキルは消失していたと思います」
「そうなんですか?」
「ええ、君が『リヴァイアサン』を見捨てていたら、きっと『リヴァイアサン』は他の誰かの召喚獣として転生して、君ではない誰かを苦しめていたでしょ」
「……」
「勘違いしては困りますが、『苦しむのが君だけでよかった』という意味ではありません」
「え?」
もちろん、芦屋先生がそんな事を考えてるなんて思っていなかったが、先生の言葉の意味がわからず、疑問の声を出した。
「現に君は乗り越えたじゃないですか。君が苦難を乗り越えれたのは、他ならぬ君だからだと、私は思います。他の誰でもなく、君だから……」
「そうですか。ありがとうございます」
僕はお礼を述べて、部屋を出た。教室の外、女性が待っていた。
その女性は、橘あかねだった。
「やぁ」と僕は挨拶。
彼女は小さく、頭を下げて挨拶を返してくれる。
そのまま、彼女の横を歩いて教室へ向かう。
何かがついてくる気配を感じて、背後を振り向く。
すると、橘あかねがいた。
「あれ?僕に用事?」
てっきり、芦屋先生に用事があって理科室の前に立っていたのかと思った。
彼女は無言で頷き「護衛」と一言、ポツリと言った。
「護衛?」
何の事だろう?心当たりは……ない。
というか、こんなに無口な子だったのか?
「芦屋先生から、影ながら守れと言われた」
「なるほど。それは聞いてる」
「もう影ながら守る必要はない」
「嗚呼、そりゃそうだね」
「だから、こうして、堂々と守れる」
「……いや、その理屈はおかしい」
「?おかしい?」
本気で不思議そうな顔をされた。
考えてみると、彼女は会うたびに印象が違うというか……捉え難い性格なのかもしれない。
「まぁいいか」と僕は切り替え、二人で教室へ向かう。
場面は再び理科準備室。
朝倉亮期が退出した直後、部屋の主は試験管を見ていた。
「本体が近くにいても反応はなしか……」
誰に聞かせるでもなく、1人呟く。
試験管の中は液体だ。黒く濁っているが、まるで生物の血液にも見える。
『リヴァイアサン』にまつわる逸話。それについて、まだ話していないことがある。
それについて、まだ明かすべき時期ではない。芦屋悟朗は、そう考えての判断だった。
一方、場所は朝倉亮期の自宅。
そこに朝倉正成はいた。
彼は敗れた。彼の計画は破綻した。
しかし、彼は自宅にいる。自宅の台所だ。
彼は台所で何をしているのか。……いや。台所でする事は一つだけだろう。
彼は料理に勤しんでいた。鼻歌混じりで、楽しげですらある。
固めた肉をパンパンと軽く叩いて空気を抜いている。
どうやら、ハンバーグを作っているみたいだ。
火を通して、皿に移す。事前に用意していたソースを横に置き、一息。
どうやら、完成したようだ。
次に正成が用意したものはペン。そして、新聞紙に挟まっていたチラシを取り出した。
チラシを裏返し、メモ代わりに使う。
そして、その内容は―——
「亮期へ
父さんは海外に出張になった。いつ帰れるかはわからん。
急な話で困惑するだろうが、心配するな。
メモの横に置いている貯金通帳に生活費は定期的に振り込んでおく。
ハンコはいつもの場所だ。なくすなよ。では、1人暮らしを楽しんでくれたまえ」
正成は一気に書き上げ、席を立つ。
台所から立ち去る前にテーブルの上のハンバーグを見る。
芦屋悟朗が朝倉亮期に聞かせていなかった『リヴァイアサン』の逸話。
それは、『リヴァイアサン』を退治した後の逸話。
終末の日。『リヴァイアサン』は神により退治され、聖なる人に食されるという。
そして、テーブルには渾身のハンバーグ。
その匂いに背を向け、正成は家を後にした。
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