スキルゲ!!

チョーカー

光の部屋にて ①

 コツコツコツと静寂な空間に足音が響く。
 1人の男が暗闇の中、らせん階段を下りていく。
 不意に顔を上げ、自分が下ってきた階段を確認する。
 入り口から漏れていた光は、すでに見えない。
 やれやれとため息をつき、男はらせん階段に設置されている手すりから身を乗り出し、下を眺める。
 あるのは漆黒。終わりは見えない。
 再びため息をついた男は―——
 らせん階段の手すりを乗り越え、飛び降りた。
 全身に纏わりつく強烈な浮遊感。
 死のダイブに体が危険反応を示し、内臓がせり上がってくるような不快感。
 そして、自由落下によりスピードを楽しみながら男は落下していった。
 暗闇の中、視界は0。当然ながら、地面は見えない。
 しかし、どんな方法なのか。男の肉体は空中で停止した。
 まるで背中にワイヤーが隠されていて、計算されたギリギリの長さでブレーキがかけられた。
 そんなようにも見える。ただし―——当然ながら、男の背中にワイヤーはない。
 男は、何事もなかったかのように地面に足をつけ立ち上がる。
 男の前には何もない。ただ虚無が広がっているだけだ。
 しかし、男の眼には何かが見えているのか、手のひらを虚無の空間に向け押し出すような動作をする。
 空間と空間の間に光の線ラインが生まれた。
 それは空間の内側から漏れ出た光が、隠されたソレから本来の姿を型どっているのだ。
 それは扉。隠された扉が開かれんとする。
 しかし、男は手を止めた。
 なぜか?その理由は極めて常識的な事だった。
 男は拳を硬く握りしめ、扉にぶつける。
 コン コンと2回。
 それは、訪問を告げるノックだった。
 そのまま暫く待つと、内側から声がした。
 「どうぞ」と来室を許され、ようやく男は扉を開いた。
 部屋の内部は、打ちっ放しのコンクリートにカーペットが無造作に引いてある。
 部屋の中央には4人掛けのソファーがあり、その奥に大きめの机。
 机の椅子には1人の男が座っていた。
 彼がこの部屋の主であろう。そう判断した男は、彼に近づき深々と頭を下げた。
 「始めまして、朝倉亮期くんの担任を担当させていただいている芦屋悟朗を申します」
 男は芦屋悟朗だった。
 その自己紹介を受け、部屋の主は立ち上がる。
 そして―——
 「始めまして亮期の父、朝倉正成です」
 彼は朝倉亮期の父親だった。

 

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