アンリミテッドペイン

チョーカー

 アンリミテッドペイン 前半

 『アンリミテッドペイン』での戦いは3種類ある。

 野試合モード

 VS CPUモード

 ランキングモード

 しかし、『アンリミテッドペイン』稼動初期には、もう1つあった。
 それがアンリミテッドペインモード。
 文字通り、制限される事のない痛みがPCから発せられる電気信号によって再現される。
 現存のモードには取り付けられている安全装置が一切、存在していない。
 部分に設定されたHPヒットポイントも存在せず、決着はギブアップかノックアウトのみ。
 そのため、多くのユーザーには不評を、一部のユーザーには絶賛を受けていた。
 通称、完全決着モード。
 現在は、一部の例外を除き、アンリミテッドペインモードの使用はできない。
 両者の承諾はもちろん、運営への根回し、さらには誓約書へのサイン。
 めんどくさい事前準備のクリアが必要なため、廃れ果てたモードではあるが・・・・・・

 「ねぇ、あかりさんが本当に受けてくれると思っているの?」

 佳那が俺に聞いてくる。現在の場所は俺の家。
 あの後、あかりと別れを告げて俺たちは帰宅した。
 あかりは、受けるとも、断る事もせず、最後は無言だった。
 だから、彼女が『アンリミテッドペイン』にログインするかは不明だ。
 でも―――

 「俺は受けてくれると思うよ」

 根拠はない。
 俺ができるのは彼女を信じる事だけだ。

 「それで?」
 「ん?」
 「それでどうするつもりなの?」
 「ん~ どうするつもりって言われてもなぁ。ただ戦うだけだよ」
 「それで、戦ってどうなるの?まさか、マンガみたいに分かり合って仲直りなんて期待してるわけじゃないでしょ?」
 「いや?期待してるよ」
 「なっ・・・・・・なにを・・・・・・」
 佳那の表情を伺う。彼女は驚きで固まっていて、まさしく絶句していた。
 そりゃそうだろう。こんだけ拗れた問題を殴り合って分かり合おうって言ってるんだから。
 ベタだ。例えるなら、後ろに咲いている花を守るために敵の攻撃をあえて受けて負けるくらいのベタ展開だ。
 けれども―――
 「けれども、お前もそうだろ?」
 俺はそれだけ言った。お前だって『アンリミテッドペイン』が好きだから、わかるだろ?
 佳那にも俺が言いたい言葉が通じたらしく、素直に頷く。
 「では・・・・・・こういう時は、御武運をと言えばいいのでしょうね」
 「嗚呼、良いじゃないか?それっぽくて」
 「では、御武運を」

 俺はPCに外部出力機を接続させる。
 しばらく待つと、体の感覚が失われていく。体の神経が失われ、『アンリミテッドペイン』のアバターへと神経がつながっていく。
 その感覚は、まるで、別の生物へ生まれ変わるような錯覚すら覚える。
 現実の俺は死んで、本当の俺が誕生する。 
 嗚呼、この考えが、あかりを追い詰めていたのか・・・・・・
 それも、今日が最後だ。この戦いで、どんな決着を迎えたとして、明日は変わる。
 そして、どんな明日を迎えようとも、俺は後悔しない。
 そう・・・・・・だから、決着なんだ。

 黒に染まっていた視界に光が通る。
 静寂を守っていた聴覚が音の波を捉える。
 神経はつながり、肉体は『痛み傷ペインウーンド』へと変化を遂げた。
 その瞬間、何かが爆発した。
 いや、違う。あまりにも激しい衝撃が爆発だと錯覚したのだ。
 その衝撃の正体は、周囲を取り囲む観客たちの声援だった。

 「あっ、すっかり忘れていた。」

 失念していたアンリミテッドペインモードは、観客がONの状態がデフォルトだった。
 この状況で春日あかりはログインして、姿を現すだろうか?
 俺なら、状況把握と同時にログアウトしてしまう。確実にだ。
 ここにきて痛恨のヘマをした。どうする?一度、ログアウトして設定を変更するか?

 しかし、観客たちのボルテージはあげあげ状態で暴徒化一歩前という感じだ。
 それに、どこで情報を得たのか、観客たちの一部は声を合わせて

 「せ・い・さ・い それ!  せ・い・さ・い それ!  せ・い・さ・い」

 制裁マッチだと勘違いされている。
 本当にどうする?これ?
 と頭を抱えていたが、それもいらない危惧に終わった。

 この広いフィールド。透明のリング。
 その対角線上に新たに、アバターが現れた。
 この場所に現れたという事は間違いなく、春日あかりのアバターに間違いはない。

 

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