アンリミテッドペイン

チョーカー

 アンリミテッドペイン 後半

 だらりと血がこぼれ落ちる。
 ステータス異常『流血』が示される。
 『流血』は一定時間、少量ではあるがダメージの追加が行われる。
 完全決着型であるアンリミテッドペインモードなら、ダメージを気にする気にする必要はない。
 それよりも、問題は視界悪化のペナルティである。
 たんぱく質と油が混じった液体が眼球に染み込んでいく。
 それから生じる痛みですら、この世界は忠実に再現されている。
 そして彼女の武器は高速移動。視界が奪われた状態で対処するのは難しい。
 そんな俺を彼女は嘲笑う。

 「自業自得。私を甘く見て、蔑んで、その結果がこれだよ。貴方を殺して、城一郎くんを取り戻すの。
こんなゲームで、ゲーム如きで!? 何がリアルよ!? 現実リアルなんてのは1つだけに決まっているじゃない。だから、私が壊す。破壊するの。」

 彼女の余裕。たぶん、これは彼女の勝ちパターンなのかしれない。
 彼女の戦歴『20戦3勝12敗5引き分け』
 その3勝は、流血効果のステータス異常を入れてから、スピードで翻弄して、稼いだ勝ち星か?
 そんなの、ただの運ゲーじゃねぇか。

 気がつけば観客席から激しいブーイングが巻き起こっていた。
 そりゃそうだ。彼女の、『ソルシエール』の言葉は、『アンリミテッドペイン』の全否定。
 それは、ここにいる観客、全ての否定だ。
 そう思っていた。だが———

 「なんだ、ただの痴話喧嘩じゃねぇか!ふざけんなゴラァ!?」
 「リア充爆破。爆ぜろや!?ニトロ買占めじゃ!?」
 「自業自得だわ。これ、完全に自業自得だわ」

 あれ・・・・・?俺にブーイング向けられてねぇ?

 「まったく、空気読めよな」
 俺は、観客に悪態をつきながら、『ソルシエール』に顔を向ける。
 「やれやれ。最初は俺と話す事なんてないって言いながらノリノリじゃないか」
 「——————ッッッ!?」
 アバター越しに、真っ赤に染まったあかりの表情が見えた。・・・・・・気がする。
 「死ね!?死んじゃえよ」
 突っ込んで来ようとする『ソルシエール』に向かって腕を突き出す。
 指を広げ、手のひらを見せる。いわゆる止まれのポーズ。
 それに「待て」の一言で、『ソルシエール』の攻撃のタイミングを殺す。
 「何て言うか、俺はお前に楽しんでほしい」
 「楽しい?殴り合って、痛めつけて楽しい?頭がおかしいの?」
 「あぁ、第三者から見たら変なのかもしれない。けど、お前にも理解できる部分があるから20戦も戦っていたんじゃないか?」
 「そうやって、自分たちを許容しようとしてるだけじゃない!?」
 言葉と同時に『ソルシエール』が前に出る。
 高速移動。タイミングから避ける事なら可能だ。だが———
 『ソルシエール』は、技をキャンセルして距離を詰めるために使用した。
 両者の間合いはゼロ距離。振り下ろされる五本指の刃。
 ぼやけた視界で反応が遅れる。だから俺は受ける。
 一歩、前に踏み出して、フルインパクトの衝撃を緩和させる。
 直撃だけは避けられた。しかし、頭部のダメージが思考を狂わせる。
 下半身の力みが消失して倒れそうになる。
 だが、『ソルシエール』の追撃は緩まない。
 何とか、それを避け、受け、いなし、防御に専念する。
 何発かは、自ら受けて最小限のダメージまで落とす。
 ダメージを減少させても、アバターの肉は切り刻まれ、一撃一撃に鋭い痛みに襲われる。
 次から次へ、体から外へ向けて、血液が流れ出ていく。
 HPヒットポイント制なら、既にゲージは0を表示されているだろう。

 でも戦える。
 ほら、こうすれば俺の動きが止まるから、お前はこうすれば良い。
 な?当たっただろ?
 じゃ?次はこうだ。こう来たら?うん、いいぞ。良い判断だ。
 気がついているか?お前、笑ってるぞ?
 笑っている。でも、なんで泣いているんだ?

 『アンリミテッドペイン』のシステムに涙の表現は存在していない。
 しかし、『ソルシエール』のアバターを通して、春日あかりが泣いているのが分かる。
 『ソルシエール』の攻撃の手は、徐々に減速していき、やがて、完全に止まってしまった。
 「なんで、そんな血塗れになって、続けられるのよ」
 彼女の口から出た言葉は悲壮な叫びだった。
 「なんで・・・・・・って言われても。お前が楽しそうだったからなぁ」
 「楽しくないよ。城一郎くんが血を流してるのを見るのは楽しくないよ」
 『ソルシエール』が、あかりが、俺を「霞城一郎」として扱ったのは初めてかもしれない。
 「何て言うか、言い方が悪いかもしれないけど、お前を見ていたら、現実とバーチャルを分けるのも違うかなぁって思って・・・・・・」
 あかりは『アンリミテッドペイン』の『痛み傷ペインウーンド』を俺、霞城一郎である事を一貫して批判していた。
  それは、俺の現実とバーチャルを分離させた考えとは、真逆であると同時に根本は同じ考えじゃないか?
 それを考えると

 「この『アンリミテッドペイン』の俺も、現実の俺も、同じ俺っていうか・・・・・・
 『痛み傷ペインウーンド』じゃなく霞城一郎として言うけど・・・・・・

 一緒に遊ばないか?」

 認めたくないのかもしれないが、彼女だって『アンリミテッドペイン』を20戦もプレイしている。
 ただ、憎悪をぶつける対象としか見ていないなら20戦もやらないはず。
 彼女は彼女なりに俺が好きな物を理解しようとしてくれたのかもしれない。
 それで楽しんでくれるなら・・・・・・

 俺は彼女に手を差し伸べる。
 彼女は、その手を握るには躊躇した。
 しかし、それは一瞬の事で、彼女は俺の手を握り返してくれた。


 勝機!?
 握手の状態から不意をつき、力のベクトルを上に向ける。
 『ソルシエール』の手首の関節が極まる。
 「ふぇ?」と間の抜けたような声が『ソルシエール』から漏れる。
 だが、出足払い。
 と同時に『ソルシエール』の腕を振り回す。大縄跳びの縄を回すような感じだ。
 『ソルシエール』の肉体は、冗談みたいに半回転した。
 そのまま地面に頭から叩き付ける。

 暫くして、俺の頭上に勝者(winner)の文字が浮き上がる。

 「よしゃあああああ!?」

 勝利の雄たけびを・・・・・・あれ?
 シーンの静まり返った観客たち。
 1人1人の表情は呆気に取れれていたが、やがて―——

 「「「きたねぇええええええええええ!?」」」

 「初心者相手に何だまし討ちしてんだよ!」
 「ただの屑じゃねぇか!?」
 「ランキング返上しろ、返上」

 一斉にブーイングの嵐が俺に送られてきた。
 なんだか、収集がつかなくなってきた。
 よし、ここは・・・・・・

 「上等じゃねぇか!?お前等かかってこいや。今日も100人組手だ、馬鹿野郎ども!」


 

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